あの時の私は、何となく異常を感づいていた。
有名なピアノニストを父に、ソプラニストを母に持つ私は、憧れと同時に恨みも買っていたから参加者でもないのに、
ピアノ専攻でもないのに伴奏者をする私を恨む人がいることは知っていた。
だから、信武君に言ってあったの。
「私が伴奏者をしている事を、快く思っていない人達がいるみたいだから
迷惑をかけてしまうかもしれないわ。でも、伴奏は最後までやり遂げるから」
って。
そして予感通り
本番前にトイレに行ったら、個室に閉じ込められて出られなくなってしまった。
けれど私は冷静だった。
きっと助けに来てくれる。
出来れば金澤先生だったら良いのに・・・・・・と、淡い期待を胸に。
助けを待っていた。
そして、帰りの遅い私に気付いた信武君は私を探しに出た。
そこで調度同じ学年の女子に会ったらしく、聞いたら
「月森さんなら、外へ行ったわよ」
「大事な伴奏があるのに何所いったんだろうねー」
と答えたんだって。
でも信武君は、私の言葉を覚えていてくれたから
彼女達を問いただして、私の居場所を聞きだして、助けに来てくれた。
淡い期待は壊れてしまったけど
先生に迷惑がかからなくて良かったと思った。
伴奏はしっかりとやり遂げた。
けれど、私の中では怒りが渦を巻いていた。
終わると同時に・・・・・・・・・・・・舞台袖にいさせておいた彼女達の中でもリーダーの人の頬を強く叩いて、怒りをぶちまけて。
金澤先生に止められて、結局迷惑かけて。
そして自分も傷ついた。
蓮には、そんなことになってほしくなかったのに・・・・・・・・・何で・・・・・・
Phrase.4
蓮は間に合わず
演奏を聴くことは出来なかった。
どんな理由があろうと、コンクールなのだから
間に合わなかったのだから仕方ないといえば仕方ない。
けれど、あの日のように渦巻く怒り。
見つかった事で安堵する空気。
後で来なさい、と説教をする宣言をされたこの事件を起こした生徒達。
去っていく学校関係者。
私は立ち上がり
バシッ
蓮を閉じ込めた三人の真ん中にいた眼鏡の生徒の頬を叩いた。
辺りが一瞬、凍りついた。
あの時と同じ。
感情は止められない。
あの時のことが再現されていく。
「自分達が何をしたか分かっているの!?貴方達の所為で、蓮は演奏をすることが出来なかったのよ。
貴方達はきっと軽い気持ちでやったのだろうけど、蓮にとっては大きな痛手なのよ!」
誰も止められない。
誰も口を出そうとはしない。
犯人の生徒達は図星をさされ、どんどんと顔を歪め俯いていく。
「音楽が好きだからこっちの道に進もうとしたんでしょ?音楽が好きなら・・・・・・
好きなら堂々と音楽で勝負しなさいよ!大した努力もしてないくせに、すべて家の環境の所為にして・・・・・・
こんな姑息な手を使って上に行くやり方しか知らないなら・・・それなら・・・・・・・・・それならね、」
「ストップ」
もう一度、爆発しそうになった怒りを
頭を抱きかかえるようにして静めたのは
金澤だった。
は一瞬停止して、我に返ったようにゆっくりと見上げた。
怒りが段々収まっていく・・・・・・
金澤は手を離して。
は金澤と向き合って。
「お前さん、またあの日の二の舞をするつもりか?結局、最終的に辛くなったのは自分だったろ?」
「・・・・・・・・・すいません」
「俺に謝るな。・・・・・・お前ら、はよ職員室行って叱られてこい。こいつに説教されるよりは楽だろうから」
「「「は、はい!」」」
逃げるように去っていく三人。
それも見ず、はずっと俯いていた。
「まぁ、お前さんが怒る気持ちも分かるけどな。言った後で後悔するような怒り方はやめてくれよ」
「すいません・・・二度もご迷惑をおかけして」
「あ゛―、だから謝るなって。謝るんだったら、自分の過去を弟に話してやれや。たぶん一番驚いているだろうから」
「蓮・・・・・・」
振り向き見た月森は、姉の物凄い怒りようにまだ目を大きく見開いた状態でいた。
「姉さん・・・・・・」
「ごめんなさい、蓮。驚かせてしまって」
ゆっくりと、扉近くの月森に近付く。
「二の舞って・・・・・・」
「・・・・・・私も、似たような事をされたことがあるのよ。声楽専攻のくせに伴奏者をして、注目を浴びているなんて気に食わない!ってね。
トイレに閉じ込められたの。何時か何かされるだろうとは思っていたから、信武君・・・・・・あっ、私が伴奏をした参加者の人ね。
に、忠告しておいたから直ぐに見つけてもらえて、コンクールにあまり支障を来さなかったから良かったけど・・・・・・さっきみたいにね、怒りが爆発しちゃって。
私を閉じ込めた女の子に、こんなことをしなければ上にいけないなら、音楽なんてやめてしまえ、って言っちゃったの。怒りに任せて言った言葉だったけど
・・・・・・我に返って後悔したわ。そして、その中の一人が本当に止めちゃってね・・・・・・自分の浅はかさに傷ついたの。彼女に悪いことをしてしまった、って」
「姉さんは悪くない!」
は微笑んで、首を横に振った。
「言って良い事と悪い事の区別が付かなかったのは、いけない事よ。今日だって、
金澤先生が止めて下さらなければ、きっと言ってしまってたわ。・・・・・・駄目ね、私。
学習してないわ」
言葉が見つからず、の手を月森は握った。
「ありがとう、蓮。そして残念だわ。貴方の音が聴けなくて・・・・・・」
ほとんど音がない中、は静かに呟いた。
++++++++++++
お姉ちゃんの過去。
長い会話が多くて読み難かったらすいません(汗)
たぶん去った後、眼鏡少年は
「何で俺だけ・・・・・・」
と頬を抑えて呟いている事でしょう(苦笑)
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