「おはようっす」 「おはようございます」 「二人ともお早う・・・・・あら、少佐は」 二人と一緒に来るはずのの姿がなく、ホークアイは疑問符をあげた。 「あぁ、なんか忘れ物したらしくて取りに戻ってます」 「何を忘れたのかしら」 ホークアイは、小さく首を傾げた。 「少佐に変わりはなかったか」 書類から視線を離し、ロイは問う。 「あぁ、まぁ。元気ないって言えば元気ないけど、笑えてたし」 「そうか・・・・・・」 少し考えて、ロイは「ん?」と思った。 これまで少佐は忘れ物をしたことがあっただろうか。 いくら禁忌のことがあったとしても、そんなへまをする人ではない。 ここ数日のの表情や行動を思い出し、ロイは思った。 もしかして・・・・・・・・・・ 嫌な予感がした。 六感に走る寒気。 次の瞬間、ロイは椅子から立ち上がっていた。 「大佐、何処へお出かけになるんです」 「すぐ戻る!」 ただそれだけ言って、ロイは走り出した。 この予感が外れていれば良いと、心の中で強く願いながら。     〜愛しき人よ〜 勢いで家に戻ってみたけれど、どうすれば良いのだろう。 「本当にここで死んでしまって良いの」って思ったけど、それは直ぐに 「生きていたってどうするの」という考えに変わった。 本当はこんなに長く生きている必要はなかったの。 お父さんに殺されそうになった日に、死んでいれば良かったのよ。 もしものために軍服の内ポケットにいれておいた小さな銃を取り出す。 まさかこんな〈もしものため〉に使うなんて思ってなかった。 狙うのは心臓?それとも頭? 迷うなら両方に撃ち込めば良い。 禁忌で痛みを伴わなかったぶん、苦しめば良い。 苦しんで苦しんで、全てを終わりにしよう。 銃口を胸に当てたその時。 ドアの開く音がした。 「誰?!」と思って、ドアの方を見るとそこには 「大佐・・・・・なんでここに」 「まさか、予感が当たっているとはね」 見られたことで動作が停止した。 少し息を切らしながら、大佐は私に近づき、銃を奪い取った。 「返して下さい!」 私は立ち上がってそれを取ろうとするが、上へとあげられてしまい、ジャンプをしても私の背では取ることが出来ない。 「駄目だ」 大佐はそれを自分の軍服のポケットにしまうと、へたりと座り込んだ私の前に膝立ちをし 「なぜこんなことを・・・・・・」 上から大佐の声が聞こえる。 「・・・生きていたってしかたがないんです、生きている意味がないんです!・・・・・・夢は、なくなりました」 「夢?」 問われて何時もの私なら、しばし考えるか何も言わないのに。 このときの私はどうしたことか、話し始めた。 まるで壊れた蛇口のように、どんどん言葉が流れ出てくる。 「お父さんに殺されそうになった日から、私は暖かい家庭を夢みてたんです。どんなに仲が良くたって、 血の繋がりのない幼なじみ達の家の本当の家族にはなれなくて・・・・だからずっと夢見てたんです。 暖かい家庭を・・・・・・でも、それはもう叶わないんです!」 軍服をぎゅっと握った。 「・・・それだけで君は死を選ぶのか」 「大佐にとってはそれだけのことかもしれませんけど、私にとっては大きなことなんです! ・・・・・・私、馬鹿なんです。真理が嘘を付くはずがないのに、本当は何も取られてないんじゃないかって思っていました。 夢は、消えないんじゃないかって。でも、消えていたことに気付いて、それと同時に気付いたんです。 私を一番に必要としているものは何も、誰もいないってことに」 私は笑う。 割り切った微笑。 もう、どうでも良いという笑い、自嘲。 今にも壊れそうで。 今にも何処かへ行ってしまいそうで。 守りたくて、愛しくて。 ロイはを抱きしめた。 「・・・・・私には君が必要だ。誰よりも必要なんだ」 「えっ・・・・・・?」 いきなりのことに、は驚き疑問符をあげる。 でも、嘘だと思って笑う。 「嘘つかないで下さい」 「嘘じゃない。私は君が好きなんだ・・・」 「十歳以上も年下の私を好きになるわけがないじゃないですか。そのくらいの嘘じゃ騙されませんよ。 馬鹿にしないで下さい」 「・・・私も初めはそう思った。十以上も年下で、年齢から見ればまだまだ子供の君を好きになるのはおかしい、と。 でも、私は君が好きなんだ!だから、お願いだ・・・・・・・死なないでくれ」 「・・・・・・そんな」 「嘘よ」と言わんばかりのまだ信じられないという表情をする。 ロイを見つめる瞳。 そこから〈絶望〉の文字は消えていた。 あるのはただ〈驚き〉だけ。 「・・・・・・君が死ぬというなら、君と一緒に私も死のう」 一度抱きしめるのを止め、の肩を掴み、ロイは真剣な表情で言った。 も真剣な表情になる。 「駄目です!あなたは総司令官ですよ。あなたが死んだら東方司令部はどうなるんですか?!」 「そんなの私の知ったことではない」 「そんな身勝手な・・・・・・」 「だったら君の行動も身勝手だろう。君も副司令官ではないか。夢はなくなったかもしれない。 だが、君を必要としている人達はたくさんいるんだ。その人達の想いを君は無視するのか?」 「それは・・・・・・」 「一番とか、数字で自分の生きる価値を示すのか?君はそういう人か?・・・・・・・・いや、違う。 君はそんな人ではない」 「私・・・・・・・・・・」 「お願いだから、死ぬなんて馬鹿なこと言わないでくれ!」 ロイはまた、さっきよりも強くを抱きしめた。 の華奢な体を。 壊してしまうくらい強く、優しく。 「禁忌を犯して子供を産めなくなったくらいで死ぬなんて。鋼の達を思い出せ。アルフォンスなんて自分の体を 全て持っていかれても希望を忘れずに毎日を生きているではないか。生きてくれ。皆には・・・・・・私には、。 君が必要なんだ。大切なんだ。愛しているんだ。だから・・・・・・」 体に、水の気配を感じだ。 首筋が濡れている。 雨ではなくて、大佐の〈涙〉 大佐の涙につられ、私も泣いていることに気がついた。 零れるはずのない涙が、私の瞳を潤わせた。 大佐の言葉が雨となって、私の乾いた心を潤わせた。 「・・・はい」 答えるように、私も大佐の背中に手を回す。 「・・・・・・生きてみます。持っていかれたものを、取り戻す努力をしてみようと思います」 「そうか」 「でも、大佐の想いへの答えは保留にしておいて下さい。何時か、好きになる日がきたとしたら、 自分から言いますから・・・それまで・・・・・・」 「あぁ、待っている」 私達は少しの間、そのままでいた。 大佐の涙は止まったが、私の涙は一向に止まらない。 九年間の涙を全て流すかのように。 涙は流れ続けた。 大佐はそれを受け止めて、拭って、囁いた。 「好きなだけ泣くが良い。私はずっとここにいるから」 失ったものは大きいけど、得たものも小さくはないのかもしれない。 大佐の想いには当分答えられそうにはないけど、振りたくもないと思っている。 死ぬなんてことを考えるのはやめよう。 きっと、ショックで頭がおかしくなっていたんだと思う。 それを大佐が治してくれた。 もう大丈夫だから。 大丈夫だよ。 乾いた心に雨が降り、それは川となって瞳から流れ落ちる。 これは、過去の呪縛から少しだけ解かれた証拠。 開いていたように見えて閉ざされていた心が、少し開いた証拠。 心に光が灯って、暖かくなった。 それはまるであの日のように。 お父さんと笑い合った日を思い出させてくれた。 切なかったけど、逆に嬉しくもあった。 思い出は色褪せない。 良い思い出も悪い思い出も、時が経てば皆「思い出」となる。 この禁忌も「思い出」となるように。 一日一日にしっかり足跡をつけよう。 そしていつか 夢が叶いますように。 大佐の服越しの体温を感じながら、心の中でそう願った。 罪は消せない。 どんなに頑張っても、一生。 後戻りは出来ない。 開いた傷口は塞がらないけど、ぎゅっと抱きしめるから。 いつか〈罪〉はとても薄いものになるかもしれない。 そうであると、思いたい。 願いたい。  +++++++++ これで、「消せない罪」は終わりですが、このあと番外が少しあって、新シリーズにいきます。 そちらも宜しくお願いします。 新シリーズではもっと大佐だします! だしたいんです! この夢を気に入っていただけましたか?→
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