04 選ばれし子供の新たな考え
朔耶はゆっくりとドアを閉めた。
鍵をかける音がしたのでもう中には入れないことを悟り、肩を落として大きな溜息をつきながら少年は後ろを向き、そこから立ち去ろうとした。
何か気配を感じ、少年は顔を上げた。
「!」
驚きを隠せず、声には出さないが表情に出ている。
その驚きの理由は、たくさんの見ず知らずの人がいたからである。
もちろん、現&元選ばれし子供達。
「あの〜……」
おずおずと少年は自分に何か用があるのか、と問おうとしたがそれは
「君は朔耶ちゃんの、知り合い?」
という、タケルの問いに遮られてしまった。
少年はその問いに、戸惑いながらも、ゆっくりと頷いた。
「どういう関係なんだ?」
今度は大輔が問う。
「あっ、えと、幼なじみ…っていうかはとこです」
初対面にも拘らず、皆は少年にどんどんと質問していく。
少年は疑問符をあげながらも、質問に対しての答えを発した。
『幼なじみ』と『はとこ』という単語を聞いた選ばれし子供達の顔つきは一変し、皆で円になってこそこそと何かを話し出した。
「朔耶ちゃん家にいたし、この人に聞いた方が良いんじゃないっすか?」
「そうですね。それに、見た所鍵も閉められてしまったみたいですし……」
「幼なじみ兼はとこだったら、お兄さんまでとはいかなくても、けっこう朔耶ちゃんのこと知ってるんじゃない?」
「そうだな………」
「いいじゃん、こいつに聞いちゃえば」
「それが一番妥当だと思いますよ」
「そうだね。じゃあ、それで決定で良いんじゃない?」
どうやら話し合いらしきものは終わったらしい。
「………あの」
少し間を開けて空が話し出す(人を言い包めるには空が適任だと太一が言ったので)
「あっ、はい!何で、すか」
とても緊張している様子だ。
肩に力をいれ、背筋はまっすぐ。
まるで入隊したばっかりの新米兵士のよう。
「そんなに強張らないで。何かあなたにしようというわけではないんだから」
「あっ、すいません。あはは、は、はぁ〜…」
優しく空に言われ、少年は大きく息を吐いて緊張を解した。
すると肩の強張りは取れ、表情も何処か余裕が出てきた。
「で、何か御用ですか?」
「あっ、うん。あのね、お願いがあるんだけど良い?」
「えっ………はい。無理じゃないことなら」
少年は少し考えたが、すぐにOKをだした。
「朔耶ちゃんについてのことなんだけど…教えてもらいたいの。良いかな?」
〔朔耶〕という名前が出た瞬間、少年の顔は、複雑な感じになっていた。
たぶん、さっきの事とかで、心境も複雑であったのだろう。
でも
「朔耶のことですか?………俺でよければ、良いですよ」
何かを感じとったらしく、二言で少年はOKした。
「ホント!ありがとう」
空は首を少し傾けて、少年に微笑んだ。
「じゃあ、場所を変えようよ。ここで立ち話っていうのも難だし」
「朔耶ちゃんに見られる可能性も大きいしね」
「で、どこにするんだ?」
「それが問題だね」
自分で提案しておきながら、考えていなかったので苦笑する丈。
皆が考え込んでいると
「じゃあ、僕の家に来ませんか?ここからはそう遠くはないですし、母も喜ぶと思います」
光子郎の提案に、皆は「そうだな」「それでいいんじゃない?」など言葉を発す。
「先輩の家に行けるんですかぁ?!うわぁ〜、やった」
なんだか知らないが、喜んでいる京。
「よし。じゃあ、光子郎の家で決定な。じゃあ、行くか」
そんなこんなで、光子郎の家に行く事に決まった。
光子郎の家へ向かう途中、皆は何も話さなかった。
ただ、無言で、ひたすら光子郎の家を目指すだけ。
それから十数分経ち
「着きました」
やっと光子郎の家に着いた。
「遠慮せずに入ってください」
「「「お邪魔しま〜す!」」」
現&元選ばれし子供が足を踏み入れ、最後に
「お、お邪魔します」
少年が足を踏み入れる。
「まぁ、いらっしゃい。久しぶりね。みんな大きくなって・・・あら、知らない子もいるのね。今、お茶の用意するから部屋で待っていてね」
これは光子郎のお母さん。
光子郎の言ったとおり、嬉しそうに優しく皆を出迎えてくれた。
「では、皆さん。僕の部屋へ行きましょう」
光子郎の案内で、部屋へと向かった。
玄関にはたくさんの靴。
中にはきちんと揃えられていない靴もあり、光子郎の母は「あらあら」と微苦笑しながら
靴を揃え始めた。
部屋に着き、少年を一番真ん中にして、皆で話を聞く体制になる。
話を聞く前に、皆で自己紹介をした。
少年の名前は「獅子戸 晃」。
大輔や朔耶と同じ小学五年生だそうだ。
「じゃあ、聞かせてもらおうか。朔耶ちゃんのことを」
胡坐を掻いて、ちょうど晃の前に座っていた大輔が晃の瞳を覗きながら言った。
その顔は真剣そのもの。
「あっ、う、うん………」
晃はその顔に少したじろぎ、空をちらりと見て
「その前の、一つ聞いてもよろしいですか?」
疑問符をあげた。
「うん、いいわよ」
笑顔で空は了承する。
晃は遠慮がちにおずおずと
「あの………皆さんは、選ばれし子供達ですか?」
「「「えっ?!」」」
その問いかけに、皆は驚きの声をあげる。
「あっ、違ったら今言ったことは聞かなかった事にして下さい」
晃の言葉に、皆顔を見合わせる。
「………なんで、それを俺達に聞いたんだ?」
「それは皆さんがそうなのかどうかを教えてくれないと、言えません」
晃の先程の大輔と同じくらい真剣な表情をする。
何を言っても条件を飲まなければ話してくれないだろうと皆は思い、決心を固め
「あぁ、そうだ」
太一が頷いた。
「やっぱりそうですか。じゃあ朔耶と一緒ですね。だから聞いたんです。ここまで朔耶について
聞いてくるからもしかしたら…って」
微笑みながら、少年は朔耶の名を口にする。
その表情はどこか複雑で、あの時の朔耶の怒鳴った顔が思い出された。
「朔耶ちゃんて、いつから選ばれし子供なの?」
「えっと…そんなに前じゃないですよ。今が、2002年だから…去年位ですかね」
詳しくは覚えてないようで、晃は首を傾げた。
「選ばれし子供達って、毎年いるの?」
「さぁ、それは…」
また、晃は首を傾げる。
それもそうだ。選ばれし子供ではない晃がそんな事を知っているわけがない。
「…あの、皆さんは朔耶のことで何か聞きたかったんじゃないんですか?」
おずおずと聞く。
現&元選ばれし子供達は「あぁ、そういえば」という顔をし、晃は微苦笑した。
「じゃあ朔耶ちゃんのこと、聞いて良い?」
こんなこと、聞かなくても良いことくらい分かっている。
しかし空はそう問った。
晃はこくり、頷いた。
一番初めに質問を
「その朔耶ちゃんの兄さんってさ、歌とか好きじゃなかったか?」
ヤマトだった。
本当はヒカリも
「朔耶ちゃんて、過去に人間関係で何か嫌なことでもあったの?」
と、単刀直入に聞こうとしていたのだが一歩遅かった。
「知ってるの?」
空が問う。
「あっ、いや。たまに、ライブやる所でさ、前…一年位前かな。白鳥 綾十
って人がいたんだ。苗字が同じだし。滅多にこんな苗字いないだろ。だから、そうかな…って」
晃の返答も待たず、ヤマトは興奮したように、その「白鳥 綾十」という人物のことを語りだした。
「とにかく、すっげー歌が旨いんだよ。それとギターもな。自分で作詞作曲とかしてるらしくって、
幾つもレコード会社から誘いがあったらしいんだけど全部断ったらしいんだよ。そういう所も良いよな!
天狗になってないってやつか?とにかくカッコいいんだよ!マジで!」
まだまだ話は続きそうだった。
しかしそれは
「そうですよ。その人は………朔耶のお兄さんです」
静かに発された言葉によって止まる。
「えっ、マジ?!この頃見ないんだけどさ、もしかして朔耶ちゃんとは一緒に暮らしていないってやつ?」
ヤマトは問うた。
晃は黙る。
哀しげな悲しげな表情をし、唇を強く噛み締めた。
「朔耶のお兄さん………綾十さんは、もう、この世にはいません…」
今にも泣きそうな顔、今にも消えてしまいそうな声。
皆は言葉を失い、長い長い沈黙が流れた。
その間に、晃は頑張って綾十の事、そして朔耶の事を話してくれた。
「綾十さんは、去年の六月に亡くなりました。自殺したんです。自分の部屋で、腕を切って死んでいました。
原因は、学校での苛めだそうです。ちゃんと遺書も見つかっています。
…皆さんが聞きたいのは、どうせ朔耶がどうしてあんな性格なのかってことでしょ?
誰も信用しない、全ての人間を軽蔑しているような」
子供達は朔耶のお兄さんが自殺をしていたという悲しみと、聞きたかったことを当てられたことに対する驚きの混じった表情を浮かべながら、頷いた。
「それは、綾十さんが死んだからなんですよ。とても、綾十さんを慕っていたから、大好きだったから。
前は、もっと明るい子だったんです。人間て、こんな簡単に変われちゃうものなんですね」
その話を、皆は、静かに。静かに。吐息の音さえも慎重にしながら子供達は聞く。
晃は哀傷を含む笑みを浮かべ、昔の朔耶のことや朔耶がDWに行きだしたときのことなどを話した。
そして、話が終わると、ヒカリがすくっと立ち上がり
「朔耶ちゃんに会いに行こう?」
ただヒカリを見つめる者や「えっ?」と疑問符をあげる者。
ヒカリは両手を握り締め、強く訴えるかのように言葉を発す。
「だって、朔耶ちゃん苦しんでるんだよ!それを支えてあげないと。だから、私会いに行く」
ヒカリの目は、少しの揺らぎもない真っ直ぐな目だった。
その言葉と顔に、心を動かされたのか
「俺も行くぜ!」
「僕も!」
「私もっ!」
「僕もです!」
現選ばれし子供達は立ち上がった。
ヒカリは嬉しそうに微笑み、晃を見た。
「ありがとう。行ってくるね」
そうして、光子郎の家をあとにした。
「やっぱり、現役は違うわね」
「何、お祖母ちゃんみたいなこと言ってるんだよ」
「そうだよ。これじゃあ、僕達がまるでもうダメみたいじゃないか」
意外にのほほ〜んとしている元選ばれし子供達。
それに、戸惑いを隠せない晃。
それを見て
「大丈夫だよ。あいつらならきっと朔耶ちゃんを仲間に出来るから。
だからさ、待とうぜ。来るのをさ」
「…そうですね」
笑った太一に、晃はホッとするように微笑した。
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うちの所のヒカリちゃんはお姉ちゃんでありお母さんです(笑)
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