貴方様のため、惜しからざりしこの命 ここは日本。 星雲、星辰、弓張り月。 皆美しく輝いているのに、地は霞に覆われていた。 その中を歩く一人の少女を、月影がほんのり照らしている。 少女は番傘を片手に、酒瓶と食料をもう片手に持っていた。 赤い振袖。 まるで絹のように艶やかな漆黒の黒髪は、結われることなく流され 腰下で真っ直ぐに切りそろえられている。 その時、茂みから音がした次の瞬間 何かが少女に襲い掛かった。 人ではない。 全身鋼鉄の鎧で覆われたような、化け物。 まるで機械玩具(ロボット)のようだ。 少女は瞬時に身体を捻り、勢いをつけて番傘を振るった。 「レベル3・・・・・・」 と小さく、蚊の鳴くような声で呟いて。 襲ってきた化け物は、少女の一撃によりあっけなく壊れて消滅してしまった。 それを合図にするかのように、次々と化け物は襲ってくる。 化け物・・・・・・・・・アクマ! 千年伯爵に作り出された、元は人間である、兵器。 少女は物怖じすることなく、どちらかと楽しんでいるようだ。 「弐―の、参、と四と五」 まるで謡うかのように倒したアクマを数えていく。 「六の七の〜・・・・・・八、と九」 九匹倒し、少女を襲ってくるアクマはいなくなった。 その代わり、少女の前に、一人の青年が立ちはだかった。 「やってくれるじゃねーか」 それは人間だった。 くせっ毛の黒髪を後ろで纏め、額には傷のような十字の模様。 肌は茶褐色。 少女は青年を視界にいれると、酷く綺麗に微笑んだ。 霞が消えていき、月明かりで少女の乳白色の肌が映える。 「貴方・・・・・・人間なのに、敵ですのね。悲しいわ・・・・・・傷つけなければならないなんて」 少女を纏う空気が一瞬変わった。 風が震えるように吹き、桜の花弁が狂気するように舞い散った。 「それはこっちの台詞だ。お前みたいな可愛い子を、殺さなければならねんだな」 見詰め合って、葉がひらりと一枚、二人の間に落ちた。 それを合図に、少女は番傘を振るい、青年は素手を振るって少女を襲った。 少女はまるで獲物を獲る鳥のように舞い飛ぶように青年の背後を取り、膝で青年を押し倒し、 地に付いた衝撃で歪ませた顔すれすれに番傘を刺した。 「はい、一本。貴方はこれで一度、死にました」 にこり、と微笑むと、少女は地を蹴って空中で宙返りをし 彼に背を向け立った。 「思ったほどではないのですね」 そう、残念そうに呟いて、帰路を急いだ。 次の瞬間、青年は立ち上がり 「敵に背を向けちゃいけないんだぜ!」 少女の襲い掛かった。 だが、少女は青年がそうしてくることを予期していたように番傘を振るって 青年を制した。 今にも顔面に番傘に先が当たりそうだ。 「分かっています、そのくらい。けれど、貴方に背を向けたくらいで、殺られる私ではありませんから」 と、少女はまた、青年に微笑むと 番傘を少し引いて、青年に突きつけた。 勢いをつけて突いたわけでもないのに、青年は飛ばされ、数メートル後ろの木にぶつかり、力無い様にだれた。 「今日は急いでいるのでここまでにしておきますが、今度は容赦しませんから。 貴方があの方の敵ならば、貴方は私の敵。この世から抹消せねばならぬ存在なのです」 そう言い残すと、荷物を抱え、小走りで駆けていった。 青年の名は、ティキといった。 ティキは悔しそうに腕で目を覆い、楽しそうに笑い始めた。 「殺す」 その低く悦な声は、闇に響いて、消えた。 顔を悔恨で歪ませ、拳を地に打ち付ける。 「くそっ・・・・・・・・・」 この心に纏わり突く感情は何なのだろう。 少女に対して生まれた感情。 名を付けようとは思わない。 それは禁忌。 青年と少女は敵同士なのだから。 少女は一件の家に入ると、その家の主である男の元へ駆け寄った。 入ってきた襖の前に荷物を置いて。 「クロス様!」 主に忠実な子犬のような少女を、男――クロス・マリアンは抱き寄せた。 「遅かったな」 「すいません・・・・・・邪魔が入ってしまったもので」 「そうか。無事で良かった」 「クロス様、何時もそうおっしゃいますね。大丈夫に決まってるではありませんか。 貴方様が下さったこの力で、私は今のところ無敵でございます」 少女は嬉しそうにクロスの首に抱きついた。 「あまり油断するな」 「分かっております」 「俺より先に死ぬ事は許さない。共に世界の崩壊を食い止めるぞ」 「えぇ。そのため、この命、貴方様のためなら惜しくありません。どうぞお好きにお使い下さい」 「そうじゃなくてな・・・・・・」 クロスはわざと、大きくため息をついた。 少女は何故ため息をついたのか、理由が分からず首を傾げた。 「どうなさいました?お疲れですか?」 クロスは少女をぶっきらぼうに離すと、困惑する少女の片手を取り 口付けた。 吸い付くように。 その表情は何故か苦しそうで、少女も顔を歪ませる。 「クロス・・・様・・・・・・あ。―――― クロス様ッ!」 クロスは少女を畳みの乱暴に押し倒し、覆い被さるように少女を抱え込み 耳に口付け、細い首に口付け、鎖骨に口付け 最後に紅い唇に口付けると、魔が取り払われたように荒く呼吸した。 幾つもの痕が、少女の身体に残る。 「お前の命はお前のものだ。俺のものじゃない。俺は世界の崩壊を食い止めるために お前を兵器同然の扱いをし、死に行かせようなどと微塵も思ってねぇ。 ずっと俺の傍にいろ。死ぬ事は許さない」 どうしてそのように苦しげに顔を歪ませているのですか。 それは、私の所為? 刹那、押さえ込んでいた感情が 水風船が弾け飛んだように己の中に充満した。 自分はこの人の僕なのだからと、存在に気付いていながら 名を付けずにずっと無視し続けてきた感情。 少女はほろり、と大粒の涙を一雫落とすと 抑えきれない感情を押し出すかのように クロスの唇に己の唇を強く押し付けた。 いきなりの事で、クロスはこれ以上開かないという程、目を見開いた。 「ずっと貴方様のお傍にいます。いさせて下さい!名を付けてしまった感情はもう止まりません。 私はクロス様に、恋慕の情を抱いてしまったのですから・・・・・・。」 その言葉を聞き、クロスは胸中に渦巻く黒く澱んだ塊が一気に消え去った気がした。 少女を抱き寄せて、華奢な身体を壊れんばかりに強く抱きしめる。 「愛してる」 少女の涙は止まらず、言葉を発せないほどの洪水。 代わりに少女は、クロスの背に手をまわし、抱きしめることで答えを渡した。 「お前と共に生きていきたい・・・・・・世界のためとか、んな綺麗事は嫌いだ。 俺はお前と俺のために、世界の崩壊を止める」 「はい」 詰まった声で小さく頷く少女をクロスは一度、厭々離し、己の服の袖で 涙を拭ってやった。 「次に泣くのは、勝利を収めたときだ」 「はい」 小さく鼻を啜って、少女は酷く綺麗に微笑んだ。 あの時、ティキに向けた微笑とは比べ物にならないくらいの。 些些の沈黙後 誓いを立てるように 二人は口付けた。 生きて、世界の崩壊を止め 未来のお互いが隣で共に笑い合える 幸福を願って。 「愛しております」 「分かっている」 微笑する少女を抱きかかえ立ち上がる。 「もし俺がお前を壊したら、お前は俺を嫌いになるか?」 少女は言葉の意味が理解出来ず首を傾げたが、優しく微笑んで 「貴方様をお嫌いになる事など絶対にありません。貴方様に捧げた身、どうぞご自由に・・・・・・貴方様のお好きなようになさって下さい」 この先に待つ事が、もう離れられない苦痛の契りだとも知らず。 少女は全てをクロスに渡した。 クロスは切なくも愛しい少女に口付けて、襖を開いて隣の部屋へと入っていった。 パタン、と襖を閉める音がして さっきまで二人がいた部屋は、静寂に包まれる。 静寂を破って 少女の嬌声が、こちらの部屋まで届いた。   ++++++++++++++++++ ふっ、とクロス様が浮かんできてけっこう短い時間で書けたものです。 クロス様の言葉遣いが良く分かりません(汗) 和風で色気のある作品を目指したのですが・・・・・・ 色気があるというより、ちょっぴりエロい??? 難しいものですね。 私に色気がないから?! ティキを出したのは 本当は初め、ティキVSクロス様にしようかと思ってたのですが 何故か、ティキは脇役へ。クロス様の引き立て役ですね・・・・・・ まぁ、クロス様ですから(笑) 一応、これの続き(?)を書いています。 いかがでしたでしょうか? 名前変換はあった方が良かったでしょうか?
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