雨が降る。
梅雨の始まり。
そして、今日は兄がこの世を去った日。



  21 縁切り



久しぶりに家族三人が顔をあわせた。
兄の一回忌。
親戚の人達が集まる中、なぜかそこにあいつの姿があった。
「なぜお前がここにいる」
近づき私は問う。
「あのね、朔耶。僕達は、〈はとこ〉っていう関係であることを忘れてない?」
あいつ、晃は呆れながら言葉を発した。
「あぁ、そういえば…」
今の今まで忘れていた。
はとこっていうよりただの幼馴染って感じだったから。
「…綾十さんは、まだ一番?」
「何故そんなことを聞く」
「なんとなくだけど………」
私は一つ、息を吐いた。
己を自嘲しながら
「あぁ。たぶん、一生な」
「そっか」
晃は寂しげに笑った。


その時。
「いらない!」
私の母親である女性の、ヒステリックな叫び声がし、その場は一瞬しんと静まり返った。
「綾十以外はいらない!こんな子、必要ないわ!」
私を指差し、叫ぶ。
〈いらない〉という言葉が、頭の中で何回も再生された。
そんなこと、言われなくとも分かっている。
お前の態度で。
言葉で言わなければ分からないくらい私が馬鹿とでも思っているのか?

「ちょっと止めなさい」
晃のお母さんが必死で〈母親〉を止める。
しかし〈母親〉は必死で抵抗し「綾十、綾十」と兄の名前を何回も発す。
私よりも、この人は兄の幻影の囚われ、壊れてしまったのだ。
哀れむような瞳を〈母親〉に向け、私は彼女の前に立った。
「いらないなら捨てればいいだろう。私はかまわない」
周りの大人達がざわめき出す。
「ちょっと、朔耶」
晃が止めようとしているが、無視だ。決まっている。
〈母親〉は私を見下すような目で見、ふっと笑う。
「じゃあ、勘当ってことで良いわね。ついでに、離婚もしてしまいましょ。ほら、これで家族ばらばら。
気持ち良いわね」
やっぱり壊れている。
まるで薬物中毒者のように。
もしかしたら、兄の死という悲しみから逃れるために、麻薬に手をだしてしまったのでは…
と思わせるほどだった。
私の父親である男性は「そうだな」と頷いた。
「離婚は賛成だ。しかし、勘当は……」
今まで私に目もくれなかったくせに〈父親〉は私を手放すことを躊躇した。
どうせ世間体を気にしているのだろう。
「別に良いと言っているだろう。生きていける最低限の金さえくれれば、私はそれで良い。
どうせこれまでだって、同じ家に住んでいるだけで行動は別々だったんだ。別々の家に暮らすこととあまり変わりはないだろう」
「そうよ。この子の言うとおりだわ」
〈母親〉は私に賛成し「良いじゃない」と〈父親〉に言う。
〈父親〉は面倒くさそうに息を吐き「分かった」と頷いた。
「朔耶!本当に良いのかよ」
私の腕を掴み、晃は真剣に問う。
「良いというか、嬉しいが」
そう答えたら「マジかよ」っていう顔をされた。
心から本気だ。
前にお前に言わなかったか?
親は世界で一番大嫌いだ。
でも、兄さんは世界で一番大好きだ、と。

その時、晃のお母さんが私の前に立ち、両肩を掴んだ。
「だったら朔耶ちゃん。うちに来なさい。小学生で一人暮らしなんて無理に決まっているでしょ。嫌かしら?」
私はしばし考えた。
晃の家は好きだった。
私の知らない空気がたくさんあるのに、それが全然苦にならない。
おばさんもおじさんも、晃も晃の妹も、私なりにけっこう気に入ってた。
それはたぶん〈好き〉の分類に入るのだと思う。
だから
「分かった。行く」
頷いた。

これが何を意味しているかは分かっている。
つまり、別れ。
あいつらとの。
そして、私は元の学校に戻る。

別れと再会。
別に、良いだろ?
私達はいつでも会えるのだから。
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