森の広場の、奥の奥のほう。 木により、人からも見えない場所で二人きり。 お昼休みのランチタイム。 柚木は木に寄りかかって、はその前に両足を揃えて折り曲げて座っている。 今食べているお弁当は、の手作りだ。 和食が好きだというから、昨日から下ごしらえをして一生懸命作ったもの。 一口サイズの俵おむすび、春野菜を蒸して塩と醤油などで味付けしたものに、から揚げの甘酢あんかけなどなど。 朝、5時半起きで作ったもの。 それなのに柚木は「塩多すぎ」「水っぽい」などと言うから、は少し気を落としてしまった。 唇をちょこっと尖らせて項垂れる。 柚木はそんなの頭を撫でた。 瞬に顔を上げると、作り物じゃない笑顔がそこにはあった。 「美味しいよ」 「嘘。さっきまであんなにケチつけてたじゃない」 「あれは、出来ればこうして欲しいなという要望だよ。お前が作ったものは悪くない」 「それって誉め言葉?」 「誉め言葉に決まってるだろ。さっき言ったじゃないか。美味しい、って」 褒められた事が、純粋に嬉しくて。 は感動に振るえ、満面の笑みを浮かべた。 外れそうになる螺旋、緩みそうになる頬。 抑えて、柚木はお箸で俵おむすびを半分に割り、咀嚼した。 ご飯が食べ終わり、お茶を飲みながら一時を過ごす。 コンクールを振り返ったり、週末の予定を立てたり、他愛もない話をしたり・・・・・・。 今日話していたことは、運動のことだった。 音楽科は怪我をして演奏に支障をきたすといけないから、体育は限られている。 それが少しつまらない、とはぼやいた。 そして、柚木を上から下まで眺め、お腹の辺で視線を止めた。 奇妙なところを見つめられ、疑問をもたないわけがない。 「何だよ、そんなところ見て」 「梓馬はさ、体が少し弱いって言っているけど、管楽器って肺活量がないと大変でしょう?」 「まぁ、多少はないと駄目だね。火原までいかなくてもいいけど」 「鍛えたりしてる?」 「いや」 「そっか。でも、梓馬が腹筋している姿も思い浮かべたくないな・・・・・・」 は苦笑して、そして地面に両手をついて、はいはいのような格好で柚木に近付いた。 三十センチものさしも、今の二人の距離には入らない。 それほど近い距離。 「腹筋は?」 「・・・・・・お前は一体何がしたいわけ?」 は服越しに、柚木のお腹を触る。 しかし、ブレザーの下にベストを着ているので、伝わってくる感触は、布。 欲しい感触が伝わってこなかった事が不安だったのか、不貞腐れたように口を尖らせて。 「分かんない・・・・・・」 そして何を考えたのか、ベストのボタンを外し始めた。 柚木はただそれを見つめる。 「・・・・・・お前は本当に、何がしたいんだ?」 「腹筋が・・・・・・」 「腹筋がそんなに好きか?」 「いや、そういうわけじゃないけど・・・・・・」 会話がされている内にもボタンは外され、シャツが露わになった。 は恐る恐る、右手をそこに押し当てた。 「あっ、何気に硬い」 「満足したか」 「うん。好き」 下からまた、あの満面の笑みを浮かべられ、しかも愛の言葉付き。 螺旋は、跳ねた。 「言っておくけど、お前それ、もうちょっとやったらセクハラだからな」 手を回せば、引き寄せる事なく直ぐに抱きしめられてしまった。 突然のことに、しばし目を白黒させたが、今はもう、恥ずかしさを隠すように柚木に全てを預けている。 「だって気になったんだもん」 「お前を満足させてやったんだから、今度は俺を満足させろよ」 「えっ、と・・・・・・どうやって?」 「こうやって」 口端に微笑を浮かべて、愛しい唇を奪って。 お弁当を味わっただけでは足りず、その唇も念入りに味わう。 食後のデザート。 柔らかくて真っ赤なさくらんぼゼリー。 唇を離せば、その顔は林檎色になっていて。 瞳には金平糖の輝き。 「ごちそうさま」 「梓馬のエッチ」 「それはお前の方だろ?いきなり人のボタン外し始めて。誰かに見られたらとんでもない噂をたてられるよ」 その言葉を聞き、想像してみたのか、の顔は納まってきた火照りをまた取り戻して。 空気が抜けたように、ぽすんと柚木の胸に顔を埋めた。 「梓馬となら良いよ」 「誘ってるの?」 「違ッ!噂になっても、ってこと」 「もう噂になっているだろ?」 「え?・・・・・・何が?」 「俺達のこと」 「どんな?」 「付き合っているんじゃないか、って」 そういえば、この頃やけに視線が向けられる。 時には痛いときもある。 友人達は何も言ってこないけど、たまにニヤニヤした笑みを向けてくる。 「・・・・・・まぁ、隠しているつもりはあまりなかったし」 「じゃあ、明日から一緒に登校するか?」 「え?」 「迎えに行くよ。お前の家まで。そうすれば、朝も一緒だ」 そうすれば、もっと視線は向けられる。 友人にはちゃんと打ち明けなければいけなくなるし、柚木教に何かされるかもしれない。 でも 「賛成!」 「良いのか?」 「うん!だって、一分でも一秒でも、梓馬と一緒にいたいもん」 素直な彼女に、微笑を浮かべ。 髪を梳く様に頭を撫でて 優しく優しく、腕で包み込んで、抱きしめた。 「俺も同じだよ」 遠くで、チャイムの音が聞こえる。 けれど二人は離れず、まだお互いを感じあっていた。 それは 時間が許す限り、同じ時間を過ごしたいから。    +++++++++++++++ 甘ギャグで。 コルダ2についてきたCDを聴いていて、何時も思ってたんです。 「フルートの人の呼吸が良く聞こえるな・・・・・・」 って。(特に『ペール・ギュント〜ソルヴェイクの歌』とか) で、やっぱり息継ぎとか大変だし、ずっと吹き続けなければいけないときもあるから 一気に吸うんだろうな・・・・・・とか思いまして。 息継ぎが大変 → 肺活量がないと駄目 → そういえば、柚木は体が少し弱いから運動は控えているんだよね? → あれで体弱いのか・・・・・・ → 腹筋どうなってるんだろう・・・・・・? みたいな感じで、思い浮かんだものです。 ヒロインのセリフを一言。 それから色々と書いていったら、いきなりセクハラ行動に出てしまった、というわけです。 素直な子になりました。 いかがでしたでしょうか?  
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