新学期が始まり、皆新しいクラスに慣れた頃だろう。 桜も散り、どこか物寂しくなったそんな時。 まるで嵐のように、突然奴はやってきた。 01 嵐がきた〈 転校編 〉 チャイムが鳴って、皆は自分の席へと着く。 しかし、急ぐ気配は無に等しい。 そこが新入生と、二年生の大きな違いの一つだろう。 何時もは、担任がやってきて、教壇に立ち挨拶をする・・・・・というのが定番なのだが、 今日は少し違った。 がらり、と扉が開き担任が入ってきた。 そこまではいつもと一緒だった、が。 隣に女生徒がいたのだ。 流れるような煌めく金髪に碧眼。 膝上丈のスカートからはスラリと健康的な足が除いている。 男子だけでなく、女子さえ見惚れるように彼女を見た。 ただ、一人の少年を除いては・・・・・・・・・ 担任は何時ものように教壇に立ち、挨拶の合図はなしでいきなり話し始めた。 「新学期が始まってまだ間もないが、転校生が来た」 そんな情報、情報通の女子にも誰にも回っていなかったので皆はざわつく。 担任は「静かに!」と声を張り上げ、彼女に「いいぞ」と言った。 彼女は頷くと、皆のほうを見、そしてフッと鼻で笑った。 一人の少年と目が合ったからだ。 その少年は周りのことを気にせず、少女に向かって「なんだよ」とイラついた声を発した。 「うるさい。ちょっと黙ってろ」 見た目とは百九十三度くらい違う言葉使いに皆は少々驚く。 彼女はそんなこと気にせず、簡単に自己紹介をした。 「高石ミコト。えっと、一年間フランスに留学してました。よろしく」 そして愛想良くにこりと笑う。 それは可愛いや綺麗というよりも、カッコいいという形容詞が当てはまる笑みで、男子よりも女子の心を掴んだだろう。 「んじゃ、転校生も来たことだし、席替えでもするか〜」 担任の一言に嬉しがる者と嫌がる者に分かれたが、そんなのお構いなしに、担任は 事前に作ってきたあみだくじの書かれた紙を二つ出し、片方を男子、そしてもう片方を ミコトに書かせてからから女子に回した。 数分後。 学級委員二名が前に出され、あみだくじが開封される。 黒板に書かれた席をあらわす四角に、どんどん名前が書かれていった。 やはりここでも、嬉しがる者と嫌がる者に分かれた。 書き終わる頃にまたチャイムが鳴り「席変えろ〜」と言い残し、担任は教室から去っていった。 皆は机を移動し始める。 ミコトの席は親切な女生徒がくじで決まったところまで机を運んでくれたので、ミコトは荷物を持ち、そこに歩き始めた。 そして自分の斜め前の席の少年を見て、目を輝かせる。 「太一じゃん!久しぶり〜。何?同じクラスなん!?」 「そーみてぇだな」 八神太一は嬉しそうに、にかっと笑った。 「じーさん元気か?」 「そりゃ元気に決まってんじゃん!なんてったってじーちゃんだからな」 ミコトもにかっと笑って 「よろしくな」 「おう!」 短く再会の言葉を交わし、ミコトは荷物を整理するために席へ着く。 太一は隣の席の少女に「知り合いなの?」と問われ、その質問に答えている。 ここまではまだ、平和だった。 ここまでは。 ミコトは荷物の整理が終わったのか、席を立ち上がった。 そして後ろを振り向き、少年のほうを見て、またフッと鼻で笑った。 「なんだよ!つか、なんでお前いるんだよ。留学は一年だろ?こっちに帰ってくるのは七月じゃなかったのかよ」 少年・・・石田ヤマトは立ち上がり、ミコトと向き合った。 二人の間で火花が散る。 なんだなんだ、と近くにいた生徒達が二人を見た。 「留学は一年だ。七月までいたら一年以上留学することになるじゃねぇかバーカ」 「普通留学っていうものは語学留学で早めに行って、学校が終わる七月までいるもんだろ、バーカ」 ヤマトはフッと鼻で笑う。それに対してミコトは笑い返す。 「はっ。留学したことのないお前が留学について語るな」 「何っ!・・・・・あれ〜、良く見たらお前スカート穿いてるじゃん。間違ってるぞ。男の制服はこっち」 ミコトに見えるよう少し足を上げ、穿いているズボンを引っ張った。 「あたしは女だ!」 「だ!」と同時に足でダン!と床を踏む。 「貧乳まな板が?」 「これでもBだっ!」 ミコトは胸を張り、胸の膨らみを強調した。 何時の間にか、クラスの大半が二人の争いの見物人となっていた。 「んな、一年で成長するわけないだろ?どうせパットとかいれてんだろ!?」 「いれてねぇー!・・・何だ?羨ましいか、この女顔!お前もフランスに来れば少しは淑女っぽくなれたかもしれないのになぁ」 にやにや笑うミコトに対し、今度はヤマトが足でダン!と床を踏んだ。 「俺は女顔でもねぇーし、淑女とかなんだよ!つーか、言葉の通じねぇところになんか一年もいたくねぇ!」 「ガキ」 ミコトはぼそっと呟く。 それは呟くといっても、ヤマトに十分に聞こえる声だった。 「何だと!お前、兄に向かってその口の利き方はなんだ!」 「兄って言ったって、ほんの少し早く母さんの腹か出ただけだろ?!そんなんで妹にされちゃたまったもんじゃねぇ! ほとんど同じ時間母さんの腹ん中いただろ?!それでお前を兄と思うか!つーか、お前が本当に年上でもぜってぇー兄なんかに思わねぇ!!」 そのミコトの言葉に、それを聞いた生徒全員が気づく。 二人が〈双子〉だということに。 太一から聞き、それをみんなよりは早くに知った武ノ内空は二人の顔を見比べ言葉を発す。 「似てるわね・・・・・・」 「あぁ」 太一は苦笑しながら頷いた。 争いはまだ続いていた。 続くどころかヒートアップし、終わる気配が全くない。 「それにしてもチビだなぁ〜。顔半分違うじゃん」 手を使って、自分の頭とミコトの頭の上を何度も行き来させる。 「お前男だろ!男は女よりも成長するんだよ。常識だろ?!」 「世界には女より小さい男はたくさんいるだろ!そんなのも分からねぇで留学してたのかよ。 フランス男に毒されたんじゃね?」 「くっ・・・じーちゃんを悪く言うな―――!!!」 ミコトのスラリと伸びる健康的な足が、ヤマトの顔を目掛けて勢い良く回された。 それをヤマトは寸前でヒラリと交わす。 「じーちゃん仕込みの回し蹴りが!」 「弱いな」 「何だと!」 もう一度ミコトが回し蹴りをし、それをヤマトが片手で止め、ミコトが今度は拳をヤマトにいれようとした瞬間。 一時間目の始まりを告げるチャイムが鳴った。 それは試合終了の合図のように、二人はピタリと足を下ろし手を下ろした。 そして席に着いた・・・・・・が。 ミコトの席から人一人はさんで斜め後ろがヤマトの席だったので、口喧嘩は一時間目の学活のために来た担任に 「石田、高石、黙れ」と言われるまで、続けられたという。 BACK/ NEXT/