あの日言った事、覚えているでしょうか。
私はしっかり覚えています。
早生まれの私は、今年の三月に二十歳を迎えました。
Phrase.1
控え室で簡単な話が終わり、出演者達はその場で少し待機中となった。
その場と言っても、更衣室になら戻っても良いことになっている。
月森は、自分の出番になるまでもう一度練習をしておこうと
身体を扉の方へと向けたと同時くらいに
控え室の扉が開かれた。
誰もが扉の方へと視線を向けた。
そこに立っていたのは、私服の女性。
私服だから生徒ではない。ここに入ってこられるのだからOBなのだろう。
などと見解をし、一番初めに声を出したのは
「綺麗な人・・・・・・」
香穂子だった。
小さな呟き。
けれど、誰よりも扉の近くにいた香穂子の声は、しっかりと彼女へと届いていた。
隣りで天羽が
「どっかで見たことあるような・・・・・・」
と腕を組み悩んでいる。
女性は香穂子に向かって柔らかに微笑むと、目標目掛けて駆け出した。
清楚なイメージを与える膝丈の白いプリーツスカートが優雅に揺れる。
そして彼女は抱きついた。
皆は「えっ!?」と驚きを隠せない様子。
その行動が第一印象とかけ離れていた・・・・・・ということも理由の一つだが、
一番の理由は、抱きついた相手。
彼女は
「れぇ〜ん♪」
と、言って月森に抱きついたのだった。
どうやら一番驚いているのは月森のようで、瞳はこれ以上開かないくらい見開かれ、
やっとのことで
「なんでいるんですか・・・・・・」
言葉を発した。
彼女は月森から離れると、わざとらしく唇を突き出して頬を膨らませ
「半年振りに会ったのに、そういう言い方酷くない?」
「聞いてませんよ、来る事」
「そうでしょうね。だって言ってないもの」
「何故?」
「だって、蓮を驚かせたかったんだもん」
満面の笑みを浮かべ
「喜怒哀楽の薄い弟を持った姉は大変なのよ」と、頬に手を当て大きな溜め息。
「弟」という単語を聞き、皆の心の中での「恋人疑惑」は見事に打ち消され
天羽は「あぁ!」と手を叩いた。
「月森君のお姉さんの月森さん!声楽専攻で星奏学院を卒業してイタリアに留学し、つい最近有名なコンクール・・・・・・名前忘れたけど、で優勝したという」
「ご紹介ありがとう」
天羽の紹介に、ちらほらと「あぁ」「思い出した」という空気が漂い始めた。
「私、ちょっとした有名人みたいね」
と、は嬉しそうにニコニコ笑っている。
月森は呆れたように吐息を吐き出した。
「何時帰って来たんですか」
「ついさっきよ」
「滞在予定は」
「今のところ未定。打ち合わせもあるし」
「打ち合わせ?」
「えぇ。コンクールで優勝したら、色々とオファーが来てね。学生中はあまり公には出たくなかったから、ミニコンサートを一回だけ承諾したの。
本当は向こうで打ち合わせをする予定だったんだけど、学内コンクールと指定日が近かったから私がこっちに来たの。おかげで飛行機代が浮いたわ♪」
満足気に笑みを浮かべるの後ろで、天羽が貴重な情報を逃さぬよう真剣にノートの上でシャーペンを動かしていた。
「ミニコンサートの予定は何時頃で」
「ん―と、希望は学内コンクール最終の直ぐ後かな。決まったら連絡するね。チケットはちゃんと送るから安心してね」
「はい」
「じゃあ、頑張ってね。ううん、違う。楽しんでね」
「楽しむ?」
「そうよ。優勝は二の次。完成度の高さも確かに重要よ。でもね、学内コンクールが求めているのは、思春期の頃しか奏でられない音楽だから」
包み込むような優しい笑顔は
月森だけでなく参加者みんなを包み込む。
「ほら。音楽は音を楽しむって書くじゃない?この漢字を作り出した人は素敵で偉大よね。
当にその通りだわ」
歌声のように、彼女の優しい声は皆の耳へ、そして記憶へと浸透していく。
まるで、夢うつつ。
ぱちっ
と小さく手を叩く音がして
皆は夢から覚めたような感覚を覚えながら、彼女を見た。
「お話はこれでお仕舞い。担当の先生は金澤先生よね?ご挨拶をしたいんだけど何所にいるか分かる?」
「金澤先生なら舞台袖のほうにいますよ」
「本当?ありがとう。じゃあ、蓮もみんなも頑張ってね」
答えた柚木に微笑んで、足取り軽く
まるで春の風のように去っていった。
「月森君のお姉さん、なんか可愛い人だね」
「はい。素敵な方でした」
「ミニコンサート・・・ですか。行ってみたいですね」
「んじゃ、俺一番だしそろそろ行くかな」
「私も―。月森君のお姉さんにインタビューしたいし」
「あっ、私も二番。月森君は・・・・・・」
「俺は楽屋で練習する」
「そっか。じゃあ、お先に」
ぞろぞろと、出て行く彼ら。
月森は波が去るのを待ち、楽屋へと移動し・・・・・・ようとしたが
天羽がインタビューをすると言っていたのを思い出し
変な事を聞かないか見張っていようと、踵を返して舞台袖へと向かったのだった。
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短期連載です。
全て書けているので途中で止まる心配はありません。
5話+番外みたいな感じです。
月森くんはシスコン設定です!(笑)
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