番外編
〜兄の声〜
ふと不安になった。
兄の顔は、いつでも思い出すことが出来る。
その表情は、いつも笑顔で優しいもの。
写真も多く残っているから、忘れるほうが難しいだろう。
しかし、声はどうだ。
もう、一年以上も兄の声を聞いていない。
目を瞑って思い出してみると、微かに「朔耶」と呼ぶ声が聞こえる。
そう、微かに。
声はいつまで覚えていられる。
その人がどんなに愛しく大切でも
声はいずれ消えてしまうのではないか。
声はいつまで覚えていられる。
兄の声。
忘れたくない。
忘れてしまったら、兄の全てを忘れてしまいそうで。
恐くて私は、兄の部屋へと慌てて走っていった。
勢い良く扉を開き、兄の声を探す。
何でも良いから、兄の声を聞きたい。
その一心で、兄が死んでから一度も踏み入れたことのなかった部屋に入り
兄の声を探す。
兄は何処だ。
兄の声は何処だ。
兄さん?
机を漁り、箪笥を漁り、本棚を漁り。
漁って漁って・・・・・・・・・・
すると、机と壁の間に、手が入るくらいの隙間を見つけた。
兄の机から掘り出したペンライトで照らし、見てみると
何か箱の様な物があった。
なんだ?と思い、手を伸ばしてみるが、もう少しのところで届かない。
力仕事は苦手なのだが、第六感が告げている。
「あそこに兄の大切な物が隠されている」と。
本初の目的を忘れ、私は兄を探していた。
私の知らない兄を。
踏ん張って、やっとのことで机を動かし、それを取る。
それは、小さなダイヤル式の金庫だった。
……………鍵はない。
ということは、回していけばいつかは開くということだ。
よし!とテレビで見たのを真似して、金庫に耳をつけ、ゆっくりゆっくり
ダイヤルを右に回す。
どれだけの時間が経っただろう。
根気が大事だと自分に言い聞かせ、私は半分諦めながらもダイヤルを回し続けていた。
そして
カチャリ
さっきとは違う音がした。
つまり、開いたのだ!
蓋を開けてみると
「…MD?」
数枚のMDが入っていた。
そこにはどんな曲が入っているかも書いていない。
私はその中の一枚を取り、自分の部屋にあるMDプレーヤーに
いれて聞いてみた。
心臓が脈を打つ早さが早まる。
再生を押して
流れた曲は
「………?」
英語の曲で。
言っていることはさっぱり分からなかったが、よく聴いてみると
「兄さん………」
兄さんの歌声だった。
何回か聞いた事のある、兄さんの歌声。
忘れかけていた声、ギター音。
次の曲はピアノ伴奏だった。
その一枚を全て聴き終わる頃には、涙で顔がぐちゃぐちゃになっていた。
もっと聞きたいと、金庫を自分の部屋まで持ってきて、プレーヤーの中にいれる。
兄さん。
そうだ、こんな声だった。
歌声を聴けば、いつもの声も記憶の中に蘇えってくる。
金庫から全てのMDを出すと、下のほうに小さなノートが数冊敷き詰められていた。
開くとそこには曲の名前と、この曲が兄によって作られたものだということを
示す、手書きの五線に書かれた音符と、歌詞。
英語だから分からないけど。
確か和英辞典があったから今度調べてみよう。
兄さんがどんなことを訴えていたのか。
調べてそして将来、これを世界に発表するんだ。
この世に「白鳥 綾十」という者が存在したことを
未来へと残してやる。
そう思い、大事にまた、金庫を閉めた。
ノートの最後に英語で書かれていた言葉
〔Dear Sakuya〕
と書かれていた。
そしてその後、こう綴られていた。
『To a dearest younger sister.
I will leave soon by the world.
From such gray world.
When you follow it, you are no use.
You still have the future.
Even if I have the future, I do not think that it is happy.
Therefore I leave.
Because though I do not understand it, the thing that the world where
I left for is happy thinks that surely it is a good thing from this world.
I leave this song for you.
For you whom I leave.
For beloved only one younger sister, you of me.
How do it; of you like it.
Without though may be to be selfish, forgetting that say such a thing; I.
Because it is good in a corner of a heart, employ me there.
Then good-bye.
To my important sister Sakuya
From Ayato 』
気になって、すぐに和英辞典を取り出した。
どれくらい時間がかかるか分からないけど
訳そうと思う。
兄が私に、何を托して逝ったのかを。
早く、知りたいから。
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英文の意味はとてもキザいと思われるので、日本語訳はのせません。
頑張って下さい!
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