久しぶりに会う君は、あの日よりも長い髪を垂らして 薄くお化粧をして、小ぶりのピアスをつけて 恥ずかしそうにもじもじしながら 頬を桜色に染めながら 俺を見て微笑んだ。 ずっと、見たかった、君の笑顔。 ずっと会いたかった。 君が今、目の前にいる。     phrase.7 一瞬、幻なんじゃないかって思った。 あの日よりもちょっとだけ大人びた君が、すぐ傍にいる。 手を伸ばせば触れられる距離に。 しばし目が逸らせなくて 時間が俺だけ止まってしまったかのように、ちゃんを見つめた。 その間に 「じゃあ、僕は行くから」 「はい、ありがとうございます」 「お父さんに宜しくね」 「こちらこそ」 という二人の会話がされ、柚木は帰っていった。 「じゃあ、火原。僕はこれで」という言葉にも、反応を示せなかった。 「あの・・・・・・、火原先輩」 その懐かしい清んだ綺麗な声で呼ばれて 俺の周りの時間が動き始めた。 「あっ!ごめん、えと、何?」 「えっ・・・と、お時間大丈夫ですか?」 「うん、全然平気平気!!」 「良かった・・・」と君は安堵の吐息を吐き出して微笑んだ。 何でこんなに緊張してるんだろ、俺。 だって君は、前よりももっと綺麗になっていて あの日の涙を忘れてしまうくらい、あの日の涙は夢だったんじゃないかって思うくらい 綺麗に笑うから。 君を好きだって気持ちが溢れ出して それが血液の循環を促進しているかのように 体中が熱くなる。 君は小さく深呼吸をして、俺の瞳と自分の瞳を合わせ、お腹の辺で両手を組んで ギュッと握って。 「私・・・・・・あの時の答えを、言いに来たんです」 その言葉を、きっと俺はずっと待っていた。 あの日抱いた淡い期待を、今の今まで。 君を好きだって気持ちと一緒に、ずっと心の隅っこに隠しておいたんだ。 そして君は、ぽつりぽつりと 美しい音色を奏でる口から言葉を紡ぎ始めた。 「・・・あの時、火原先輩に好きだって言われて、嬉しかったんです。 でも、私は梓馬さんの婚約者の候補でしたから・・・だから、答えられなかったんです。 予てから父は、柚木家と深い関わりを持つことを望んでいましたから・・・・・・。 私、別にそれで良いと思っていました。梓馬さんは兄のような存在でしたけど、好きなことに変わりはなかったので。 婚約者に選ばれて、柚木家とうちを結ぶ架け橋になることに何の疑問も抱いていませんでした。 火原先輩、貴方にお会いするまでは」 今すぐその手を掴んで、小さな身体を抱きしめてしまいたかった。 この胸の高鳴りと、上昇する体温を抑えたくて。 でも、肝心な言葉をまだ聞いていないから 俺はそれを我慢して、話しに聞き入った。 「初めは明るくて元気で人当たりも良くて、良い先輩だと思っていました。 けれど、同じ時間を共有していく内に、自分の心の中に今まで持ったことのない感情が芽生え始めたのに気付いて ・・・・・・気付くと、貴方を目で追っていました。貴方が女の人と仲良く話しているのを見るだけで、心の中にもやもやした蟠りが出てきて。 ふとある日、私、この人のことが好きなんだって気付いて・・・・・・怖くなってしまったんです。貴方の傍にいたら、きっともっと好きになってしまう。 候補者の中の一人に過ぎないけれど、私は梓馬さんの婚約者なのに・・・・・・。だから私、逃げたんです。 この感情はあの時の私にとって、いけないものだったから」 きっと過去を思い出して その時の辛いこととかを思い出して ちゃんの瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。 「貴方から離れれば、この気持ちは育つ事はないと思ったから、以前から留学は考えていたので、イタリアに逃げました。 ・・・・・・けれど、梓馬さんからたまに貴方のお話を聞いたりするだけで、この想いは育っていき、抑えても抑えても抑え切れなくて ・・・・・・辛くて、苦しくて、おかしくなってしまいそうで。これでは駄目だと思った私は父が会いに来て下さった時に、言いました。 好きな人がいます。だからその人に想いを告げさせて下さい、 もし反対するなら勘当して下さい、 と。私の言葉に父は至極驚いたらしく、しばし唸りながらお考えになって。 お前が選んだ人ならきっと良い人なのだろう。今まで私はお前に自分の希望を押し付けすぎた、 と謝って、 お前が幸せな笑顔を浮かべていることが、私の何よりの幸せだ と言って下さったんです」 まるで、あの歌のようだと思った。 好きな人がいる女性が、父親に許しを請い、もし反対するなら川に身を投げて 死ぬという あの、初めて君の歌声を聞いた 『私のお父さん』のようだと。 ちゃんは涙で濡れた瞳を指先で拭って、微笑んだ。 それを合図だと思った俺は 華奢な手首を掴んで引き寄せて抱きしめた。 「やっと聞けた・・・ずっと待っていたんだ。あの日の答え」 「すいません」 「謝らないで。君はこうやって伝えにきてくれたんだから。・・・・・・俺だって、ずっと忘れられなかった。好きだよ、君のことが」 「はい・・・・・・」 服越しに伝わってくる温もり。 人の体温がこんなにも心地良いものだということを知って 俺はもっと強く抱きしめた。 約束するよ。 君がこれから先ずっと 幸せな笑顔を浮かべていられるように 俺は何があろうとも、君の傍を離れないと。 違う。 離れないんじゃなくて、離れたくないんだ。 やっと、掴めた。 やっと君を、後ろからではなく前から。 この温もりをこれからもずっと抱きしめていきたいんだ。 君の笑顔と歌声を刻み込んで 生きたいんだ。 「これから先、何時までも何処までも君と一緒にいたいんだ。・・・・・・良い?」 「はい、私もです」 そして君は笑った。 幸せな笑顔を浮かべて。    ++++++++++++ やっと伝わった、繋がった想い。 何時もと同様、会話が長くて読みにくくてすいません(汗) まだ続くんです。 あと2話ほど・・・・・・・・・
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