アローヘッドの矢を 6月18日。 この日は何を隠そう、腹黒王子様・・・・・・ではなく 学院のプリンスである柚木梓馬が誕生した日である。 朝からファンの子達にプレゼントを山のように渡され、笑顔で対応しつつ 腹の中では 「こんなに持って帰れというのか?もっと人のこと考えて欲しいね」 などと考えていた。 家にしっかりと持ち帰り、手紙も読み、一つ一つ貰った物には目を通すが たいていほとんどがゴミ箱行きだ。 「(俺が欲しいのはこんなんじゃない・・・・・・欲しいのは、ただ一つ)」 柚木はフルートを下ろし、鬱な吐息を虚空に向けた。 梅雨の中の、晴れ日。 待ち人は、来ない。 約束なんてものはしてないが、来て欲しいと願っている自分に苦笑しつつ この胸の中の蟠りと靄から逃れるために 再度、フルートを吹こうとした、時だった。 「あっ、やっと見つけたー!」 乱暴に開かれた扉のところに立っていたのは、普通科の女生徒。 タイの色は赤。髪はミディアムロングの黒。 息を切らしているところを見ると、ここに来るまで相当走っていたらしい。 彼女は柚木を見つけると、笑顔を浮かべ、呼吸を整えつつ近付いてきた。 「どうしたんだ、お前。そんな汗掻いて息切らして」 「どうしたんだ、って。見つけてたんですよ!」 「誰を?」 「この状況で、柚木先輩以外に誰がいるんですか!?」 むぅ、と頬を膨らませる彼女の名は。普通科2年。コンクール参加経験あり。 もちろん出会ったのはコンクールで、柚木の一番の玩具お気に入りである。 「で、俺に何の用だ?」 今日、散々、耳にたこが出来るほど言われた言葉を彼女の口から聞きたい。 他の者からの言葉は、無意味以外の何でもない。 言葉を待った。 は少し戸惑いつつも、微笑を浮かべ 「お誕生日、おめでとうございます」 言ってくれた。 聞きたかった言葉を。 同じ言葉でも、誰が言うよりも一番嬉しい言葉。 けれどその嬉しさを、前面に出す事は出来ないから。 何時も通り、口角を上げて意地悪な笑みを浮かべて。 素直になれない自分がほんの少しだけ嫌だった。 「へぇ〜、良く知ってたね」 「私も今日知ったんです。朝、天羽から聞いて」 返ってきたのは、馬鹿なほど素直すぎる言葉。 ここに香穂子がいれば、頭を押さえて 「馬鹿・・・・・・」 と呟くことだろう。 その言葉を聞いた途端 柚木の表情が一変した。 意地悪な笑みではなく、気にもならない有象無象な者達へ向ける微笑へと。 けれどそれと違うところは、内に大きな怒りを抱えている事が湧き出るオーラからふつふつと伝わってくる。 「あの・・・・・・・どうしたん、ですか?」 ちょっとのことでは動じないことを長所としているだが 今回の柚木様のお怒り様には少しビビったらしい。 柚木はの鼻を摘んで 「そういうことは普通言わないでおくものなんだよ。常識だろ?この馬鹿正直が。 おかげで気分を害した」 離すと腕組みをして、何やら考え込み・・・・・・・・・何か良い案が浮かんだらしく にやり、と一つ、微笑んだ。 は鼻を押さえて「すいませんでした」と小さな声で呟いていた。 「・・・・・・誕生日プレゼントは、しっかりと用意してきてあるんだろうな?」 「あっ、いや、急なことだったからそこまではちょっと・・・・・・」 「やっぱりな。」 「てか、今金欠なんですよ!もし金欠じゃなくても、先輩みたいなリッチ族に合ったものなんて買えませんよ!」 「ものじゃなくて良いよ。俺の機嫌を害したお詫びも兼ねて、今から俺が言う事をしたら許してやるよ」 「えっ、そうですか!?ならなんなりと、どどーんと言ってください」 その言葉に、は顔を輝かせた。 本人は何時もとちょっと違うちょっと怖い柚木から逃れられるチャンスを与えられた事を喜んだらしい。 こういう状況下なのだから、難しい事を言ってくる確率の方が断然高いのに そんなことカケラも思っていないようだ。 しかし 「言ったね」 次の言葉と微笑に笑顔が消える。 「えっ・・・・・・ちょ、変なのはよしてくださいよ」 「大丈夫だよ。じゃあ・・・・・・・・・、キス」 「・・・・・・・・・・・・え?」 の目が点になり、その言葉の意味を頭で考え考え やっと理解出来た途端、叫んだ。 「えぇーーーーーーーーーーー!!!ちょ、何言ってるんですか!?あれでしょ!?新手のいじめでしょ!? そうやっていつもいつもいつも、いつもいつもいつもいつも私の嫌そうな顔みて笑ってるんだから!この腹黒王子! 無理!絶対無理です!柚木教に殺されたくないです!!!」 「大丈夫だよ。人いないし。・・・・・・それに、お前に拒否権というものはないよ」 その言葉に、は言葉をつまらせた。 こんなことなら何でも良いからプレゼントを用意してくれば良かったと後悔してももう遅い。 でも、用意したところで気に入る可能性は自分が数学で85点以上を取る可能性より低いだろうから、 結局こうなるんだと思い、は柚木を見つめた。 「そんな目をしたった駄目だよ。ほら、目は瞑ってあげるから」 柚木はそっと目を閉じた。 は今すぐこの場から逃げたかったが、逃げたら後が怖い。 きっとこれより難問を叩きつけられるに決まってる。 高鳴る鼓動。 緊張で汗が流れる。 臭いと思われないかとても気になりつつ、柚木の制服を掴んで背伸びして ゆっくりと顔を 「(やっぱムカつくほど綺麗な顔。肌も傷つけたくなるほど綺麗だ・・・・・・)」 近づけていき ほっぺたにキスをした。 初めてなので下手なのはしょうがないが、さらりと触れたほどの軽すぎるキス。 触れた次の瞬間には感触を忘れてしまいそうなキスを、果たして今のをキスと言って良いのだろうか? という疑問は残るが、唇が頬に触れると、は顔を真っ赤にして柚木から離れて。 「どことは言ってませんもんねー。んじゃあ、また明日!よいお誕生日を」 恥ずかしくて、目を合わせられなくて 脱兎の如く、去っていった。 唇が触れた頬に触れると、熱を持っている気がした。 苛めすぎたかもしれないけれど、しっかりと贈り物を落としていってくれた。 くすくすと柚木は笑い、今さっきが出て行った扉を見て 「まぁ、今回はこれで許してやるよ。でも、次はそうはさせないぜ」   ++++++++++++++ 柚木さん、お誕生日おめでとうございます! ギャグ甘です。 題名は悩んだ挙句、結局6月18日の誕生花の中から・・・・・・ 花言葉は『高潔』 日本名は「おもだか」 花というより葉っぱです。 ※フリー夢とさせていただきます。  条件は、柚木さんのお誕生日をお祝いすることで!  お気に召しましたら、どうぞお持ち帰りくださいませ。
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