10 心叫
「あぁ」と、緊迫した空気の中、一人その空気を読めていないのか、青年は飄々と言葉を発した。
「あいつね。あの、音楽が凄くて頭も良くて何でも出来てさ。そんですっごく謙虚で、
すっげームカついた奴。だからちょっとお前調子に乗ってんじゃね?って思ってさ。
ちょっと痛い目に遭わせてやっただけだよ」
青年のその口調は、軽くてどこか弾んでいた。
「でもあいつ、何にも変わんなくってさ。キレてあいつの大事にしてた楽譜、目の前で破ったんだよね。
いや〜、あのときの顔は良かった。ゾクゾクしたね。この日を待ってました!ってやつ?」
その言葉からは。
その口調からは。
その態度からは。
その青年の何もかもから「罪悪感」たるものを感じ取ることが出来なかった。
青年は笑っていた。
楽しそうに。
何がそんなに楽しいのか。
嬉しそうに。
何がそんなに嬉しいのか。
そして言葉を発す。
「そしたらあいつ泣いて走り出してさ。そのまま学校来なくなって、確か自殺しちゃったんだよね。
あいつのお蔭で、俺は高校退学。他にも何人かいたけどさ。つーかさぁ〜、死ぬことなくね?
つか、何で俺がこんな目に遭わなくちゃなんねぇのって感じだし。だって、あいつが勝手に死んだんじゃん。
確かにきっかけをつくったのは俺等かもしんないけど、自殺はあいつが自分で決めてやったことだろ?
俺達にどんな罪があるっつーんだよ。意味分かんねぇし」
青年は側にあった小石を蹴った。
青年が一言発するごとに、朔耶の表情が豹変していく。
青年の罪意識のなさと、その話の内容と。
そして朔耶の周りを包むオーラに、子供達は言葉を発するどころか、動くことさえ出来なくなっていた。
「…………死ね」
低く低く、まるで老婆のような声。
朔耶は俯き加減で、下から睨む様に青年を見る。
そしてバッと顔をあげた。
「死ね。お前など、生きていても何の価値もない。死んで当然の人間だ!いや、もはやお前は人間ではない。
ただのゴミだ。地球のゴミだ!」
朔耶は叫ぶ。
心から。
兄を想いながら。
叫ぶ。
「死ね………」
青年に一歩一歩近づきながら
「死ね………」
背中に漆黒の悪魔のような羽根を生やしながら
「死ね………」
まるで壊れた人形のように
「死ね!」
朔耶は飛んだ。
クルモンの額は光るどころか、クルモンは動いてすらいない。
なぜならクルモンは朔耶の鞄の中にいるからだ。
朔耶の心の闇が実体化された羽。
何時もの天使のような漆黒の羽ではなく
悪魔のような漆黒の羽。
「うわぁ!!何だこいつ?!!悪魔?死神?」
「悪魔?笑わせるな。悪魔はお前だろう。お前など………」
羽根を一本引き抜いて
「死んでしまえ!!」
鋼鉄の刃となった羽根を、青年目掛けて投げた。
羽根は運動エネルギーが大きくなるとともに、速度を増して、青年を狙う。
「大輔、ちょっとこれ貸せ」
「えっ。はい」
太一が大輔からサッカーボールを借り
「間に合うと良いけど…」
青年を狙う羽根に向けて強く蹴り飛ばした。
「なっ………」
羽根の標的となり、空気が抜けぺちゃんこになり、地面へと落ちた。
「良かった…」
体全体の力が抜けたのか、太一はその場に座り込んだ。
青年が、転びながら逃げていくのが見えた。
朔耶は降りて羽根をしまう。
「何故とめた」
物凄い形相で、太一を見下ろす。
その太一の前にタケルは立ち、朔耶と向き合った。
「朔耶ちゃん何してるんだよ!あのままだったらあの人死んでたかもしれないよ!」
「それがどうした」
冷静に、冷酷に、朔耶は静かに言葉を返す。
「あいつは死んで良いんだ。お前も聞いていただろう。あいつの言葉。あいつは罪悪感すらなく、
ただ飄々と生きているんだ。兄の苦しみも知らず、兄が…兄さんがどんな思いで死んでいったか、
あいつは知るどころか知ろうともしていないではないか!」
「だからって、殺すの?!」
この中で死に一番敏感だと思われるタケルは、過去を思いつつ、過去に死んでいったデジモン達を想いつつ、
朔耶に向って心の叫びとなる言葉を発した。
「だったら私の兄さんは死んでも良かったというのか?!」
それに反抗するように、朔耶も叫ぶ。
これも、心からの叫び。
「そんなこと言ってないだろ!あのままだったら朔耶ちゃん人殺しだよ?!」
「人殺しではない。あれは弔い返しだ!」
「そういうのを屁理屈って言うんだよ!」
睨み合って睨み合って
心と心が叫びあう。
死に敏感な少年と
兄の死で傷つき壊れた少女の
心と心がぶつかり合って火花を散らせた。
朔耶は持っていた鞄をタケルに投げつけた。
中にクルモンが入っていることを忘れるくらい、怒りながら。
「やはりお前等とは馬が合わないみたいだな」
背を向けそう言い、大股で歩き去って行った。
誰も止めない。
誰も動かない。
言葉も発さず。
呆然と、その場に皆、立ち尽くしていた。
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もう出てこない、最愛の兄を殺した同級生の人を書くのが以外にも楽しかった(苦笑)
つーか,羽根とか何だよ(汗)まぁ、書きたかったんです。
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