自分がこんなにも、独占欲が強いなんて思ってもいなかった。
あの日、聞いた言葉。報告。
顔を赤らめながら、火原は俺に言った。
「あのさ、俺・・・その、付き合うことになったんだ。ちゃんと」
心臓は、まるで氷の剣で串刺しにされたように
痛み、固まった。
けれど、それを表に出すなんて出来るはずがなく。
何時もの笑顔を作って
「おめでとう、火原」
心にもない言葉を贈った。
火原が、お前を好きなことは知っていた。
3年間同じクラスで、同じ部活。
とても仲が良い二人だったから、付き合っているのだと勘違いしている奴もいなくはなかったらしい。
火原のお前に対する想いは恋だった。
でも、お前のは違ったはずだ。
なのに、なぜ
なぜ、頷いた。
俺だって、お前のこと・・・・・・・・・。
態度になんて、出すはずがない。
俺しか知らない、恋心だった。
何時かは、消さねばならぬ日が来るだろうと思っていたから。
本当は、伝える気なんてなかったんだ。
伝えて、手に入れてしまったら
手放す時が、辛すぎて。
俺の人生も、お前の人生も
めちゃくちゃになってしまいそうだったから。
だから・・・・・・・・・
だからお前がもし、俺以外の奴を好きになって付き合いだしたとしても
それを祝福しようと思っていた。
でも
なんで火原なんだ。
毎日のように、二人の仲睦まじい姿を見せられるなんて、耐えられるものか。
精神的に拷問にかけられるのと同じだ。
伝えるべきだったのだろうか。
めちゃくちゃにしようとも。
壊してしまっても、良いと。
お前を。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうだ。
伝えてしまえばいいんだ。
奪ってしまえばいいんだ。
『恋人』という肩書きはいらないから
ただお前の初めてを俺に。
それでお前が傷ついたとしても
構わない。
「梓馬君、どうしたの?こんなところで・・・・・・話って何?」
ちょっと話があるんだ、と言ったら、なんの躊躇もなく付いてきた。
けれど、着いた場所に疑問を覚えたらしく首を傾げる。
ここは、生徒会室。
生徒会の奴らには良く頼られるから、この部屋にも馴染みが深い。
そのため、鍵も簡単に借りる事が出来た。
「誰もいない場所の方が話がしやすいと思って」
「ふ〜ん、そっか」
何も疑いもしない彼女を先に部屋へと入れて、彼女の方を向きながら扉を閉め・・・・・・鍵を、閉めた。
初めて入る生徒会室が物珍しいのか、辺りを見回している。
そして、俺の方を振り向いて。
それを合図に、話を切り出した。
お前を、めちゃくちゃにする合図。
「火原と付き合い始めたんだってね」
「えっ、何で知って・・・・・・」
「今日、火原から聞いた」
「和樹君ったら。言うの早い!」
わざとらしく頬を膨らませているが、それはただの照れ隠しだって分かっている。
だってお前は、次の瞬間
とても幸せな笑顔を俺に向けたから。
直ぐにでも壊したい。
早く、お前を。
オレノモノニ。
「それで、話ってそれ?それだけなら何でわざわざこんなところに呼んだの?もしかして!何かお祝いの品でもくれるの!?」
笑う彼女に、俺も微笑を向けた。
少し興奮しているお前は、気付かない。
何時もの微笑ではないことを。
「うん、そうだよ」
一歩一歩、近付いて。
捕らえたくて、捕らえたくて。
「えっ、ほんと!?」
「あぁ」
「何々、何くれるの?」
手を、伸ばした。
「いいものさ」
その華奢な手首を強く掴み、やっとお前も気付いたらしい。
何かおかしい、と。
その瞳に恐怖が映る。
でも、もう遅いよ。
「ちょっと、梓馬くッ・・・・・・!!」
強引に唇を奪って。
角度を変えて何度も味わって。
呼吸をする暇など与えない。
声を聴いた瞬間、この心を支配する独占欲が浄化されて罪悪感に変わっていく気がするから。
苦しいと、俺の背中を強く叩く。
俺は傍のソファーに彼女を組み敷いて、唇を離した。
「梓、馬・・・・・・くん」
乱れた呼吸の中で、言葉を発するのはやっとのよう。
「なん、で・・・・・・」
瞳から、涙が零れ落ちた。
そんなものに、同情なんてしてやらないよ。
同情するような心を持っているなら、初めからこんなことしないさ。
仮面を剥いだ俺は、もう怖いものなんてなかった。
目の前にいる、彼女しか見えない。
冷ややかな瞳を向けてあげると、彼女の表情は恐怖で強張った。
「お前がいけないんだよ。お前が火原のものになるから」
「それって・・・・・・」
声に出ない言葉が、唇から作り出される。
「すきってこと?」と。
俺は口角を上げて微笑んで。
「さぁ。それは、言ってあげない」
「私を、どうするつもりなの・・・・・・?」
「壊すのさ」
「!!」
もうこれ以上開かないというほど、彼女は目を見開いた。
そこに、俺を・・・・・・俺だけを映してやる。
顔を近づけて、吐息が唇に当たるくらい。
両手首をもっと強く握って。
「嫌なら嫌って叫べよ」
「っ・・・・・・!」
「言わないってことは、続けて良いという意味で取るよ」
片手を手首から離して、タイに手をかける。
「やっ!・・・・・・やめ、」
ボタンを2つ外して、露わになった鎖骨に所有印を残して。
「嫌だったら言えよ。火原の名を呼んで。好きなんだろ?」
「・・・・・・意地悪」
「何を言われたって構わないさ」
「好きよ。和樹君のことが」
揺るぎない瞳で発されて。
俺は手首からゆっくりと手を離した。
胸へと突き刺さった言葉は、当分とれないだろう。
・・・・・・火原に顔向け出来ないほど、壊してやろうと思ったのに。
その言葉を聞いた瞬間、決意は崩れた。
俺は、本当に欲しいものは手に入れられないんだ。
きっとこの先も。
心の中で自嘲して、立ち上がった。
彼女もゆっくりと起き上がって、ボタンを留めてタイを結ぶ。
壊したい、という想いはだんだん薄れていく。
けれど、罪悪感もない。
ただ、虚しさだけが心を支配し始める。
彼女は、俺のものではない。
だからこの想いは、もう必要ない。
膝立ちをして、ソファーに腰掛ける彼女の額に、そっと口付けた。
「梓馬君」
「お幸せに」
敗者のようで気に食わないけれど、背を向けて。
ここから出て行こうと歩み始めた。
「酷い・・・・・・。梓馬君は酷いよ」
けれど、彼女が言葉を投げるから、俺は振り向いた。
再び彼女を視界にいれると、その瞳からは涙が流れていた。
「せっかく、和樹君を一番好きになろうって思ったのに。何で・・・・・・何でこんなことするの!」
乱暴に涙を拭って、俺を睨む。
それは、どういう意味だ。
「好きだった、梓馬君のこと。でも、絶対に叶わぬ恋だって思ってたから、消そうと思っていたの、想いを。
そんなときに和樹君から告白されて・・・・・・和樹君のことは、友達としては大好きだったから。利用しているようで悪いけど、私には絶好の機会だった。
なのにどうして・・・・・・・・・どうしてこんなことッ!」
泣きじゃくる彼女の頬にそっと触れて。
どうして良いか、分からなくて。
彼女はその手を抱きしめるように両手で覆った。
「好き。でも、もう梓馬君への恋は終わったの。私は、和樹君に恋をするの」
「うん、それが良い」
「止めないの・・・・・・?」
「あぁ。俺と一緒になっても、ただ傷つくだけだよ。幸せにはなれない」
「どうして・・・・・・」
「そういう運命だから」
「運命なんて信じてない」
「この世は自分の手で変えていけると思ってる?残念だけど、変えられないことだってたくさんあるんだよ。
だからお前は、火原と幸せになれよ。俺の心を踏み潰して」
「・・・・・・っ、なんで」
彼女の涙を親指で拭って、優しく髪を撫でてやる。
俺のものになれよ、とでも言って欲しかったのか?
生憎、そんな言葉を言おうなんて微塵も思わなかった。
ただ俺は、お前を壊せれば良かったんだ。
その隣りに寄り添って笑おうなんて、思ってない。
「梓馬君は、それで幸せなの?」
「お前が幸せなら、十分だ」
「そんな!」
「何?自分と一緒になれば俺が幸せになれるとでも思ってるわけ?言っておくけど、お前を火原から奪おうなんてこと思うほど悪い性格じゃないよ。
お前と一緒になるよりも、火原とお前が笑っていた方が良い。・・・・・・今、やっと思えたんだ。分かった?」
「うん・・・・・・」
彼女は俯いて、涙を拭った。
髪を梳く様に撫でる手は、温もりを求めているけれど。
「涙が止まるまで、待っててやるから」
「じゃあ、最後・・・・・・最後に1つだけお願いを聞いて。そしたら笑うから。そして、梓馬君への恋心を消して、この胸を和樹君への想いでいっぱいにするから」
「何?」
「キスして」
目を瞑る彼女の頬を撫でて、
俺はそっとキスを落とした。
唇ではなく、瞼に。
俺の想いも、その涙と共に全て落ちていくようにと。
「さようなら、私の恋」
唇を離した瞬間、彼女が呟いた。
そしてゆっくりと瞳を開いて、微笑んだ。
「じゃあ行こう」
ソファーから立ち上がって、俺の前を歩き出す。
きっと、振り向く事などないのだろう。
心は。
それで良い。
俺の事を、忘れるくらい、前を向いていれば。
君の涙に、恋心を。
唇に温もりを。
想いは心の奥底へ。
今日のことは忘れて
明日からまた、ただのクラスメイト。
「平然としているのは、得意だから」
「何か言った?」
数歩前を歩く彼女が振り返って問ってきたけれど、俺は首を横に振った。
「ううん、何も」
「そっか。・・・・・・じゃあ、またね」
「あぁ、また明日」
何かを言い足そうな瞳を瞑って、彼女は微笑へと変えた。
それで良い。
それで。
その笑顔はまだ俺の心を締め付けるけど
心を支配するのは、虚しさだけれど
好きだった。
そう。
この想いは過去の話。
だから
さようなら
愛しかった人よ。
その笑顔が、永遠であることを願って。
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両想いが全て、叶うとは限らない。
だって相手が自分のことを好きだなんて思うことは出来ないから。
そう思えなくても、抱えた想いがはちきれんばかりに膨れたから想いを伝える。
でもその勇気が出るのは、難しい。
両想いだったのに、伝えられず、終わってしまった恋を描いたつもりです。
本当は、ここまで長くなる予定ではなかったんですけどね。
彼女が「イヤっ!」と叫ばず、柚木さんはそれを了承と取り、そのまま・・・・・・・・・
みたいな、もっとドロッとした感じで終わらせようと思ったのですが
最後は白強めになってます。
読み返してみたら名前変換が初めの火原のとこしかなかった・・・・・・
いかがでしたでしょうか?
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