好きになっていた。 でも、届かないと諦めていた。 太陽に、手を伸ばしてみる。 見捨てないで。 一人にしないで。     〜太陽が輝き始める頃〜 もうすぐ、今学年最後の学期末試験が始まる。 もうすぐといっても、まだ一ヶ月はある。 しかし、最高学年七年生と来学期から最高学年になる六年生にとっては 〈まだ〉ではなく〈もう〉一ヶ月しかなかった。 勉強に追われに追われ、心身共々疲労が激しいこの頃だ。 は前の試験の穴を埋めるべく、必死になって勉強をしていた。 教師付きでだ。 今日も彼女はその〈教師〉の所で勉強をしていた。 「先生、質問宜しいでしょうか」 「何だ」 差し出された参考書を、専用教師=セブルス・スネイプはいつも通り眉間に皺を寄せながら読み始めた。 そして「ここはだな・・・」と説明し始める。 彼女はグリフィンドールの容姿端麗成績優秀、多くの生徒に尊敬されている生徒。 一方彼は、グリフィンドールの天敵であるスリザリンの寮監で、グリフィンドール生に とてつもなく嫌味嫌われていて、グリフィンドールに対しての態度も物凄く悪い魔法薬学担当教授。 今の二人の関係を知っているのは、二人の他にはきっとダンブルドアくらいだろう。 あの方は何でもお見通しだから。 別に付き合っているとかそういう意味深な関係では全くないのだが、グリフィンドールと スリザリンという肩書きが二人とその他の人達との間に壁をつくっていた。 だから二人は誰にも言わない。 秘密にするのは暗黙の了解だったから。 それはそんな日が続く、ある日のこと。 六学年の魔法薬学の授業が終わって直ぐの時のことだった。 「Ms.はいますか」 いきなり扉が開いたと思ったら、そこにはミネルバ・マクゴナガルが立っていた。 その部屋にはまだ、授業に出ていた生徒全てがいたので、皆は一斉に彼女のほうを 見る。彼も、気づかれぬように彼女のことを見ていた。 「なんでしょう。マクゴナガル先生」 彼女は少しマクゴナガルに近づき、問うた。 「お母様が御出でになっています。あなたに会いたいとおっしゃっていますので、着いて来なさい」 一瞬にして、彼女の表情と肩が強張り、無になった。 誰も気づかない。 一人を除いては。 彼を除いては。 開かれた扉。 そこには〈あの人〉がいた。 彼女の母親。 そしてその隣には彼女の〈弟〉がいた。 「すいませんが、席をはずしていただけますか」 〈あの人〉は微笑みながらマクゴナガルに言う。 マクゴナガルは「分かりました」とその部屋から去っていった。 出来れば行って欲しくなかった。 彼女は心の中でそう思ったが、言葉に出せるはずがなかった。 恐る恐る〈あの人〉と向き合う。 〈あの人〉の表情から、怒りが読み取ることができ、彼女が反射的に目を瞑った。 次の瞬間。 〈あの人〉の平手が、彼女の頬へと強く当たる。 「お姉ちゃん!」 〈弟〉が叫ぶ。 〈あの人〉は〈弟〉に「心配しなくて良いのよ」と優しく言ってから、頬を押さえる彼女に厳しい目を向けた。 「聞いたわよ、アラムに。この前の学期末試験、あなたの成績、がた落ちだったそうね。そんなに私に恥を掻かせたいの?」 彼女は何も答えない。 答えられない。 頭の中に浮かんでは消えていくのは、あの日の喪失感。 それが今、ここにもある。 「確かに、あなたはもう跡継ぎではないのだから一家には必要はないわ。でも、あんな成績をとって良いとでも思っているの?」 彼女は何も言わない、動かない。 〈あの人〉はまだ、言葉を発し続ける。 「勉強をとったらあなたには何が残る?アラムはこんなに出来が良いのに。あなたは無個性でつまらない子ね」 動かない体。 でも、今にも逃げ出してしまいたい足。 完璧は敵だ。 〈あの人〉は支配者である。 今にも壊れそうな彼女の心。 それでも〈あの人〉は、彼女の心に刺さる言葉を発すること止めない。 その時。 扉が開いた。 皆、扉のほうを見る。 もちろん、彼女もだ。 そこにいたのは 「先生・・・・・」 彼女は小さく彼を呼ぶ。 そこにいたのはスネイプだった。 「いい身分だな。己から期待しておいて、己から捨てた。それでもまだ、期待を続けると。矛盾ばかりだな」 「なっ・・・これは私達の問題です。たかが教師が口出ししないでいただけます?」 「たかが教師とは失敬な。少なくとも、貴様より彼女のことを分かっているつもりだ。 親でも言って良いことと悪いことがあるということが分からんのか。貴様が発する その言葉により、彼女がとても傷ついているということを」 「傷つく?馬鹿言わないで。私にこんなこと言わせるのはこの子が悪いんでしょ?この子が・・・」 「そう言って、己の罪から逃げようとするのか。愚かだな」 〈あの人〉は強く唇を噛み締め、彼を睨んだ。 彼女は彼がここに来てからずっと、彼から目を逸らせないでいた。 「うるさいわね!いらないのこの子は。私には・・・・・家にはアラムさえいれば良いのよ! 跡継ぎがいれば何の問題もないわ」 我慢できなくて〈あの人〉が叫んだ言葉。 それは彼女の胸へ突き刺さり、一部を破壊した。 そしてその言葉は、彼女だけでなく〈弟〉の胸にも突き刺さり、小さいながら傷をつくった。 彼は彼女の腕を掴む。 そして口元に小さな笑みを浮かべた。 「いらぬなら、我輩がもらおう」 「えっ・・・・・・」 そう言い、彼女の手を引き歩き出す。 「ちょっ、先生」 彼女が何か言いたがっているのも無視し、彼は歩く。 残された〈あの人〉と〈弟〉は複雑な心境で、彼らを見送りたくないながらも見送り、 止めはしなかった。 「ちょっと、先生。さっきの言葉・・・・・・」 彼はまだ、彼女の手を引いていた。 彼女は戸惑っていたが、握られている手は暖かく、心地よくて。 嬉しかった。 初めてな気がした。 こんな気持ち。 心が温まっていく、気持ち。 地下室を歩く彼らは、一室の扉の前で足を止めた。 彼は彼女から手を離す。 「あっ・・・」 離された手を、寂しげに彼女は握り締める。 彼は扉を開き、中へと入った。 反射的に、彼女も中へと入ってしまう。 そこには三学年のグリフィンドール生とスリザリン生がいた。 皆、二人の方を見、異質なものを見るような、驚きを隠せず目を向ける。 彼はその場からこう言った。 「今日は自習だ。我輩が戻ってくるまで、今座っている席から一歩も動くな。良いな」 そして踵を返し、彼女の隣を通り過ぎようとする。 彼女の手から、離れだした彼のぬくもり。 欲しかったものが逃げていく気がして。 彼女は無意識のうちに、彼の手を掴んでいた。 「待って」 そう、声を張り上げて。 そして二人一緒に扉から出、部屋を後にした。 残された生徒達は唖然と、彼らがさっきまでいたところを見ていた。 彼らが向かった場所は、スネイプの自室だった。 そこは、奇麗・汚いの前に殺風景な場所。 彼は入ると同時に彼女と向き合い、両手首を掴む。 「すなまい。いきなりあんなことを言って、お前の気持ちも聞かずに連れて来てしまって・・・」 「いえ、そんな・・・」 むしろ、あの場所から連れ出してくれたことを、彼女は感謝していた。 しかし、敢えてそれを言葉には出さず、少し悲しげに綺麗に微笑んだ。 「だから今問う。選びたまえ。我輩か家族か」 「えっ・・・・・・」 選べと言われても、どちらを選べば良いか彼女には分からなかった。 家族は苦手だけど、苦手と嫌いはイコールではない。 だから 「・・・選べません。家族は苦手だけど、でも嫌いじゃないんです。どこかにまだ、私の居場所がある気がするんです。 だから選べません。でも・・・・・・・・」 「でも、なんだ」 「でも、先生さっき言ってくれましたよね。いらぬなら我輩がもらおうって。それ、どういう意味ですか。 それってもしかして・・・・・・」 「・・・たぶん、お前が思っていることで正解だ。雪に埋もれて泣くお前を綺麗だと思った。 必死に心から叫びながら、生きると言ったお前はとても人間らしくて、初めて我輩は一人の女性を愛しいと思った。 お前のことが好きだ」 彼女の瞳からは涙が流れ始める。 彼の言葉が、心の泉を湧き立たせ、嬉しかった。 諦めかけていたから。 「・・・・・先生、好きです」 強く握り締められた両手は、涙を隠そうとはしない。 彼は己の指先でそっと、彼女の涙を拭いてやった。 それでもまだ、涙は流れ続ける。 彼は彼女の唇に、そっとキスを落とした。 彼女は驚きながらも、綺麗に微笑む。 「もう、いきなり。もうすぐ授業が終わるというのに大丈夫なんですか?」 彼女の問いに彼は余裕そうに彼女の額にキスを落としてから 「戻ってしまうのか」 問うた。 「いてもいいですか」 「かまわんが、授業は・・・」 「次はお昼ですよ」 今はまだ、離れたくなかった。 少しでも一緒にいたかった。 「そうか」 彼は小さく笑み「待っていろ」と言い部屋から出ていった。 彼の匂いと温もりの残るベッドに彼女は顔を埋めた。 好きになっていた。 手が届かないと思っていた。 でも、届いた。 一人じゃない。 彼はすぐ傍にいる。  ++++++++++ ホグワーツって、年に何回もテストあるんでしたっけ? 一応、話的に数回あるということにさせていただきました(汗 告白ぅ〜!!あと二話くらいで終わらせるつもりです。
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