コンクールが終わり、片付けやらなんやらを終わらせて 金澤は音楽準備室へと向かった。 コンクール前に、彼女が言った言葉の意味を理解したから。 「覚えているさ」 小さな声で呟いて、扉を開いた。 Phrase.5 案の定、仕舞っているはずの扉は開いた。 そこにいたのは。 扉が開く音に反応し、ゆっくりと振り返った。 「良かった。来て下さるか心配だったんです」 しっかりと場所を指定せず、気付かれぬよう言葉に混ぜたから。 けれど金澤は来てくれた。 は嬉しそうに微笑む。 「先ほどは本当にご迷惑をお掛けしました。止めて下さってありがとうございます」 前で手を組んで、頭を下げて。 下げた頭を上げて微笑む。 「・・・・・・約束、覚えてますか?」 「・・・・・・あぁ」 良かったぁ〜、と安堵の吐息を吐き出して笑う。 あの日の約束。 あの日――――卒業式の日。 ここでした約束。 心に溜めていた想いを伝えた日。 けれど叶わなかった日。 「あの日先生は、二十歳になってもまだ気持ちが変わらなかったら、もう一度聞いてやると言いましたよね」 「あぁ」 「お前はまだ十代だけど、俺はもうすぐ三十路だ。お前が俺に抱く想いは、きっと一種の憧れみたいなもんだろ。 留学して、同じくらいの歳の奴らと過ごしても、俺を忘れられなかったら、もう一度だけ聞いてやる・・・・・・言いましたよね」 「あぁ」 「先生の言うとおり、留学して、日本にいたときより男性と交流をしました。告白をしてくれた人と付き合ったりもしました。 ・・・・・・けれど、頭を過ぎるのは、先生、貴方でした」 一歩歩み寄る。 もう、抱きしめられる距離。 「変わりませんでした。忘れられませんでした。まだ、好きです。先生以上好きになれる人を、この先も見つけられる事はないでしょう。 ・・・・・・先生は猶予を下さったんですよね。あまり男の人との交流を持たない私の一番仲の良い男の人は先生だったから・・・・・・・・・確かに、 好きになったきっかけはそうだったかもしれません。でも、どんなに環境が変わっても、私の好きな人は先生に変わりはないんです。 ・・・・・・気持ちを、受け止めて下さい。受け止める気がないなら、猶予なんてつけませんよね?・・・・・・・先生」 何時も通り、飄々とした態度で。 参ったなぁ〜・・・というように頭を掻いて。 ぽつりぽつりと、言葉を紡ぎ出していく。 「あん時のお前さんは、世間知らずのお嬢さんで、男なんてほとんど知らない箱入り娘だった。 そんなお前さんが俺に恋したのは、一番近くにいた男が俺で・・・つーか、俺以外の男とはあまりしゃべってなかったみたいだったからな。 あっ、王崎とは仲良かったか。まぁ、だから仲良いイコール恋だとか勘違いしてんじゃないかと思った。けど嬉しかった。お前さんの気持ち。 二十歳になるまでっつー猶予は、お前さんの為だけじゃなくて俺の為でもあったんだ。俺にとっても、お前さんは一番近い女だったからな。 卒業式の日、先生と生徒っつー関係が取り払われて、お前さんに告白されて、自分の気持ちに気付いた気がした。 でも、それはその場の雰囲気といきなりお前さんが女になった気がしてな・・・・・・そういったものから出来た錯覚じゃないのか、って思ってな。 二十歳って言ったのは、十代は流石にヤバいだろ、って思ったからだ」 両手で、顔を覆う。 今にも泣きそうだ。 でも、まだ肝心な言葉を言われていない。 「つまり・・・・・・先生も」 恥ずかしそうに頭を掻いて。 「お前さんのことが、好きだ・・・・・・ってわけだな。適当に言ってるように聞こえるかもしれんが、本気だ」 「嬉しい・・・・・・っ」 抑え切れなくて、涙零れる。 顔を見られたくなくて、抱きついた。 「おいおい、泣くなって」 もしこんな所で誰かに入ってこられては嫌なので 片手でを抱きしめて、片手を伸ばして鍵を閉めた。 「だって・・・だって・・・・・・」 「・・・・・・言っとくがな、俺はもう三十三のおじさんだぞ。結婚した妹がいて、お前も早く結婚しろと親に言われているような奴だ。 だから付き合うって事は、結婚を前提に・・・・・・とかなるけど、本当に良いのか?止めるのは今だからな」 「止めません!」 「そうか・・・・・・じゃあ」 を離して、涙を拭ってやって 珍しく真剣な表情をして 「結婚を前提に、お付き合いして下さい・・・・・・って、恥ずかしいわ、やっぱ」 「はい」 微笑む姿 涙で濡れ光る瞳 全てが美しく愛しい 「予定は何時頃にしますか?」 「もう決めんのか?」 「だって決めないと先生引っ張りそうですから・・・・・・・」 図星だったようで、誤魔化すように頭を掻く。 「そうだな・・・・・・じゃあ、まぁ、お前さんが大学を卒業したら、かな。あと約二年か?」 「けっこう先ですね。けど、そうですね。一番良いかもしれません。・・・・・・あまり会えませんけど、暇を見つけては帰ってきますから」 「俺も出来るだけ・・・・・・うん」 「無理しなくて良いですよ。何時も金欠だ、って騒いでるんですから」 「へいへい、すいませんね。俺はお前んちみたく金持ちじゃないからな」 拗ね気味に発された言葉に声を出して笑う。 その片手を取って、両手で包み込む。 「お金なんて二の次です。貴方がいて下されば、私はそれで幸せなんです」 その笑顔に、その言葉に プツリ、と何かが切れて 手首をとって引き寄せて、唇を重ねた。 口の中にほんのり伝わる 煙草のほろ苦さ。 唇が離れると同時に、ポケットの中から煙草を抜き取って 「少しずつ減らしていきましょうね、紘人さん」 下の名前で呼ばれたことが初々しくて嬉しくて、少し恥ずかしくて。 煙草に手を伸ばしながらも 「はい」 小さく頷いたのだった。   ++++++++++++ 一応これでお仕舞いです。 でも書き足りないので番外を書こうと思っています(てか書いています)。 付き合うだけで良いのかな・・・?と思いましたが 金澤先生の年齢を考えて 「結婚させてあげないと!!」 と・・・・・・(苦笑)
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