嬉しかったんだ。驚いたんだ。 君が現れて。 運命ってこういうことかな?って思っちゃったよ。 会いたい、って思ったら。来て、って思ったら 君が現れた。 君は俺を視界に入れると優しく微笑んだから、俺もつられて笑った。     phrase.5 「火原先輩、こんにちは」 「やっ、ちゃん」 「練習をなさってたんですか?」 「うん!ちゃんは?」 「大した理由はないですけど・・・ただ、外の空気に当たりたいな、と思いまして」 寒いですね、ってフェンスを掴んで空を見上げる。 太陽は雲と雲の隙間から顔を覗かせている程度。 冬だからしょうがないのだろうけど、この頃輝く太陽を見てない。 ふと、ちゃんが音を奏で始めた。 口ずさむ程度だけれど、それはきっと俺にしか聴こえないと思って 俺だけのために歌われているように錯覚して 胸が、ドキドキする。 きっと、今しかない。 きっと、今この想いを伝えなければ一生伝えられない気がした。 鼓動が速くなる。頭がふらふらする。 胸が、身体中が、頭の天辺から爪先まで熱くなる。 俺はトランペットをケースの上に置いて、気持ち良さそうに歌を口ずさむちゃんを 後ろから抱きしめた。 歌が止まる。 俺だって、何でこんなことしたのか分からなかった。 けど、自分の行動を恥ずかしいとか思わなくて 「火原、・・・・・・先輩?」 困惑して、少し震えるちゃんを、もっと強く抱きしめて 気持ちを、 「ちゃん、俺・・・・・・」 想いを 「好きなんだ」 紡いだ。 もっと言いたいことはあった。 君のことを考えるだけで胸が苦しくなることとか 柚木に嫉妬してしまうこととか けれど、言えたのはそれだけで 伝えたら一気に恥ずかしさとか言い切った達成感とかが湧き出てきて 言えなくなってしまった。 まだ離さない、身体。 それは小刻みに震えていて 「ちゃん・・・・・・?」 心配になったから、抱きしめるのを止めて、肩を掴んで俺の方を向かせたら ただ一言 震える声で。 今にも消えてしまいそうな声で。 「ごめん、なさい・・・・・・」 ちゃんは、泣いていた。 それを隠すように、俯いて。 「すいません・・・その気持ちに、今は答えられないんです」 一瞬だけ俺を見て、 俺の手を振り払った勢いで、髪が拒むように俺の手を叩いた。 片手で顔を抑えて、俺に背を向けて ちゃんは走り去ってしまった。 手を伸ばそうとせず、俺はただ後ろ姿を見送った。 もう見えないのに、扉は閉まっているのに。 俺はしばし、そこをずっと見つめていた。 その時、その扉が開かれて ちゃん!? って思ったら、そこにいたのは日野ちゃんだった。 「火原先輩・・・・・・どうしたんですか?」 心配そうに俺の元へ寄ってくる。 「どうして泣いているんですか?」 日野ちゃんの言葉で、自分が泣いているのが分かった。 どうりで何か冷たいと思った。 ・・・・・・俺、泣いてるんだ。 何で? 元々叶う可能性なんてほとんどないことくらい分かっていたのに。 何で? 何でも良いから聞いて欲しくて。 自分の中に押さえ込んでおけなくて。 俺は日野ちゃんに言葉を渡した。 「振られちゃったんだ、俺・・・・・・今さ、柚木がすっごく羨ましい。 こういうのはいけないって分かってるけど、憎くも感じちゃうんだ。ずるいよ、柚木・・・・・・」 君の傍にいたかった。 でも、何時も俺よりも柚木のほうが傍にいた。 ずるいよ。羨ましいよ。憎くさえ感じるよ。 好きなんだ。 こんなにも。 涙なんてここんとこ流していなかった俺が、涙を流すくらい。 好きなんだ。 ねぇ、一つ聞いて良い? 最後に言った言葉。 「今は答えられない」って言ったよね? じゃあ、何時になったら答えてくれるの? ごめんなさい、は答えじゃないの? その答えが君のその、美しい音色を奏でる口から聞ける日を、待っているから。    ++++++++++++ 失恋。 けれど、失恋は終わりではないよ、先輩!
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