私は一人で村を出た。
決心して、もう戻って来ないと思うほどの心構えで。

でも、こうして今、私は村へと向かう汽車に揺られている。
何時かは戻る日が来るだろうと思っていたけど、こんなに早いとは思っていなかった。


戻って来るときも、出た時と同じで一人だと思っていた。
だから
誰が想像しただろうか。

まさか二人でこの地を踏むことになるなんて。


 Not Father Baby


小さなボストンバッグを一つ持って、私は歩き慣れた土地を踏みしめていた。
久しぶりに来たはずなのに、何にも変わっていない。
綺麗な空気を吸い込みながら、目指すは私の育った家。
小さな頃に家族を亡くした私を引き取って育ててくれた人の家。
でもその人も、亡くなってしまった。
奥さんと一緒に。




いきなり行ったら驚くだろうか。
…あのことを言ったらどんな顔をされるだろうか。

胸に渦巻くのは、不安とほんの少しの期待。


住み慣れた、見慣れた家を見つけると、歩く速度は次第と早くなっていく。
心に渦巻くのは、希望と懐かしさと少しの不安。

急いでは駄目。走っては駄目。
転ぶと大変だから。

自分にそう言い聞かせ、歩いて歩いて


家の前に着くと、デンがお出迎えをしてくれた。
「久しぶりね、デン」
頭を撫でると、再会を喜ぶように、デンは「わん!」と吼えた。
その鳴き声を聞いて
「デン、お客さん?」
扉が開いた。
見慣れた顔、久しぶりな顔、記憶より大人びている顔。
「久しぶり、ウィンリィ」
私の義妹。

ウィンリィは私を見ると、驚きのあまり一瞬声を失い、目を見開いた。
「ヴィ…ア?」
戸惑うように私の名前を発してから駆け寄り、存在を確認するように私の頬に触れた。
「幽霊のわけないでしょ。幽霊だったらこんな荷物持ってこないって」
ほら、と私はボストンバッグを持ち上げた。
ウィンリィは安堵の息を吐き出し微笑を浮かべた。
その微笑は今にも泣き出してしまいそうだ。
「だって、村を出る日に言ったじゃない。私が戻ってくるのは死んだときだって。
だから、戻ってくるなんて思ってなかったの…会えて、嬉しい」
微笑むと同時に涙が一雫零れ落ちた。
ウィンリィはそれを拭おうともせず、言葉を続ける。
「どうして帰ってきたの?」
純粋な疑問は、チクリと私の胸を刺した。
大丈夫、言うよ。
ただ少し、恐いだけ。
「中に入ったら全部話すわ」
「そう。じゃあ入りましょう。ばっちゃん!が帰ってきたの!」
嬉しそうに、ウィンリィはばっちゃんを呼びながら階段を駆け上っていった。
反対に私はゆっくりと階段を上る。
「お茶で良い?」
「うん」
頷くと、ウィンリィはお茶の用意のために先に家へと入っていった。

私は階段を上り終わり、振り返った。
風が通り抜け、私は髪を耳にかけるように押さえる。


大丈夫よ。
あなたは私が守るから。


「、何してるの」
扉から顔を出して、ウィンリィは小首を傾げた。
「ううん、何でもないの。ただ、懐かしいなって」
「そりゃそうよ。4年ぶりだもの」
腰に手を当てて、胸を張る。
「あら、良く覚えているわね」
「覚えてるに決まってるじゃない。汽車に乗ろうとするを泣きじゃくって駄々捏ねて止めようとしたのよ」
ウィンリィは頬を赤らめながら苦笑した。
可愛いな、と私は微笑を向ける。

どこか遠くで鳥の鳴き声が聞こえた。
親鳥だろうか。小鳥だろうか。
出来れば、両方仲良く泣いて欲しい。



「入ろ。お茶冷めちゃうよ」
「そうね」
ウィンリィに手を掴まれて、私は家に足を踏み入れた。
あの日のままの家へ。
変わったのは、生き物だけ。
人数は、私がここに住んでいたときより、一人増えた。
ただそれだけの変化だけど、それは誰にとっても大きな変化だと思う。































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始めてしまいました、新連載!
まだ終わってない連載多々ありなのに…
でもこれはもう半分くらい書き終わっているので、だらだらとはしない…と思います(苦笑)
お付き合い宜しくお願いします。


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