走った。
早く行かなければと思って。
家から学校までの道のりを
まるでメロスのように走った。



    13 解放



学校の前に着き、疲れて息も苦しくて。
止まって何度も大きく呼吸した。
前も向いても誰もいない。
後ろも左も右も、誰もいない。
やはり帰ってしまったのだろうか。
しかし最後の望みとして、私は学校へと足を踏み入れた。
これでいなかったら、デジタルワールドで今日は過ごそうと思った。


ここに来る予定が前々からあったなら、あいつらが窓でも開けておいているだろうと
私は思い、一つ一つ窓の鍵を調べてみたら
やはり開いていた。
しかもバレることが一番少ないと思われる「トイレ」の鍵だ。
こんなところかと思いつつ、少し高めの窓に手をかけ、校舎の中へと入った。


階段を上がり三階へ行き、静かにパソコン室の扉を開く。
やはり、あいつらがデジタルワールドへ行った形跡があった。
パソコンの電源が一つ点いていた。

私はそのパソコンにデジヴァイスを向け、DWへと吸い込まれていった。



そこは、暖かな木漏れ日溢れる森で、木々や花々が美しく咲き乱れていた。
耳を澄ます。
声は聞こえるか?
あいつらの声は聞こえるか?
両手を耳にやり、神経を研ぎ澄ます。



「…………いた」
どういう顔をして、どのような風に会えば良いのか分からず、
私は悩みながら声のするほうへと進んだ。

足取りは遅い。
行きたいという気持ちと行きたくないという気持ちが混ぜこぜになっているからだ。



歩いていくと、そこだけぽっかりと空いたように円状に森が切り開かれていた。
太陽が輝き、デジモン達の楽しそうな声が聞こえる。

そこに足を踏み入れたと同時に風が吹いた。
髪が横になびき、私は思わず目を瞑る。
そして開けると目の前には
あいつらがいた。


「朔耶ちゃん」
「戻ってきてくれたんだ」
「良かった…」

皆は私に気づき、口々に言う。
その言葉には私を責めるような内容はなく。
私は戸惑いを隠すことが出来なかった。

「何故怒らない。何故私を責めない。私はあんなに愚かで醜い行いをしたのに………」

皆はそんな私の言葉に微笑んだ。
心に熱いものが走り、皆の優しさや皆に対しての罪悪感などが入り混じって涙が零れ、

落ちた。

それを急いで拭う。
しかし流れ出した涙は、ムカつくことに止まらず、どんどんと流れ出てくる。
それを拭って拭って、漸く言葉を発した。

「すまない。あんな身勝手なこと…全て私が悪い。お前達には嫌な思いをさせたと思う。
本当にすまない………許してくれ。許してほしいんだ」

涙ではなく汗で張り付いた前髪を、首を振って掃い、私は空を見上げた。
透き通るような青い空。
こんな空、東京では見ることは出来ない。
日本でも、こんなに青い空が見られる場所などごく少数しかないだろう。
吸い込まれそうな大きな青空から勇気を貰い、私は一番言いたかった言葉を言った。

「………どうやら私には、お前達が必要らしい」


涙は風で乾いたようだ。
心地よく、暖かい風は頬を撫でる。

皆何も言わない。
怒ったのか。
必要ないなどといっておきながら、今は必要だと。
そんな私の我が儘に、嫌気がさしたか。

そう思ったら虚しくて、その虚しさを吐き出すかのように大きく息を吸って吐き出そうとしたら

「朔耶ちゃん!」

いきなり抱きつかれた。
テイルモンがパートナーの女だ。
私を一番心配してくれて、まるで天使のような子。

「良かった………戻ってきてくれないと思った。ごめんね。ありがとう」
そいつを見て、顔を上げると皆が笑っていた。
「お帰り、朔耶ちゃん」
眼鏡の女。
「お帰りなさい、朔耶さん」
ちっちゃい奴。
「良かった〜。朔耶ちゃん、大丈夫か?」
ゴーグルの奴。
「何か言いたいことがあったら溜め込んじゃ駄目だよ」
金髪帽子の奴。

嬉しくて、嬉しくて。
それはまるで初めて味わった気持ちのように胸へ入っていく。

「ありがとう」

久しぶりに、心から微笑んだ気がした。




心に太陽の光が差し込んだ気がした。
暖かくて、そして優しくて。
初めて手に入れた何か。
そして、また手に入れた何か。
その何かが何なのかは分からないが
ただ、それは大事なもので。
もう、手放したくないと思った。




中学生だと思われる奴らも微笑みかけてくれた。
「宜しくな、朔耶ちゃん。俺は昨日も言ったけど、八神太一」
そのように、一人一人自己紹介をしていく。
嬉しいのだが、名前を覚えられないのが難点だ。


「んじゃ、ピクニックの続きといきますか!」
そう中学生の男が言うと
「朔耶ちゃん、お昼食べよ」
天使の子に手をひかれ、シートの上へ座らせられた。
そしてお絞りと箸を渡される。
「栄養バランスを考えて食べるのよ」
と、野菜中心におかずを盛り付けられ、渡されたときには皿山盛りになっていた。
それを見て、思わず吹き出してしまう。
こんなに笑ったのは何時ぶりだろうと思うくらい。
大声で、笑ってやった。

兄さんに届くくらい、大きな声で。




兄さん、私は大丈夫です。
あなたのことは忘れることはできないけど。
前よりだいぶ、明るいです。
ただ、こいつらといるときだけかもしれないけど。
私にとっては大きな進歩だと思います。
どうか、こんな私を見守っていてください。
この大空のように、美しく広い場所で。












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