05 朔耶の気持ち
ピーンポーン
震える指。
インターホンを押す。
でも、誰も出てこない。
音も、気配もなにもない。
「やっぱり、出てきてくれませんね」
「その前にいないんじゃないの。また来ると思って」
「でも、朔耶ちゃんは逃げるような子じゃないと思うんだけど……」
「僕もそう思う」
「まっ、そんなんやってみないと分からねぇじゃん」
大輔は両手を頭にやってへへっと笑う。
その勝ち誇ったような、企みのあるような笑みに伊織は
「何か、秘策でもあるんですか?」
問ってみた。
その問いに、大輔はへへんと腕を組み胸を張りながら答える。
「あぁ。そんなん出てくるまで押すまでだ!」
「「「「はぁ?」」」」
四人はその意味がよく分からず、素っ頓狂な声をあげた。
それもそもはず。
まず、主語がない。
それに、説明もない。
大輔一人で優越な笑みを浮かべ
ピーンポーン
もう一度インターホンを押す。
でも、応答はなし。
大輔はそれでも
ピーンポーン……ピンポーン………
と何回も何十回もインターホンを押し続ける。
「もしかして…」
「大輔君の考えって…」
「ずっとインターホンを押すことなのぉ〜?!」
「それって、逆にもっと怒らせちゃうんじゃないかな………」
と言いつつも皆止めない。
どんな方法であれ、朔耶が出てきてくれればこっちのものなのだ。
その結果。
百回はインターホンを押しただろうというその時。
「うるさいっ!私に何の用があるのだ」
案の定、眉間に皺を寄せ、怒りを露わにした朔耶が姿を現した。
「朔耶ちゃんっ!」
「あっ………」
気まずそうな顔。
出てきたことを後悔している。
しかしその表情は一瞬にして消え去った。
「なんだ。お前達か」
呆れた顔。そして蔑むような顔を五人へ向ける。
「あの、私達………」
「帰ってくれ」
「仲間に…」
「帰ってくれと言っているだろう!」
ヒカリの言葉を聞こうともせず遮り、怒鳴る。
玄関の扉を閉めようとしたところを
「ちょっと待って」
「話があるって、言っているだろ」
五人がかりで、その扉が閉まるのを止める。
「私のことなどほっておいてくれ。お前達には、何の関係もないのだから」
冷ややかに返すが、ドアに込める力は相当なものだ。
「関係あるよ」
「あるはずない!」
「ありますよ。だって僕達、仲間じゃないですか!」
皆必死に、五人は扉を開けようと、朔耶は閉めようとしながら言葉を交わす。
「いつから仲間になった?!仲間などいらぬと言っただろう。私にはクルモンだけで十分だ」
「…なんで?なんでそんなに閉ざすの?」
ヒカリが、扉を開けようとするのを止めた。
胸の前で手を組み、朔耶を真正面から見つめる。
「なんで、そんなに心を閉ざすの…。それは、お兄さんが亡くなったから?」
静かに、静かに問う。
組んだ手を額につけて。
まるで神にでも祈るかのように……
その「お兄さん」という言葉に、朔耶は一瞬体をビクンと反応させ、言葉が終わると同時に、ヒカリの方に近付き、その肩を掴んだ。
「その話をどこから聞いた………」
静かに…重い声で問う。
「それを聞いてどうするの?その人を痛めつけるの?」
「そんなことなどしない。ただ、きつく言うまでだ」
「それじゃあ、教えられないわ」
「なぜだ………」
「だってその人は、私達のために、重い口を開いてくれたんだもの」
「………晃か」
顔を下に俯け、言った。
その顔は、怒っているのでもなく、悲しんでいるのでもなく。
笑顔をもなければ、涙もない。
強いて言うなら無表情に近いだろう。
「なぜ、お兄さんが亡くなってから性格が変わってしまったの?」
「そんなの、お前には関係ないだろう。人は変わるものだ」
「でも、あなたは変わりすぎているらしいじゃない!」
朔耶に向けて、大声とは言わずも、張った声で言う。
「………ねぇ、話してよ。私達は、出会ってからまだ月日も経ってないわ。
でも、同じ選ばれし子供でしょ?話して。あなたと私は別物よ。だから、朔耶ちゃんの
辛さや苦しみを全て分かってあげることは出来ないし、受け止めることも出来ない。
でも、話せば少しは楽になるかもしれないから………ね」
優しく微笑みながら、ゆっくりと包むように朔耶を抱きしめていく。
それはまるでテイルモンが進化した、エンジェウーモンのように。
慈悲深いその微笑みと、服越しに伝わる人間の体温と優しさに
「私は………辛くなどない」
朔耶は我慢出来なくなって、涙を流した。
瞳いっぱいの涙が、頬へと落涙する。
「私は苦しくなどない。私は……兄さんが、大好きだったんだ。だから………
その兄さんを助けられなかったことが悔しいんだ」
ヒカリは何も言ずに、朔耶を抱きしめたまままるで母親が、わが子を慰めるかのように
優しい眼差しで聞いていた。
「私は兄さんが苛められていることに気付いてやれなかった。兄さんは、私のちょっとした変化にも気付いてくれたのに。
私は、兄さんの苦しみを気付いてあげられなかったんだ。その結果、兄さんは……兄さんは殺されたんだ。昔は、友達だった奴らに。
人間は裏切る者だ。信じてはいけない。信じてはいけないんだ………」
そのまま、朔耶は目を閉じ口を閉じた。
「兄さん…ごめんね」
そう言って。
空に顔を向け発した言葉は、亡くなった綾十に向けているようだった。
虚空へと消えていく。
声、声、声。
悲しみは消えない。
涙も止まない。
止んでも止まない。
心の涙。
兄さん、ごめんね。
思い出を閉ざすことができなくて。
ごめんね、兄さん。
出来の悪い、妹で。
ごめんね。
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