Thank you for... 満月の綺麗な夜。 ロイ・マスタング大佐とその部下は、溜まった(詳しくはロイが溜めた)仕事を片付けるべく、残業をしていた。 それなのに・・・・・・ ロイは椅子から立ち上がり、帰る支度を始めだした。 それを見てブレダが一言。 「逃げるんですか?」 今にも食って掛かりそうな勢い。 でも、ロイは何にも反応を示さず、扉に向って歩き出す。 「本当に帰るんすか?!自分でためた仕事なのに!大佐、ちょっと聞いて・・・」 「ブレダ少尉」 止まらないブレダをホークアイがとめる。 いつもの冷静なホークアイなのに、今日は少し声を張り上げていた。 その一声に、皆、ホークアイを見る。 ホークアイはロイを見る。 「大佐、どうぞお帰りになってください。あとは私達が責任を持って片付けますから」 そう言いながら。 「あぁ、すまないね」 いつもより元気のない言葉を発すると、ロイは部屋を後にした。 「なんで帰しちゃうんすか、中尉っ?!」 怒るブレダ。 その声に掻き消されることもなく、ハボック少尉のは、皆の耳へと伝わることとなった。 「あぁ、そういや今日はあの日か・・・・・・」 と。 「えぇ」 それに、ホークアイが頷く。 その話が分かっている2人と分かっていない2人。 分かっている2人は、少し悲しい目をしている。 分かっていない2人は、頭に疑問符を浮かべているようだ。 「あれって何ですか?」 フュリー曹長が問う。 その問いに、ホークアイとハボックは顔を見合わせ 「話していいんすか?」 「そうね・・・・・・でも、内容を知らずに大佐が帰った事実しか知らないのではのでは 腹が立ったままでしょうし・・・この頃、忙しかったから、大佐、時間がずれていたのね」 くすりと笑う。 「いつもだったら、今日までには仕事を終えていらっしゃるのにね」 時計を見ながら、優しく呟いた。 「あの・・・話ってなんすか?」 「早く話してくださいよー」 「あら、ごめんなさい。じゃあ、ハボック少尉、お願いするわ」 「えぇ、俺っすか?!」 説明すんの苦手なんだよなぁ。と頭をかき、新しい煙草に火をつけ、 ハボックはぽつりぽつりと話を始めた。 「確か、イシュヴァール殲滅のときのことだっけな・・・・・・大佐には恋人がいてな。 名前は確か・・・さん。同じ、国家錬金術師だったそうだ」 「ローイっ!」 後ろからロイに抱き付いてきた女性。 名前をという。 「わっ!・・・なんだ、じゃないか」 「どうしたの?そんな暗い顔して・・・」 ロイの顔を覗きこむ。 「いや・・・・・・早く終わらないかと」 遠い、悲しい目。 ベルの目も、ロイと同じ目になった。 「イシュヴァール殲滅ね・・・。一体、大総統は何をお考えになっているのかしら。 同じ国の国民を殺すなんて。早く、終戦をしてしまえば良いのに」 ハァとは、小さなため息をついた。 そんなを愛おしい目で見つめるが、すぐに軍人の顔にもどる。 「終わらせられないんだよ・・・自分達から始めたことだから」 そう言いながら、の頭を撫でた。 「でも、早く終わらせれば悲しむ人も苦しむ人も少なくなるのに・・・。 イシュヴァールの人達だって、軍の人だって。死ぬために生まれてきたわけじゃないのよ」 ロイの手を両手で押さえながら、下唇を前に突き出し、不満を声に出した。 今二人は、外へ向かって歩いている。 呼び出しがあったのだ。 大総統直々に、国家錬金術師へ。 「急な話だが、明後日から君達国家錬金術師にも、戦場へ赴いてもらうこととなった」 大総統の言葉に、少し皆ざわめきだす。 「なんで・・・私たちまで行かなければいけないの?・・・イシュヴァール殲滅戦って何? 殲滅って何?ただの人殺しじゃない」 「落ち着けっ!」 止めるロイの話も聞かずに 「落ち着いていられるものですか!」 そう、前の人を掻き分け前まで行くと大総統に向ってこう訴えた。 「ご無礼かもしれませんが、一人の意見として聞いていただければ光栄です。なぜ、私達 まで戦地に赴かなければならないのですか。普通の人間より、錬金術を使える人間の方が 強いに決まっています。・・・いつまで、このような殺し合いを続けるのですか。 この戦いの意味は何ですか。国の人口を減らすためですか。どうして罪のない人々まで死 なねばならないのですか、大総統!あなたは、この戦いを早く終わらせたいとはお思いに ならないのですか?」 あたりが一瞬、静まり返った。 の声は、とても重く、切なく、悲しく、強く、皆の胸へと突き刺さる。 その訴えに、大総統は少し俯き加減に。 低く、いつもより小さな声でこう言った。 「早く終わらせるために、君達を送るのだよ」 と。 「私達が、このように多大な力を持っているということが分かれば、彼らも否応なく、 降参の白旗を揚げてくるだろう」 「こちらから降参する意志はないのですね」 「すまぬがそれはできん」 「・・・・・・ありがとうございました。このような失礼被る行為、お許しください」 「いや、自分の意見をしっかりと発言できるということは大切なことだよ。さっ、いた場 所へ戻りなさい」 「はい。失礼します」 の言葉は、多数の人々へ感動を与え、途中で、頭を撫でる者、葉をかける者など 色々といた。 皆、を見ていた。 だからだろう。 「でも、時によりその言葉は、自分を闇へと追い詰める鍵となる・・・」 大総統のこの小さな小さな言葉に、気付く者は誰一人としていなかった。 二日後。 ロイとを含んだ国家錬金術師は、戦場へと無残な人間の残骸が倒れる中を、戦うこととなった。 何の躊躇もなく殺す者。 命令だからと、嫌々殺す者。 命は取らず、動けない程度の傷を負わせるもの。 そして、命も取らず傷もつけない者。 はこれだった。 家々が立ち並ぶなか。 前方には数名の老人を含んだ男女が数名。 剣を持ち、斧を持ち。 軍服を着ているものは皆、敵だと。 そのような目つきでベルに襲い掛かってくる。 その人達に、は開いた右手をむけ大きなシャボン玉みたいなものを練成し、 人々を包み込む。 そして、それがパチンと割れると同時に、人々はそこに倒れ込み、眠りに陥った。 「少しだけ、眠っていてくださいね。戦いが終わるまでとは行きませんが、二、三日は。 幸せな、戦渦のない夢を見てください」 言っても、聞いているはずのない言葉を。 優しく、眠っている人々に語り掛ける。 それは、その言葉が発し終わったときのことだった。 「「「うおーーー!」」」 という声と共に、3人の男性が上からベルのほうへと、剣などを振り下ろしながら降りて きた。 咄嗟のことだったので対応できず、目を瞑り両手で顔を覆った。 あと3秒。 2秒。 1秒。 やられる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ロイっ そう思ったときだった。 それは、一瞬の出来事で。 爆発音が聞こえたと思って上を見ると、男達の姿はなく、あったのはロイの姿。 男達はというと、爆風に飛ばされ、少し離れた場所で血を流し倒れている。 でも、そんなにたいした怪我でもなく、死にはしないようだ。 「ロイっ!」 「大丈夫か、?!」 「うん。ロイが来てくれたから」 戦時中だというのに、満面の笑みを浮かべる。 それほどまでに、ロイが好きなのだ。 その笑顔を見て、その言葉を聞いて、ロイは少し赤い顔に・・・。 「油断をするな。自分の命を最優先しろ。それがもし逃げの行動であってもだ」 「うん、分かってる。・・・・・ねぇ、ロイ」 「なんだ」 ロイがを見下ろした瞬間。 とロイの唇が重なった。 「へへっ」 「あっ・・・な、なんだこんな場所で!しかも、こんなときに」 「良いじゃない。したかったんだから」 「だからってな・・・」 顔を真っ赤にしながらうろたえるロイを、は愛おしそうに見つめ 「ねぇ、ロイ。この戦いが一緒に暮らそう」 優しく言葉を発す。 「一緒に?」 「そう。同じ屋根の下で、ずっと同じ時間を歩もうよ。辛いときも、泣きたいときも。 お互いを励ましあって、幸せにしよう。この戦いが終わる頃にはきっと、私達いい歳よ。 まぁ、今もいい歳って言えばいい歳なんだけどね。・・・だから、ね」 恥ずかしそうに笑う。 風になびく髪を押さえながら、綺麗に微笑む。 ロイは、初め、の言っている意味が理解できていなかった。 だが、少し考えるとこれは「結婚しよう」と言っていることが分かり・・・・・・ 分かったとたんに、また顔を赤くした。 さっきよりもずっと赤く。 まるで、二つ名の「焔」のように。 そして小さく、はにかみながら 「あぁ」 と頷いた。 幸せだった。 2人とも。 このときは幸せだった。 でも、それから数分も経たぬうちに。 暗黒へと、落とされた。 爆発音と共に辺り一面は火に包まれた。 が眠らせた人々も。 ロイが倒した人々も。 火に包まれた。 「何これ・・・・。軍の誰がこんなことやったの?」 「何でもいい。誰でもいい!逃げるぞ、」 「あっ、うん」 ロイがの手を握ったその時だった・・・ 発砲音と共に、ロイの頬に・・・軍服に血しぶきが飛び散った。 まるで、深紅の薔薇のように。 後ろを見ると 「!!」 胸を真っ赤に染めたの姿が。 「ロ・・・イ・・・。あははっ。さっき油断するなって注意されたばかりなのにね。 私ったら、ほんと馬鹿なんだから。・・・真っ赤だね、私の胸」 痛そうに笑った。 胸を押さえた手を濡らす鮮血を見て。 「誰がこんなことをやったんだ?!」 「分からない・・・がっ」 血を吐く。 「っ・・・、行くぞ!」 ロイは悔しそうに、を背負い走り出した。 味方の救護隊のいる場所へと。 「ねぇ、ロイ・・・」 「しゃべるな」 「聞いて。私が死んでも、暴れて人をたくさん殺さないでね」 「そんなこと言うな!」 「そして、ロイ。大総統になって・・・。こんな醜い争いなんてしない大総統になって。お願いよ、ロイ」 ロイは何も答えない。 ただ、無我夢中に走り続ける。 でも、一向に味方の姿は見えやしない。 「・・・・ロイと一緒に暮らしたかったな。私が死んだら、骨の半分はロイが持っていてね」 「だからそんなこと言うな!」 「ロイと私の子供・・・どんなんだったんだろうね。・・・ごほっ」 口から血を吐く。 ロイの服が、血で染まる。 青に赤が混じり、紫色になる。 「しゃべるなと言っただろう!」 「ん・・・・・・」 その後、は何も話さなかった。 でも、の息は荒くなるばかり。 血は止まらず、顔は血の気を失っていく。 「ロイ・・・・・」 「なんだ。もうすぐ着くから!」 「・・・大好きだよ。すっごくすっごく愛してる。ロイへの愛は、誰にも負けない」 「だからなんだ」 「ロイは私のこと・・・」 「愛しているよ」 「・・・ありがとう」 その言葉を最後に、は本当に何も話さなくなった。 それどころか、あれほど荒かった息も聞こえない。 「?」 ロイは立ち止まり、恐る恐るを見た。 見ただけでは分からない。 砂の上にゆっくりとおろし、首を手を、頬を触る。 脈がない。 口に手をあてる。 呼吸をしていない。 心臓は・・・・・ 停止していた。 「っ、―――――――っ!!!」 それから、五分後だった。 味方の救護隊の下へと着いたのは。 救護隊は、あらゆる方法を試したが。 が、息を吹き返すことはなかった。 ロイ。この戦いが終わったら、一緒に暮らそうね。 この戦いが終わったのは、それからずっと後のことだった。 「で、今日がそのさんの亡くなった日ってこと」 その話に、フュリーもブレダも大粒の涙を流していた。 「っ・・・大佐にそんな辛い過去があったなんて」 「俺、知らずにあんな言葉を・・・。明日、謝らなきゃいけねぇな」 「大佐は毎月この日に、さんのお墓に行くらしい。で、その後はさんと一緒に過ごすらしい」 また新しい煙草に火をつける。 ちなみに、この話を始めてからこれで6本目。 「一緒に過ごすってどういうことなんですか?」 「あぁ、それはね。さんの遺骨の半分が大佐の家にあるのよ」 「「え゛っ!」」 「でも、それも、もうすぐお墓に返すっておっしゃっていたわ。少しずつ、吹っ切ってい くと」 その話に、また涙を流す2人。 「長い黒髪で青い目の綺麗な人だったわ」 「えっ。中尉、見たことあるんすか?」 ホークアイの言葉にハボックが問う。 それに、ホークアイは少し切ない目をしながら 「一度、写真で見たことがあるの。2人で写った写真を、大佐がじっと眺めてたの。 私がその人誰ですか?って聞いたら、この話をしてくれたのよ」 「へぇ。俺んときは・・・俺がまた振られたことを聞いて大佐のやろう、ちゃかしやが ってさ。で、ムカついたから、大佐だって色々な人と付き合ってるじゃねぇっすか! って言ってやったんさ。そしたら、悲しい顔して、私が生涯で愛したのは一人の 女性だけだよ。って話してくれたんすよ」 初めは、少しムッとしながら。 でも、最後は切ない目で。 「あっ、あと。明日、大佐は遅刻ですから」 「何で分かるんですか?」 フュリーが目を真っ赤にし、まだうるつかせながら問う。 「良く分からないけど、いつもそうなの。決まって次の日は遅刻してくるのよ。  眠そうな顔して、目の下にくまつくって」 「きっと、さんと離れたくないんすよ」 静かな沈黙が流れた。 ホークアイは話しながらも動かしていた手を止め、窓の外を見た。 「綺麗ね・・・」 満月を見上げ、ロイとのことを思いながら、そう呟いた。 「・・・。綺麗な満月だよ。君が願った大総統も、もう近くまできている。  この月のように、遠い存在ではなくなったよ」 大好きだった、愛していたはもういない。 引きずりっぱなしはダメだという事は分かってる。 でも、忘れられない。 あの笑顔。 と過ごした日々。 そして、なぜ私ではなかったのだろうという悔しさ。 最後の、「ありがとう」という言葉。 何もかも、のことは脳裏に焼きついてはなれない。 もう、君以上愛せる人はいないんだ。 、愛しているよ。 これからも、ずっと・・・・・。  ―――――次の日 「おはよう」 「おはようございます。遅刻ですよ、大佐」 「おはようっす」 「大佐ぁ!」 「大佐っ!」 上から順に、ロイ・ホークアイ・ハボック・フュリー・ブレダ。 扉がゆっくりと開き、ホークアイが言っていた通り、とても眠たそうな顔をし、目の下にくまをつくったロイが姿を現した。 それを見た瞬間に、フュリーとブレダはロイの下へ駆けていき。 「大佐。昨日は、すいませんでした!」 「大佐。僕、ずっとついていきますから!これからも宜しくお願いします!」 昨日までとは言わないが、少し涙目でそう言った。 ロイは少し吃驚しながらも 「あ、あぁ・・・ありがとう」 優しい笑顔で、そう言った。 君のように愛する人はいないけど。 でも、大切な人なら周りにいる。 その人達に支えられて、私は生きている。 、ありがとう。 君がいなければ、私は今の私はいなかった気がする。 大切な人がもっと増えるように。 支えてもらうだけでなく、支える存在が出来るように。 明日も幸多からんことを願って。 ありがとう。  ++++++++++ 一応、エドとかと会う前設定です。 愛しい人の死。 もうすぐ掴めたはずの最高の幸せを書きたかったと思われます。
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