The Future Continues
――― お前なんて要らない
私は布団を跳ね除けて、肩で大きく呼吸をした。
心臓は大きく波打つ。
それを押さえるように、私はギュッと胸の辺の服を握った。
しがみ付くように。
そんなこと言われた覚えない。
でも、夢の中のお父さんは、確かにそう言っていた。
私の記憶にないだけ?
それとも……
「大佐ぁ………」
思い出したのは昨日の大佐の言葉。
シーツをぎゅっと握って、涙が流れそうになった左目に当てた。
声は虚空へと、消えた。
『 The Future Continues 』
〜プレシャス〜
重い頭を抱えて軍へ向かう。
夢の中でお父さんが言った言葉が、過ぎっては消して過ぎっては消して。
何回しただろう。
敷地内に入ると、大佐が視界に入った。
軍服のポケットへ手を突っ込み、規則的な歩幅でこちらへと歩いてくる。
後ろにはヒューズ中佐とアームストロング少佐。
目が合ったので、逸らそうとした。
昨日の今日だから。
それに気付いたらしく、大佐は眉間に皺を寄せる。
「おはようございます」
「あぁ、おはよう」
声を掛け難かったが、上官を無視することは出来ない。
後ろのお二人にも同様に頭を下げて挨拶をする。
「久しぶりだな、ちゃん」
「えぇ。お二人とも元気そうで」
「顔色が悪いが…」
「あっ、ちょっと寝不足なだけですから大丈夫です」
アームストロング少佐に指摘され、私は慌てて理由をつくった。
寝不足なのは正解。
でも本当の理由は、夢の中のお父さんが発した言葉と昨日の大佐の言葉。
それが一番、私を精神的に疲れさせていた。
要らないなんて言われたくない。
恐怖と不安で目が冴えて眠れなかったのだ。
「これからどこにいかれるのですか」
「タッカー氏を引き取りにな」
「あっ…そうなんですか」
聞かなければ良かったと少し後悔した。
「一緒に来るか?」
ヒューズ中佐に誘われて、行きたくないけど中佐のお誘いだから断るのも礼儀としてどうだろうかと悩んでいたら
「少佐は来なくて良い」
私ではなく大佐が答えを出した。
「お前に聞いてんじゃねーよ。俺ぁちゃんに聞いているんだ」
「行きたくないと顔が言っているだろう」
見抜かれていた。
しっかりと私を見て、私の心情を悟ってくれた。
……嬉しい、って思うのはおかしくないよね?
「そんなん口で言ってねぇから分かんねぇだろ」
喧嘩腰のヒューズ中佐を無視し、大佐は私と向き合い、私と視線を合わせた。
「昨日は言い過ぎて悪かった」
「いえ、私の方こそあんなに取り乱してしまって…」
謝られるなんて思ってもいなかったから、驚いた。
少しだけ、不安が消える。
後ろで「無視か。おい、ロイ、無視んなよ!」とヒューズ中佐が必死で訴えているけど、
すいません…無視させていただきます。
「少し仮眠を取ると良い。そんな状態では仕事も疎かになってしまうだろう」
「大丈夫ですよ。寝不足って言っても、早く起きすぎてそれから眠れなかっただけですから」
無理して笑ったことに気付いたらしいが、大佐は「そうか」とそれ以上は何も言わず
「行くぞ」
と中佐と少佐に声をかけて歩き出した。
私の下からどんどんと遠のいていく。
一歩遠くなるごとに、不安と寂しさが増えていく気がして
「大佐!」
私は無意識のうちに大佐を呼んでいた。
「何だ」
大佐は驚いたように振り返り、私の許へと戻ってきた。
「あの、えっと…」
意識的に呼んだのではないので、言葉が見つからない。
でも何故か、喉からするりと出ていった。
「私は、必要ですか」
私、何言ってるの。
そんなこと聞いてどうするのよ。
頭は混乱し始めている。
大佐は私の突拍子もない疑問に対して、フッと笑うと
「そんなこと言うまでもない。必要としているに決まっているだろう」
闇が、解き放たれた。
昨日からの不安。
昨日からの絶望感。
「ありがとうございます」
頭を下げて微笑んだ。
嬉しかったから。
態度じゃ分からない。
言葉で言われて始めて感じる安堵感。
……そういえば、前も言われたことある。
何時だっけ。どんな時だっけ
…
……
………あっ。
頬が熱を帯びる。
あの時の言葉が思い出された。
―――…私には君が必要だ。誰よりも必要なんだ
「どうかしたかね」
「いえ、何でもないです」
慌てて顔の前で両手を振った。
「そうか。なら良いが…。では、私は行くよ」
「はい」
「帰ってきたら…」
そこまで言って、大佐は口を閉じた。
「何ですか?」
「いや、何でもない」
一体何を言おうとしたんだろう。
言わなかったって事は、大して重要ではないってことよね。
大佐は踵を返すと、中佐と少佐の許へ歩き出した。
二人の許に行くまで見送り、私も反対方向へ歩き出した。
心に吹く、暖かい風を感じながら。
「そっれにしても、ちゃんまた一段と綺麗になったな」
「やらんぞ」
「なっ!そんな目で見てねぇーよ。俺には愛する妻と子供がいるんだ!
…つか、ちゃんはお前のもんじゃねぇだろ」
「もうすぐなるさ」
「…本気なんだろうな。本気じゃないなら直ぐに諦めろ。遊び半分で寄ってくる女達とは違うんだぜ」
「分かっている。寄ってくるどころか、好きになって貰う所からスタートだ」
見上げた空は、昨日と同じ。
でも、二人の・・・ロイとの間にある〔何か〕は昨日とは少し違う。
「そうか……本気なら応援するぜ」
「それは有難い」
ロイとヒューズがそんなことを話していたなんて、は知る由もない。
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プレシャス…大事な人……というより〔必要〕という意味で取って下さい。
必要な人。
今はまだ、主人公の中では〔部下〕として。
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