「ふっ・・・・・・うぅ・・・くっ」 何時までこんな、泣いてばかりの日々を過ごすのだろう。 会いたい。 ねぇ、今何処にいるの。 もしもう一度あなたの会えるなら この身が朽ち果てたっていい。 「お嬢サン、何をそんなに泣いているんですカ?」 「・・・・・・会いたいの。会えるなら、この身がどうなったっていい!とにかく会いたいの・・・・・・」 「その願い、叶えてあげましょうカ?」 私はその奇妙な男の言葉を承諾した。 身が滅びていく。 でも、またこの世に戻って来られるから別にいい。 私はあなたが私の元に来るまで 何人でも何十人でも犠牲にして 殺し続けるから。 アクマになって。 あなたに会えるなら あなたの敵である、アクマになっても良かった。      哀感アンチテーゼ 「神田君、任務が終わったばかりのとこ悪いんだけど、また新しい任務に行ってくれないか」 任務明けで疲れていた神田は、いきなりコムイに呼び止められたので、振り返ると同時に それで人一人くらい殺せそうな眼光で睨み付けた。 だが、コムイは物怖じともせず話ををし始めた。 「イノセンス関係じゃないんだけどね。・・・アクマが出たんだ。探索部隊が何人も殺された・・・・・・探索部隊だけじゃない。一般市民達もだ」 「・・・・・・分かった」 神田は内心面倒くさがりながらも、これ以上被害を拡大させてはならないという 本人も気付きにくいほど小さな使命感に襲われ、即OKした。 「俺一人でか?」 「うん。一人が嫌ならアレン君でも付け「俺一人で良い」 「そ・・・・・・まぁ、頑張って」 向けられた瞳には、何故か憂いが含まれていた。 「?当然だ」 神田はすぐさま出発した。 一人の探索部隊と合流して、目的の場所を目指す。 それを見送ったコムイの後ろで、三つの足音がした。 「兄さん、何故神田を一人で行かせたの?」 「そうさ。だってそいつ、進化してんだろ?しかも、綺麗な女の子の姿!何で俺も 一緒に連れてってくれなかったんだよ―」 「彼女のご指名だからね」 「指名?」 皆の疑問を言語化したアレンの言葉に、コムイはさっき神田に向けたのに似た 憂いを含んだ微笑を浮かべた。 「うん。彼女・・・神田君が倒しに行ったアクマのご指名。探索部隊が最後の力を振り絞って かけてくれた電話越しに聞こえたんだ。『来て・・・早く来て、ユウ』ってね」 その話に、皆は恐怖すら覚えた。 アクマである彼女は神田の一体何なのだろう。 そして 神田は生きて帰って来るのだろうか。 結果が出るまで、安眠できそうもなかった。 一人の探索部隊に連れられ、来た街は、神田の見知った街だった。 住んでいたわけではない。 ただ、知り合い・・・・・・・・・大切な人がいる街。 そいつがアクマの餌食になっていなければ良い、と願いながら 探索部隊を急かして目的地へと急ぐ。 そして着いた場所は 大きな集会場のような場所だった。 入り口から廊下、廊下からただ一つあるだだっ広い部屋へと まるで道標のように死体が並んでいる。 若い女性から初老の男性、もちろん探索部隊もいた。 神田はその無惨な光景に顔を顰め「ちっ」と舌打ちをすると 廊下を走り過ぎながら六幻を発動し、人が一人通れるだけ開いている扉を 何かを発散するかのように斬った。 その瞳に映ったものは 男性が殺される瞬間。 アクマは人間の姿をしていて、手だけがドリルのようになっていた。 漆黒のストレート。 見たことのある気がする服装。 鼓動が急速する。 恐怖で汗が背中を伝った。 嘘だ・・・・・・嘘だ・・・・・・・・・! まるで自分に何度も言い聞かせるように何度も心の中で叫ぶ。 神田は生唾を飲み込み 「ヴィ・・・ア・・・・・・?」 無意識の内に大切な人の名を発した。 アクマはそれに反応し、振り返って神田をその瞳に映した。 血塗れになった服、手、顔。 「何・・・・・・故・・・・・・・・・・」 アクマの顔を見て、神田は震駭した。 アクマは酷く奇麗に微笑むと、ドリルを人間の手に戻して ゆっくりと神田に近付いてきた。 動かない、動けない。 神田の手足を動かすための脳からの信号は停止してしまい 思考回路だって止まってしまった。 頭の浮かぶのは「何故」という二文字だけ。 アクマは神田の直ぐ前・・・・・・手を伸ばさなくても触れられる位置まで来ると 優しく、神田を抱きしめた。 温もりは感じられなく、冷たい。 「会いたかったよ、ユウ」 その声は、己が愛した人そのもので・・・・・・ 「・・・っ、お前は、誰・・・・・・だ」 やっとの事で出た言葉。 それを聞いたアクマは、神田を離し、不機嫌そうに唇を突き出した。 「誰とは失礼ね。さっき、名前呼んでくれたじゃない。って」 「お前が・・・だと、言うのか」 声が震えているのが自分にも分かる。 六幻を握っている手も、拳を握り締めている手も、誰が見ても分かるほど 震えていた。 「そうよ。もう人間ではないけれど、姿も魂も記憶も、全て私」 「何故・・・何故、アクマになった!」 強く、壊れんばかりに強く握り締めた腕を見て アクマ・・・・・・は満足そうに微笑んだ。 その笑顔はもう、壊れている。 「ユウに会いたかったから」 何もかも、壊れていた。 「ずっと待ってた。一生私の側にいてくれる事は出来なくても、たまに会いに来てくれると思ってた。 ・・・・・・でも、ユウは来なかった。悲しくて哀しくて、ユウのことを想っては泣いてばかりいたの。 その時、現れたのよ。千年伯爵が。伯爵は言ったわ。私がアクマになれば、ユウは必ず来るって。 私はそう信じて、伯爵の言葉に従ったの。一つ、約束をしてね。ユウと会うことが出来るまで、人間を殺し続けるの。 ・・・ユウに会えるならどれだけ被害者が出ても良いってその時の私は思ったから、OKしたわ。 そして私はこの手で自分を殺して、自分の皮を被ったの。私は殺し続けたわ。ユウが来るまで、何人も。 ・・・・・・・・・でも、もうそれも今日でお仕舞い」 明るく微笑むと、は今にも泣きそうな顔をして 乞うた。 「殺して」 と。 「あなたの手で私を殺して。ユウ以外の人に殺されるなんて嫌。ユウは私を殺すために来たんでしょ? だったら早く、殺しちゃってよ」 体温もない、アクマなのに。 の瞳からは、一雫の涙が零れ落ちた。 「くっ・・・・・・・・・」 殺さねばならない。 でも、殺すのを躊躇う自分がいる。 彼女はアクマだ。 しかし、それを除いて・・・・・・彼女は、愛した彼女のままだった。 「お願い、殺して」 何度も乞う。 その願いは何時しか 「助けて・・・・・・こんな約束、しなければ良かった。私、自分勝手で浅はかだった。 ユウを苦しめるなんて、考えてなかった。ごめんね・・・・・・ごめんね・・・・・・・・・ ねぇ、早く解放して」 変わっていた。 万謝と痛哭へと。 神田の瞳にも、涙が溜まっていた。 「・・・っ・・・・・・」 「ねぇ、最後に言って。好きって」 「・・・・・・好きだ・・・・・・心から愛していたからこそ、お前は俺の事を分かっていてくれているから大丈夫だと、 会いに行かずに任務に専念していた。すまない・・・寂しがっていることに気付かなくて」 「良いよ。その言葉が聞けただけで、十分だから。・・・・・・じゃあ、ユウ、ばいばい。 好き。好きだよ。ユウ・・・・・・・・・ずっと一緒に、いたかった・・・・・・・・・」 悲しみを堪えて瞳を強く握ったら、涙が零れてしまった。 それで良い。 殺す瞬間を、見なくて済むから。 神田はそのまま 六幻で彼女を 突き刺した。 「ありがとう」 消えていく瞬間に、聞こえた言葉を合図に やっと瞳を開くと そこに彼女の姿はもうなく あるのは大量の死体だけだった。 六幻が、手から落ちる。 神田はその場に力無く座り込んだ。 「・・・・・・」 名前を呼んでも、もう帰ってこない。 彼女をアクマにしたのは自分が原因で そしてこの手で彼女を殺した。 「・・・・・・・・・・」 もう一度呟くと、神田は袖口で涙を拭うと 立ち上がって歩き始めた。 涙の痕は残っているが、何時もの表情で。 イノセンスを宿す者。 神に見初められた者。 彼らはどんな辛いことがあっても 自力で這い上がって戦い続けなければならない。 それを彼は良く理解していたから 自力で立ち上がって、歩き出した。 胸に開いた、大きな穴を隠して。 しかしそれも、徐徐に塞がっていくことだろう。 この先は険しく きっと 悲しみに浸っている暇など、なくなってしまうから。 この道を選んだのは この俺自身だ。 彼は、分かっている。 分かっている。 分かって、いる。 「・・・・・・分かっているつもりだったんだ」  ++++++++++++++++++ 初Dグレです。悲恋です。 アクマの作り方とかけっこう無視しちゃってるけど、まぁ良いかな・・・と。 神田が書きたくて、前にブログで書いた主人公ではなく 短編の神田が書きたいなと思っていたら、浮かんできました。 主人公がアクマ設定。 書いてて何だか少し感情移入してしまって・・・・・・ 私的に、けっこう良く書けたほうだと思います。あくまで私的に・・・・・・ ご感想、頂けたら光栄です。もっと頑張っちゃいます!
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