BACK/ NEXT01 金髪の髪は腰まで届き、さらさらと揺れる先はちょこんとカールしている。 長いまつげの下には、綺麗な緑色の瞳。白い肌に、触れれば折れそうな細い手足。 「高石ミコト、4年間のフランス留学を終えて日本に戻ってきました。 日本語は本当に苦手で、おかしな事を言う場合があるかもしれません。 これからよろしくお願いしますね。」 にこっと、笑顔を浮かべる転校生。 その微笑を見て、周りのクラスメート達が同異性かまわず赤面する中、二人の少年は正反対の表情をしていた。 一人は心底驚き、同時に嬉しそうに笑顔になる。 一方もう一人の少年は心底驚き、顔を歪めて顔をそらした。 そんな二人の様子を見て、二人の幼馴染の少女は首をかしげた。 転校生はまだおとなしく微笑を浮かべている。 嵐の前の静けさは、クラスメート達のざわめきによってかき消されていた。 ミコトちゃん、高石さんと、こんな6月と言う微妙な時期にやってきた転校生を囲む。 梅雨独特のじめじめした空気が一掃され、美人帰国子女とお友達になるべく人垣が出来た。 囲まれたミコトは愛想よく質問攻めに笑顔で答えていたが、ある一人の顔を見つけると、ぱっと笑った。 「太一!久しぶり、元気そうだな!同じクラスとは思わなかった。」 ガラッと口調を変えたミコトに周りの人間を驚いたような顔を浮かべた。同時に一人の少年に視線が向く。 「やっぱり、あの時のミコトか!こっち来るって連絡くらいよこせよ!」 「ははっ!悪ぃ悪ぃ。じいさんの説得に時間かかってさぁ、家出同然にこっちまで来た、って訳。 大変だったんだぞ、あのじいさん、いい年して子供みたいな事言い出すからさー。」 砕けた言い方に唖然とするクラスメートを放って置いて、太一は机の目の前までやってくると、苦笑する。 「あのパワフルなじいさんか、そりゃ大変そうだな。」 「日本に行きたきゃ、俺を倒して行け、だぜ?漫画の読みすぎなんだよ!」 大体、あのじいさんに勝てる訳ねぇっての!と、フランス人形のような美少女は外見とは裏腹に、砕けた言い方で断言した。 第一印象と中身の違いに唖然とするクラスメートに、太一は同情した。 自分も最初は驚いたのだ、ヘルメットを脱いだ彼女に。 「さっさと抜け出して日本に来た、って訳。そのうちじいさんから電話でもありそうなんだよ・・・。」 めんどくさいなぁと、やれやれと肩をすくめる。外見はともかく中身はかなり、ボーイッシュと言うよりは男前だ。 「しっかし、お前相変らずだよな、その外見と中身のギャップが。」 「うるせぇな、俺だって好きでこんな格好になった訳じゃねぇんだって。髪、切ろうと思ったけどねぇ・・・。 予定外な事が起きまして、こうずるずる延ばすはめになったんだよ。」 やっぱ似合わねぇ?と不安そうな顔で言うミコトに、周りのクラスメートはいっせいに首を横に振る。 黙っていればフランスドールだ、似合わないはずが無い。 「中身が中身だからな、似合わないんじゃないか?」 一人、ボソッと零れた言葉は、割と静かな教室に深く響いた。 驚くクラスメートの視線はその一人にそそがれる。見れば窓側の席で睨み付ける様にこちらを見ている。 とても目つきが冷ややかなその人物は、ヤマトだ。 「せっかく平和だったのに、なんで戻ってくるんだよ、まったく・・・。」 知り合いか?と思うクラスメートたちを尻目に、ミコトはギッと睨み付けると鼻で笑った。 「うるせぇんだよ、お前。 俺だってお前とだけは同じクラスになりたくなかったし、これから毎日顔を合わせるなんてゆ・・・・。」 ミコトはいきなり言葉を止めると考え込むように視線を泳がすと、首をかしげる。 「・・・・ゆーつ?だ。」 「憂鬱、だろ?お前、相変らず日本語だけはしゃべれねぇのな。」 表情を少しだけ柔らかくしたヤマトに、馬鹿にされたと思ったのか、ミコトもニヤッと笑う。 「お前も相変らず、母さん似に育ったよな〜?この女顔が。」 両者の眉が跳ね上がる。バンと机を叩いて立ち上がったのは同時だった。 「ま、待て待て待て。落ち着けって、お前ら。」 「そうよ!ヤマト、まさか女の子に手を上げるつもり?」 太一が慌ててミコトの腕を引き、たまたまヤマトの近くに居た空に制止をかける。 「太一、俺がアイツに負けるわけ無いだろ?今までの恨みここで晴らしてくれる。」 「空、危ないから下がってろって。あの暴力馬鹿は、何するかわかんねぇんだから。」 同時に言ったはずなのに聞き取れたのか、お互いがお互いの言葉に怒りマークを増やす。 「誰が暴力ば・・・・・。」 ダンと足を鳴らしたミコトは、不自然に言葉を止めた。視線はヤマトから空に移っている。 「あ、やべ。空、離れろ!」 何かに気付いてヤマトが言った時にはすでに遅く、ミコトは自然に開いていた人垣を通り抜けていた。 そのまま空に飛びつく。 「きゃっ!」 自分に来ると思っていなかったのか、空がよろけるのをちゃっかり自分の足を先に着いて抱きとめる。 バランスを崩したままの空に限界まで顔を近づけると、ミコトは微笑んだ。 「可愛いお嬢さん、スポーツは何がお好きですか?」 「・・・は?」 唖然としていた空は、間近のミコトの顔に赤面する暇も無く、彼女と引き剥がされた。 ベリッと音がした気がすると、後に友人に聞く事になる。 ターゲット・ロックオンと語る目に気付いたヤマトが、太一に空を任せてミコトを引き剥がしたらしい。 「おっまえ、まだあのナンパ癖直ってなかったのかっ!」 「いいだろ!可愛い女の子は宝なんだって、じいさんの口癖じゃねぇか!」 「その後のばーさんのキレっぷりを忘れたのか?」 昔からああなのか?と首をひねり、じいさんの入れ知恵かよ!と突っ込む暇も無いまま、 すぐに返されたヤマトの言葉は、ミコトに大きな衝撃を与えたらしい。 「・・・・出来れば忘れたい。」 フランスドールのマシンガントークは、チャイムと同時に弱弱しく終了した。 一時間目の理科を乗り切った彼らは、ヤマトの机に集っていた。 もちろんメンバーは、ミコト、太一、空の4人だ。 「ところで、生で会うのは久しぶりだよな、ヤマト!」 ニコッと人の良い笑顔を浮かべたミコトは、そのままヤマトの机に座る。 一方彼は自分の椅子に座りながらも、軽くため息をついた。 「ああ、2年は会ってないよな・・・。2年半ぶり、になるか?」 「それくらい、かな。ま、本当に変わってねぇよ、マジで。 料理の腕は上がったらしいじゃん?楽しみにしてるよ、今夜の夕飯。」 ニヤニヤ笑うミコトの隣で、空が不意に手を上げた。 「ねぇ、二人は知り合いなの?太一も見たいだけど・・・?」 空に至っては自己紹介すらしておらず、話に入るタイミングを計っていたらしい。 「ん?ああ、ほら、去年の冬の事件、俺はタケルとフランス行っただろ? その時手伝ってくれたんだ。」 「そういう事。空ちゃん、っていうんでしょ?たっちゃんから聞いてます、よろしく!」 声を小さくした太一の説明に同意したミコトは、そう言って笑った。 ヤマトの補足によると、たっちゃんとはタケルの事らしい。 「事件って、じゃあミコトちゃんも・・・?」 選ばれし子供なの?と言おうとした空の言葉をさえぎる形で、ミコトは首を横に振った。 「すごっかったぜ、じいさんと二人、棒術で倒すんだから・・・。」 感心したような太一の言葉に、空が固まる。 デジモン相手に棒術は、デジモンの怖さを知っている者なら誰だって固まるだろう。 「3年前の春の事件、たっちゃんに夏の話聞いてたとは言え、パソコンの中でやっ君見つけた時には驚いたよ。 その時、太一もいたけどさ。」 どうやら、ディアボロモンの事を言っているらしい。やっ君=ヤマトだろう。 ああ、あの時は大変だったよなとしみじみ言う太一は、ふと何かに気付いたように動きを止めた。 「・・・・そういや、ミコトも高石だったよな?って事は、ヤマトとミコトって従兄妹?」 その瞬間、二人は同時にはぁ?とキョトンとした顔で太一を見た。 「あ?え、違うのか?」 その反応に驚いたのか、逆に太一が驚き首をかしげる。 何か言いたげなヤマトの視線がミコトにいき、そのミコトは少し考えてから納得したように頷いた。 「あー、そっか。言ってなかったっけ。」 結局、じゃあ秘密★と、一つ下の後輩を思い出させるようなウインクをされて、 その話はチャイムと同時にはぐらされたのだった。 その日の放課後、太一と空、そしてヤマトの三人はいつものように一緒に下校道を歩く。 いつもと違うのは、そこに外見だけのフランスドールがいる所だ。 「ミコトちゃんの家って、こっちなの?」 空の疑問にん〜?と軽い調子で首をかしげたミコトは、苦笑しながら答える。 「俺はヤマトとタケルの家を往復するつもりだけど?」 その言葉に、空と太一は昼間の喧騒を思い出した。 夕食をヤマトの家で食べるという事は、両親が共働きか、従兄弟の家に預けられているかしているのだろう。 もちろん、従兄弟とはヤマトタケル兄弟のことだ。 「ああでも・・・・・・・・・・・・ぉ?」 何か言いかけたミコトは視線を動かした瞬間に固まり、大きな瞳をパチクリと動かした。 「ぉぉぉ〜!」 ぱっと瞳を輝かせたミコトは、首をかしげる3人を置いて走り出す。 持っていたバックはヤマトに押し付けて、だ。 一瞬唖然として、慌てて追いかけるが、足が速くて追いつけない。 その先に、見覚えのある三人組の姿があった。 「わぁっ!」 その道路側の端を歩く、白い帽子の背の高い少年に見事が飛びついたのを見て、ヤマトが一瞬減速して額を押さえたのが見えた。 そして一気に加速する。 「タケル〜!」 語尾にハートか♪が付きそうな言葉に、話の途中で割り込まれたらしい大輔とヒカリが呆然としている。 一方、後ろから抱きしめられて、腕の中でくるっと回され抱きしめられたタケルは、 よほど力強く抱きしめられているのか、 巻き込まれなかった右手だけで抗議するようにミコトの背中を遠慮なくグーで叩いている。 幸せそうに抱きしめているミコトは、ドンドンと響く音に耳を貸さずにさらに強く抱きしめている。 一足早くにたどり着いたヤマトは、とりあえず固まる二人を避難させる。 「悪い大輔、これ持っててくれるか?」 大輔に自分の指定鞄を手渡し、そして離れていろとその背中を押すと、 追いついた太一と空の目の前でミコトのバックを彼女の頭を目掛けて真横一文字に振るう。 そこにはタケルの頭があるのにもかかわらず、だ。 思わず瞑った目より先に聴覚が、ビュンと言うかすりもしない音として、はずした事をよく知らせてくれた。 開いた目に映ったのは、ミコトがタケルを抱えた姿のままその場にしゃがみこんでいる姿だった。 「あっぶねぇな、ヤマト!タケルに当ったらどうしてくれるんだ!」 「そういうお前はタケルを窒息死させる気か?」 ヤマトの、何故か慣れているような冷静な言葉に、ミコトはぎゅ〜っと抱きしめていたその腕の中身をハッとして見下ろした。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 ゆっくりと腕をほどくと、途端にタケルが咳き込み始める。 「ご、ゴメンねゴメンね。わざとじゃないんだよ! ただ、たっちゃんに会えて嬉しくて嬉しくて、つい。本当にね、わざとじゃないんだよ?本当だよ?」 わたわたと慌て、げほげほと咳き込むタケルにミコトは必死に謝る。一方、ヤマトは呆れた目で彼女を見る。 もちろん、その片手は、兄貴らしく弟の背をさすっているのだが。 「お前さぁ、背丈考えてやれよ。ついでにその教え込まれた格闘技術。 一気に急所叩き込むのが癖になってんだからさ、よく考えて行動するとか・・・・。」 な?とバックを返しながら言うヤマトの言葉を聞きつつ、ミコトは眉を寄せる。 「好きで格闘技始めた訳じゃないし・・・。だいたい、なんで私ばっかそんなことを言われなきゃならないの?」 「何でお前がキレるんだよ?」 自分に突っ込んで来るミコトにヤマトが一歩引く。 そんな会話の隙に抜け出してきたタケルは、未だ咳き込みながら大輔・空・八神兄妹のいる方へとやって来た。 「だ、大丈夫か?」 心配そうな大輔の言葉にゆっくり頷き、その手にあるヤマトの鞄を受け取る。 ごそごそとその鞄の中身を勝手に探ると、石田家のものであろう鍵を取り出した。 そしてもう一度コホンと咳き込むと、口を開く。 「ゴメンね、大輔君、ヒカリちゃん。ああなると長いから、先に帰る。」 「ええ、気をつけて・・・。」 慣れたように苦笑した彼は、呆然とする4人を置いてさっさと行ってしまった。 その手にはヤマトの鞄と鍵がある。 「っておい、ヤマト。」 その後ろ姿が見えなくなった頃、金縛りが取れたように太一は二人の間に割って入った。 「タケル君、行っちゃったけど・・・。」 付け足すような空の言葉に、二人がピタリと止まった。 「え、嘘!また締め出される〜!」 バイバイと手を振り走り出そうとするミコトの襟首をとっ捕まえ、ヤマトは大輔を振り返った。 鍵を持っていったのかを尋ね、その手に自分の鞄ごとなくなっていることに気付く。 「って、俺まで同罪かよ・・・。」 じゃあなとミコトの腕を引っ張り走っていく。 その後姿を見送りながら、太一は呟いた。 「・・・・・“また”?」 「って言うか、あの人、誰ですか?」 大輔の言葉は、もっともである。