彼女を人々は 『ミステリアスな人』や『大人の女』と言う。 それは全て『近付きがたい存在』とイコールで結ばれる。 腰まである艶やかな黒髪に、すらりと伸びる乳白色の四肢。 全てを見透かしているような妖美な瞳に、豊満なバスト、引き締まったウェスト。 成績はいつも上位で、音楽の才能もあり、出場したコンクール全てで何かしらの賞を得ている。 誰もが見惚れ、羨む全てを得た彼女は それと引き換えに孤独だった。 誰とも話さぬわけではない。協調性がないわけではない。 話しかけられれば微笑を浮かべて答えるし、授業もしっかりと受けている。 だが誰しも、自分とは釣り合わないと、彼女を高嶺の花と見なし 距離を置いてしまっているのだ。 そんな彼女の存在は確かに目を引くものはあった。 だが、これだけでは興味が湧く存在にもならない。 柚木は今日も一人、窓辺の席で本を読む彼女を横目で見、直ぐに視線を逸らした。 「(ただの優等生ではつまらない。何か突飛なことでもすれば、少しは興味が湧くのに。・・・・・・思っても無駄、か。)」 誰にも気付かれぬくらいの小さな溜め息をついて、柚木は窓の外を見た。 この世はつまらない。 決まりきった世界。 操作の仕方を覚えてしまえば簡単に渡っていける世界。 つまらない。 壊して欲しい。 けれど、壊された後、いったい俺はどうするのだろうか。 また今日もつまらない日常が始まる。 彼女は今日も一人で登校し、誰に声をかけられる事もかける事もなく 校舎へと吸い込まれていく・・・・・・・・・それが日常だった。 だが、 「柚木君」 凛、と透き通った声で呼ばれ柚木はゆっくりと振り返った。 この声は、誰だ?と疑問を抱きながら。 そして声の主を見て、目を見開く。 「、さん?」 呼んだのは彼女だったから。 彼女と言葉を交わした事など、何回あっただろうか。 しかもその言葉とは、必要最低限のもの。 果たして彼女が、自分を呼んだことなどあっただろうか。 つまらない世界に小さな(ひび)が入る。 彼女は一歩一歩近付いて、距離を縮めていく。 「何か用かな?」 平然な態度で微笑を浮かべた柚木だったが、予想も出来ない彼女の行動に 少々戸惑っていた。 彼女が足を止める。 そして、口を開いて言葉を発するのではなく・・・・・・・・・。 そこにいた全ての者の視線が、二人に注がれた。 彼女は足を止めた瞬間、柚木の制服の襟を掴んで引っ張り 柚木が前屈みになると同時に背伸びして その唇を奪った。 突然の事で・・・・・・予想なんて、出来もしないことで 対処など出来ぬ柚木はただ成されるがまま。 目を見開いて、唇に伝わってきた初めての感触を受け取って。 小さく胸は音を鳴らした。 それは、何の音か。 唇を離すと、彼女は綺麗に、悪魔的に微笑して 「好きよ」 ただ一言告げると、何事もなかったかのように 颯爽と校舎へと吸い込まれていった。 しばし時間は止まる。 彼女の時間だけ動き出して。 そして、水風船が割れた様に 柚木の中の何かが弾け 時間が動き出すと共に、笑い出した。 「えっ、ちょっと、柚木!?」 ずっと隣りで、誰よりも近くで一部始終を見ていた火原は 普通でない反応を示した柚木に驚き慌てている。 動き始めた。 世界が割れて、中から新しい世界が生まれる。 「(おもしろくなってきた)」 柚木は一人、満足そうに笑んで まだ感触の残る唇を、そっと指でなぞった。 「(好きなら、俺を夢中にさせろよ。)」 頭に今後のことを描きながら、戸惑う火原に「行くよ」と平然と声をかけて そして彼もまた 校舎へと吸い込まれていった。    +++++++++++++++ えー、一時間弱で書き終えました。 なんでしょう。 不覚なキスが書きたかったのです。 人前で堂々といっちゃぇ〜!みたいな(苦笑) 短編です。 続きは全く考えていません。 駆け引きとかし合いながら惹かれていくんだろうな・・・・・・って感じです。 攻めても攻め返される。 意地悪な事を言っても、微笑まれるだけでビクともしない。 ある意味貴重な存在である、そんな彼女。 本文だけでは全く彼女のことが攫めないと思うので、説明を加えてみました。 が、私も全く攫んでません(爆) 後のこと考えて書いてませんし・・・・・・・・・ 柚木短編ばかり増えていく気がします。 他の人達のも増やさないと。
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