BACK薄暗い道で二人きり。 周りには誰もいない。 これって、チャンス!って男だったら普通思うだろ? 少なくとも俺は思った。 リップクリーム だから、彼女の肩を掴んでキスをしようとした。 もう少し、あと少し・・・・・・ だったのに 「だぁ〜め」 彼女は俺の唇を指で押す。 拒否られた! ショックで沈んだ。 「何でだよ・・・」 弱弱しく言ったら 「唇、ガサガサじゃない。そんな唇の人とはキスなんてしない」 大ダメージ。 部活で体力を消耗し、この言葉で精神力を大幅に消耗した。 拒否られたことと、唇を指摘されたことでダブルショックを受けた俺は 沈みに沈んでいた。 それを彼女は慰めようとせず、鞄から出したポーチをごそごそと漁っている。 俺達・・・・・もう潮時なのか? まだ一ヶ月じゃん!! 告ったのは俺からだったけどOKしてくれただろ? ちょっと待った! 別れるのはまだ早いよ!もうちょっと考え直してくれぇーーーーーーー!! 「あった」 「え?」 沈んで、混乱していた俺は疑問符をあげる。 彼女を見ると、手に何かを持っている。 そしてそれを俺に差し出した。 「何これ」 「メンソレータムのリップ。これなら男の子でも使えるでしょ?」 反射的に出した手に、彼女はリップクリームを落とす。 ふつ〜の、あの緑色の薬用リップ。 これをどうしろと? 俺はそのリップクリームをまじまじと見つめた。 そしたら彼女は笑いながら 「つまりね」 俺からリップクリームをとり、蓋を開ける。 回すと白い筒状のリップが見え、残りはあと少し。 でもリップって終わんないんだよな、なかなか。 そんなことを考えていたら、いきなり彼女に肩を掴まれた。 彼女は背伸びをし、俺にリップクリームを向ける。 「な、なんだよ」 「じっとして」 言われた通りにじっとしたら、唇に感触。 キスではない。 すーっと鼻に貫けるミントの香り。 つまり、彼女にリップクリームを塗られた。 ・・・・・・・・あれ? このリップクリーム、使いかけじゃなかったっけ? つまり・・・・・間接キスっ!! 少々興奮気味の俺に、彼女はリップクリームを渡す。 「これを使い終わるまで、キスはお預けね」 「・・・・・え?えぇーーーーーーっ!!そりゃねぇーよ」 「だったら頑張って使いましょう」 後ろで手を組んで、彼女は歩き始める。 俺はそれを慌てて追いかけた。 右手にはリップクリーム。 彼女の唇を手に入れるために、ぜってぇー終わらしてやる! と、意気込んだものの。 一週間経ってもリップは終わらない。 元々少なかったけど、リップってそう簡単には減らねぇじゃん。 あと少しなんだけどなぁ・・・・・・。 ハァ。 ため息をついたら 「どうしたん、桃〜。この頃元気ないぞ」 英二先輩に声をかけられた。 ちなみに今さっき部活は終わった。 「あー、ちょっと、はい・・・」 「何々〜、もしかして彼女のことで悩んでんの?」 「あー、まー、はい・・・そんなもんっす」 俺の元気のない答えに英二先輩は「むぅ」と唇を突き出し、近くにいた不二先輩等を 捕まえて 「ねぇねぇ。何か桃、恋の病にかかってんだってー」 とか言ってるけど、俺は無視していた。 その時 「桃―――っ!」 俺を呼ぶ声。 今、俺を悩ませているきっかけをつくった奴の。 「ほら、桃!彼女が呼んでるよ!」 英二先輩がテンション高めに俺に言う。 分かってますって。 俺は彼女の方へと向かう。 「一緒に帰ろ」 「あぁ」 「ん?何か元気ないぞ」 下から俺を覗く。 可愛いけど、ちょっと憎たらしい。 「あぁ」 「もしかして、キスのことまだ気にしてる?」 図星。 俺は黙った。 「顔に出てるよ」 笑われ少しむっとする。 「じゃあ、待ってるから」 彼女は校門へと走っていった。 短いスカートが揺れる。 髪と一緒に。 右へ左へ、ひらひらと。 危ねぇな・・・と思いつつも言う気はしない。 くそぉ〜・・・・・・。 なんとしても、早くあの唇を俺のものにしてやりたい。 欲求は消えることがない。 どちらかというと増えに増えて止まらない状況。 こうなったら 俺はリップクリームを取り出した。 そして、やけになったかのように唇に塗りたくる。 リップクリームが減っていくと同時に、唇はべとついていく。 「桃、何してんの?」 「早くこれを終わらせるんす!」 「ふ〜ん」 変な桃〜、と言われた言葉は無視。 そして 「終わった!」 あと2ミリほどでていたリップはもう、 塗ることが出来なくなった。 よっしゃぁ! 小さくガッツポーズをして、俺は部室を飛び出す。 「早かったね」 校門で待っていた彼女は微笑む。 「!俺やったぞ!」 「何が?」 疑問符をあげる彼女の手を掴み歩き出す。 さすがにここじゃ言うの恥ずかしい。 人気のないところまで来て、リップクリームを彼女に突き出す。 「もう、終わったの・・・?」 彼女はそれを受け取り開けた。 「嘘・・・・・」 俺の唇に指を伸ばし、触る。 べとり。 彼女に指先にリップがついた。 「もう・・・そんなにキスがしたいの?塗りすぎは良くないのよ」 呆れ気味に笑って、鞄からティッシュを取り出して俺の唇を拭く。 「しょうがないな〜・・・」 全てを拭き取ると、彼女はまたポーチを取り出し漁りだした。 もしかしてまた初めから?! そう思ったら、彼女は可愛いリップクリームを取り出して自分の唇に塗った。 な〜んだ、とホッと胸を撫で下ろした瞬間。 唇に、感触。 リップクリームではない。 これは、彼女の唇。 彼女ははにかんで 「一応約束だしね」 そう言って、歩き出した。 俺も隣を歩き出す。 「もう一回!」 「だ〜め」 「あんな一瞬じゃ物足りねぇーよ」 「危険な発言は慎みましょう。欲求不満がばればれよ」 不貞腐れる俺の顔を見て、彼女はくすりと笑って言った。 「また明日ね」 +++++++++ ギャグ入りですね(笑 これは、リップクリームを見て思い浮かびました。 空気が乾燥しだし、リップクリームは手放せません!