母にいわゆる〈良い人〉が出来たことはなんとなく知っていた。 何時か母がその人と結婚すると決めたとしたら、私は心から祝福しようと思った。 でもね、何でよりにもよって 私の〈好きな人〉のお父さんなの? 義理兄妹 ずっと近づきたいと思ってた。 あの人は遠くの人で、私にとっては高嶺の花。 届かないと思って、でも好きで。 見ていられるだけで良かった。 結局、三年間同じクラスになれなかった。 でも、こんな感じで〈近づく〉のはどうかと思う。 私のお母さんの再婚相手が、あの跡部君のお父さんだったなんて……! お母さんが再婚して、私は幸せだよ。 私がちっちゃい頃にお父さん亡くして、女手一つで今まで育ててくれたんだもん。 少しくらい休んだっていんじゃない?って思ってたから。 でもね、私、跡部君のことが好きなの。 中学の入学式のときから。 他のみんなとは纏っているオーラが違う彼に惹かれたの。 今思えば一目惚れだったのかもしれない。 そんなの別にどうだって良い。 今の私の気持ちが分かっていれば。 お母さんがどうやって跡部君のお父さんと出会ったかは知らない。 聞いても幸せそうに微笑まれるだけ。 出会って、お互い愛する人を亡くしたことを知り、何回か食事をする度に お互い惹かれていった……というのは聞いた。 傷の舐め合いじゃないのよ。ただね、お互い似た境遇で、考えも似ていて、一緒にいて居心地が良かったの。 何時かの母が言っていた。 幸せそうなお母さん。 ねぇ、私はどうすれば良いの? 確かに幸せだよ。 憧れだった跡部君と話せるようになって、一緒に帰ったりご飯食べたりテレビ見たり。 近づけたの。 近づけたからこそ、人はもっと欲がでてしまうの。 今の私は、跡部君の〈彼女〉になりたいとまで思うようになっていた。 ・・・・・叶うはずないけどね。 所詮私達は義理兄妹。 血の繋がりはないから結婚は出来るんだろうけど、そのずっと前の段階に私は踏み込めない。 〈同学年生〉から〈家族〉になって、笑い合う仲になった。 それだけでも十分だと思わなければ。 今日は休日。 私は遅めの朝食を一人で取っていた。 時計を見る。 「跡……景吾君、遅いですね」 時計はもう10時を指していた。 何時もの彼なら有り得ないことだ。 「そうですね」 お手伝いの方が頷く。 シンプルなんだけど豪華な朝食。 洗練された食器に、食堂のテーブルくらいの長さはあるだろうと思われる白を基調をした アンティーク風のテーブル、周りにいるお手伝いさんの方々。 お金持ちの生活にはまだ慣れないでいた。 「私起こしてきます」 と立ち上がったら 「お嬢様!そのようなことを私どもがなさいますので、お嬢様はごゆっくりなさって下さい」 引き止められた。 私は小さく息を吐いて、お手伝いさんに微笑みかける。 「お嬢様って言うの止めて下さいって言ってるじゃありませんか。私はお嬢様なんかじゃない、 ただの一般人なんですから」 「ですが・・・」 「ね」 もう一度微笑みかけた。 「・・・・・・畏まりました」 「じゃあ、行ってきます」 「行ってらっしゃいませ」 赤絨毯の敷かれた、捻じ曲がった階段を上り、私は跡部君の部屋の扉の前に立った。 大きく深呼吸をして・・・・・・部屋をノックする。 返事はなし。 そ〜っと扉を開けると、布団は盛り上がっている。 どうやらまだ寝ているようだ。 ちょっとどきどきするけど、私は恐る恐る跡部君に近づいた。 部屋には何回も入っているから大丈夫。 「景吾君?」 跡部君は顔まで布団を被り寝ていた。 寝息も何も聞こえない。 静寂に包まれた空間。 自分の呼吸が良く聞こえる。 心臓の音も。 速い。 「景吾君?」 さっきよりももう少し声を大きくして呼んでみた。 そしたら 「きゃっ!」 腕を掴まれて、今、私は跡部君と同じベッドの中にいる。 跡部君に強く抱きしめられ、身動きが取れない。 息すら出来ない。 「あっ、あの・・・」 「」 耳元で囁かれる名前。 「お前は親父とお前の母親の再婚をどう思ってる」 いきなり問われた質問に、私は答えられなかった。 頭は〈考え〉ということを出来ぬ状態。 「俺は、良かったと思う。だが、して欲しくなかったとも思ってる」 何故こんな話をするのか。 意図も何も捉えられない。 分かるのは、彼の温もりだけ。 「・・・・・何、で?」 やっと出た声。 彼は答える。 「お前に近づけて良かったと思う。でも、お前に近づきすぎて嫌だと思う」 「・・・・・・え?」 今のは空耳、それとも嘘? 私と同じこと思ってたの? 「お前に近づきたかった。叫んで応援をする女の中に、一人だけ手をギュッと握って心の中で応援をしていたお前に。 中2の秋大のときにお前の存在に気がついて……一目惚れだったのかもしれない。つまり、俺はお前が好きだ………お前は?」 もっと力を込めて私を抱きしめる。 答えるまで離さないというように。 この気持ちを話したら、もっと強く抱きしめてくれるのだろうか。 「・・・・・・私も・・・ううん、私の方がずっと近づきたいと思ってて、ずっと好きだった。入学式のときから」 跡部君は布団を少し剥いで、私に覆い被さるような状態になった。 さっきより近くはない。 温もりも何も伝わってこない。 でも、彼の顔が良く見える。 「俺達も結婚しようぜ?」 「え?」 「もうすぐ結婚できる歳だろ?親父達に話して婚約して、俺の18の誕生日に結婚する。 良い考えだろ?」 「えっ、ちょっ、待って!」 彼の突飛な考えに私は待ったをかける。 「何だ?気に食わねぇのか?」 「そういう意味じゃなくって・・・気が早いんじゃないの?」 「俺は絶対お前以外を好きにならない!」 「うん、私も・・・でもさ、私達まだお互いの気持ちを知り合っただけなのよ。 だからもうちょっ・・・ん・・・・・!」 いきなり唇を奪われて、私は目を瞑ってしまった。 濃厚な、キス。 私にとってはファーストキス。 ゆっくりと唇が離され、目を開くと、彼は勝ち誇った笑みを浮かべていた。 あの試合で勝った時のような。 「じゃあこれから毎日確かめ合おうぜ。今まで以上に話して、お互いのことをもっと知る。 何もかもな」 私は微笑んで 「そうね」 彼の考えに同意した。 「でも、嫌だからね」 「何がだよ」 「考えてることばればれよ。男の子ってみんなそうなの?」 「うっ・・・何で分かったんだよ!」 「なんとなく」 「ったく・・・じゃあ初めは」 耳朶を噛むように囁かれる。 「景吾って呼べよ」 「えっ?」 「お前まだ時々〈跡部君〉って呼ぶだろ?俺はって呼んでるのに」 「だって・・・・・・」 「これからは〈景吾〉だからな。そう呼ばなきゃ返事しねぇから」 「何で?!」 「俺が決めたんだよ。ちゃんと呼べよ、名前」 口端をあげて笑う彼を見て、少しだけ体温が上昇した気がした。 恥ずかしがりながら 「・・・・・景吾」 小さな声で呼んでみたら、また唇を奪われた。 今度は触れるだけの軽いキス。 「何だ?」 「景吾が呼べって言ったんでしょ?」 「俺が何だって聞いたんだから何か言えよ」 しばし考え、私は思い出す。 「じゃあ景吾」 私は起き上がった。 「朝食を食べましょ?あなたを起こすために、朝食を中断してきたのよ」 「・・・・・あぁ」 彼は優しく微笑んで、私の瞼にキスを落として ベッドから降りて、私に手を差し出した。 「行こうぜ、」 「うん」 私はその手を取って、ベッドから降りた。 繋いだ手を離さないで。 例え誰かに見られて不審がられても。 私達が義理兄妹関係だとしても。 私を愛してくれているなら。 この手だけは、離さないで。 私は絶対に離さないから。 ++++++++++ パッと浮かんでバッと書きました。 思ったよりも長くなり、睡眠時間が減りました・・・次の日学校だというのに; 久、跡部s夢です☆ BACK