列車を降り、周りを見渡している余裕などない。
目指すは彼女。
話を聞く前に、この腕の中で抱きしめたい。
逸る気持ちに合わせるよう、ロイは走り出した。
彼女の元へ。
Not Father BABY
デンの泣き声が聞こえ、ウィンリィは「お客さん?」と呟きながら
上客のことで疲れが出ている顔を引き締めるために目をギュッと瞑って開いて。
「いらっしゃいませ」
扉を開き、目の前に立つ男性を視界に入れた瞬間、その目を大きく見開いた。
男性の呼吸は少々乱れていた。
開けられた扉を、閉めさせるかというように片手で掴んで。
「はどこだ・・・・・・!」
その言葉で、ウィンリィは悟った。
エドがここにがいることを告げた事を。
怒りが込み上げる。言わないと約束したのに。なぜ言ったの?
「は、いません・・・・・・お引き取りください」
「嘘だ!頼む、に会わせてくれ!!会いたいんだ・・・・・・とにかく、会わせてくれ。
攻めるつもりなどない。ただ、会いたいだけなんだ」
真剣な表情と言葉。
涙を必死で堪えているような。
言葉はウィンリィの胸で響く。
幸せにしてあげたい。
大切な、大好きな幼馴染を。
でも、自分では無理だ。限度がある。
けれど目の前で必死に訴えるこの人は、世界で一番、を幸せにしてくれる。
そんな気がした。
だってこんなにも、愛してくれているのだから。
ウィンリィの決心は固まった。
「分かりました・・・・・・」
「本当か!はどこにいる!!」
「でもその前に、一つ約束して下さい」
「何だ?」
胸の前で、ギュッと両手を握り締めて。
「絶対に、幸せにして下さい」
こんな願い、第三者の自分が言うのもおかしいかと思った。
けれど彼は微笑んで
「決まっているだろう。を幸せに出来るのは私だけだ」
自信たっぷりに言うから。
願って良い、信じて良いと思うことが出来た。
「階段を上がって直ぐの部屋にはいます」
「ありがとう」
「何があっても、を裏切らないで下さいッ」
「あぁ」
彼女のお腹を見れば、誰だって分かる。
父親が、来た。
彼はどんな顔で彼女を見るのだろう。大きなお腹を見て・・・・・・
ウィンリィはただ願った。
彼女と、そのお腹の中の子の幸せを。
* * * * * * * * * * * * * * * *
階段を駆け上がって、ノックもせずに扉を開く。
そこには
会いたかった、本物の
愛しい、愛しい愛しい人がいて。
こちらに向けられていたのは背だけれど
嬉しさと感動に震え、想いははちきれるほど心を満たす。
心の音が、大きくなった。
は
「ウィンリィ?」
と、ゆっくりとロイの方を向き、視界に入れると
刺繍をしていた針と布が手からすり抜け、カツンと音を立て落ちた。
刹那の静寂。
の瞳は大きく開かれ、静寂を切って椅子から立ち上がり逃げようとするが、入り口が一つしかないこの部屋から逃げる事など不可能だ。
それを合図に、ロイはへと駆け寄り、その手を掴んだ。
「!」
「何で・・・・・・何でここにいるんですか?どうしてここ・・・っ」
は悟った。
エド達が、ロイに告げたのだと。
けれど怒りも何も、醜い感情はを支配せず、ただ困惑するだけ。
ロイは全身をこちらへと向けたを見て、その姿の変貌に気付き、息を呑んだ。
大きく膨れた下腹部。
それが意味することを理解した。
大きさからして、もう直ぐ生まれるのだろう。
だったら・・・・・・そうだ、きっと。
でも、なぜだ。
もしそうなら、なぜ姿を消す必要があったんだ。
ロイは自分を落ち着かせるために深呼吸をして
言葉を発した。
「そのお腹はどうしたんだ」
「どうだって、良いじゃないですか。貴方には、関係、ないんですから」
「私の子ではないのか」
「違っ・・・違います。これは、私の子です」
「そうじゃなくて、相手は誰だと聞いているんだ。その子の父親は、私ではないのか?」
「っ・・・・・・」
は、もう気付かれているのを分かっていながら、まるで隠すように背を向けた。
けれど、掴まれた手は離れない。
言いたくても・・・こうなったのだから、言うべきなのだろうけど
決心出来ぬ自分がいて。
の瞳から、涙が流れた。
辛いのではない。悲しいのではない。
ここまで来て、手を掴んでくれるほど愛されていたのだと改めて知って
嬉しかった。
一人で生んで育てると決め、辛いと思ったこともあったけれど
それも全て、涙と一緒に流れていく。
の涙に気付き、もう抑えられなくて
ロイは後ろから抱きしめた。
「相手がいないのなら、私のところに戻って来い。お腹の子が私の子じゃなくとも、君の子なら愛せる自信はある」
「他の人の子なわけありません!私は貴方と以外、愛し合ったことなどないのですから・・・・・・」
勢い良くロイの方を向いて、知らぬ間に言葉が外へと吐き出されていた。
ロイ以外の人と寝たなんて考えられなくて・・・・・・勘違いされたくなくて。
そんなわけない!と思ったら、感情と共に外へと、真実は口から出て行った。
そんなにロイは微笑んで、お腹に負担が掛からぬよう優しく抱きしめた。
「まさか、君を手に入れに来たら、一緒に我が子まで手に入れられるなんて思ってもみなかったよ。・・・・・・どうして妊娠したっていってくれなかったんだ」
「だって・・・・・・大総統になるという目標がある貴方にとって、子供はまだ不必要だと思ったから。
家庭に縛り付けるのは、まだ駄目だって。守る者をこれ以上多くしては・・・・・・」
「守る者が増えたほうが、もっと頑張れるものだよ。すまなかった・・・気付いてあげられなくて」
「私の方こそ、黙っていなくなってごめんなさい・・・・・・」
「一つ、聞いて良いか」
「はい」
「あの日君に別れを告げられ、私はもう愛されていないのだと思った。けれど本当のところ、どうなんだね?」
「愛していないのなら、私はこの子を産む決心などしません」
恐る恐る、ロイの背に手を回して。
愛しい温もりを、久しぶりに感じた。
「なら、私の元に戻ってきてくれるのかね」
「あのっ、えと・・・・・・産んで良いんですか?」
「決まってるじゃないか!君と私の子だぞ。嬉しくないなんてことあるはずがない。
愛してるよ、。子供共々、一緒に私のところへ来い」
「はい・・・・・・・・・」
止まったはずの涙が、今度は大粒になって流れ始めた。
この言葉が欲しかった。
ずっと、待っていた。
愛しさが、止められない。
額にキスを落とし、唇を強く奪った。
何度も何度も角度を変えて
今まで味わっていなかった分、味わって。
またその身体を抱きしめた。
「ちなみに、予定はいつなんだ?」
「あと2ヶ月弱です」
「じゃあ列車に乗るのは億劫か・・・・・・」
不味いな・・・・・・、と呟いて顎に手をあてるロイには首を傾げて疑問符を上げた。
「え?」
「いや、仕事を放り出して来たんだが」
「えぇ!お仕事を終えてないのに来たんですか!?」
「君がここにいると知っていてもたってもいられなくなってな。ちゃんと中尉達の許可は取ってきた。
絶対に君を連れて来いと言われて、送り出されてきたからな」
「そうですか」
「でも、君はここで産みたいのだろう?生まれ故郷で」
何も言っていないのに、分かってくれた事が嬉しかった。
軍部の他の皆も、心配してくれていたことが伝わってきて、申し訳なかったけれど、それ以上に嬉しかった。
幸せが、身体中を支配して温かくなり、笑みが自然と浮かんできた。
「はい」
「なら私一人で戻るのか。どうせ悪態をつかれるのだろうな・・・・・・」
「あっ、だったら着いたら電話してください。そうしたら、私から皆さんにお話するんで」
「そうだな。それなら皆も納得してくれるだろう」
ロイもに釣られて微笑んで。
我が子がいるお腹へと目を向けた。
「・・・・・・触っても、良いか?」
「えぇ、触ってあげてください」
恐る恐る触れると、ぴくんと中から反応が来て。
ロイは顔を輝かせてを見た。
「今の分かったか!」
「はい。きっと、パパに会えたことが嬉しかったんですよ」
あなたのパパはここにいるよ。
これからは、二人であなたを愛すから。
愛しい愛しい、私達の生命(いのち)。
早くその顔が見たいな。
* * * * * * * * * * * * * * * * *
それから二ヶ月のときが過ぎ
ロイの元へ一本の電話が入った。
それを聞くと同時に、ロイはあの日のように仕事を放り出し
愛しい人が待つ場所へと向かった。
挨拶をしている余裕などなく、階段を駆け上がって、彼女がいる部屋のドアを大きな音を立てて開けた。
「生まれたとは本当か!?」
は人差し指を唇の前でたてて「しーっ」とした。
「あっ、すまない」
今度はゆっくり静かにドアを閉めて。
の元へと歩み寄り、側の椅子に腰掛けた。
その腕には、生まれたばかりの我が子が真っ白な布に包まれている。
「男の子ですって」
差し出された我が子はとても小さくて、壊れてしまわないか恐る恐る腕の中に収めた。
伝わってくる、小さな温もり、命の鼓動。
実感がやっと沸いてきて、嬉しいなんて一言で言い表す事など出来ぬ感情が身体中を支配する。
「お疲れ様、」
ありがとう、と言うように頬を撫でて
その唇に
そっとキスを落とした。
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これで終わりです。
少しアップテンポな感じがしますが、予定通りの話数です。
とにかくロイに彼女を迎えにいかせてハッピーエンドということしか考えていなかったので
どうなるかと思ったのですが、このような感じになりました。
お気に召されたでしょうか?