06 オープン ザ ドーア


そして皆は、朔耶の家へと足を踏み入れた。
入って良いなどとは言われてないけれど。
でも、雰囲気はそう言っていたから。
静かに扉を閉め、鍵は閉めなかった。


「落ち着いた?」
ソファに腰をかけながら顔を覆う朔耶に、ヒカリはハンカチを渡し、そっと話しかける。
朔耶は口を開く。
「すまない」
朔耶はハンカチを受け取らずに手の甲で涙を拭った。
「謝るなよ。俺達仲間だろ」
大輔が、照れながらそう言った。
「ありがとう」
朔耶は照れながら小さく微笑んだ。
いつもとは違う態度に、みんな吃驚し。
その笑顔に頬を赤らめた。

「ねぇ、朔耶ちゃん。話さない?私達にその悔しいことを」
「………ダメだ。兄さんに悪い」
「なんで?」
優しく優しく問う。
朔耶が壊れてしまわないように。
まるで卵を抱きしめるかのように、シャンパングラスを扱うように。
「それは………」
「話せば、少し楽になるんじゃないのかな。何にも言わないから聞かせて。
 お兄さんだって、自分のこと。もっと他の人に知ってもらいたいんじゃないのかな」
「………」
朔耶は何も答えない。
仏壇には、綾十と思われる少年の写真が飾ってあった。

兄さん、そうなのですか。
兄さんは、もっと他の人に自分のことを知ってもらいたいのですか。
私には決められない。
彼女に、判断を任せて良いのだろうか………
私には分からない。


ねぇ、どうしたら良いと思う。
兄さん。
…分かってる、返答なんて返ってこないこと。
自分一人で決断を下さなければいけないこと。



「朔耶ちゃん?」
「…………分か、った」
話してみようと思う。
罪悪感あるけれど。
でも、それで兄さんが喜んでくれるなら。


「兄さんは優しい人だった。正義感の強い人だった。音楽を愛し、生き物を愛し。
 成績も良くて、運動神経も良くて。親からの期待も大きかった。私と違って」
切ない目。
まだ瞳には涙がある。
「兄さんは、私の憧れだった。だから、死んでいる姿を見たときは信じられなかった。
なぜあの兄さんが………。今でも鮮明に思い出せる。手首の動脈から滴り落ちていた鮮血は、触るとまだ暖かくて。
兄さんの顔は、ほっとしていたようだった」
そのシーンを頭の中で回想しているのか、朔耶は目を閉じた。
「なぜ、兄さんが死んだのか。それが私には分からなかった。でも、数日後遺書が見つかって………。
酷い内容だったよ。言葉では表すことが出来ないくらい。あいつらは、兄さんの曲を奪い上げ目の前で燃やしたんだ。
何枚も、何枚も。兄さんが命と同じくらいに大事にしていた楽譜を全て。書いてあった。その日だけ、
字がいつもと違っていた。悔しかったんだよ。でも、兄さんは優しいから………優しすぎたんだ。だからそいつらは甘えて、
兄さんの夢を壊したんだ!」
拳をつくり強く握る。
その拳は振り上げられ、まるでナイフを突きつけるかのようにテーブルへと落とされた。

「私はそいつらを殺してやろうかと思ったよ」
くすくすと壊れたように笑い出す。
もう、その頃には涙も枯れ、残ったのは暗い瞳だけだった。
「でも、それは出来ないことで。聞く話によると、そいつらは学校を退学させられたらしい。
けど、そのくらいどうってことないことなんだ。兄さんが受けた傷みよりは。兄さんが死んでから、
元々良くなかった夫婦仲が悪くなって、喧嘩の毎日でね。顔を合わす度に離婚話。私をどちらが育てるかということでもね。
私は嫌だ。俺も嫌だって。でもまだ離婚はしてない。二人とも仕事に没頭し、家に帰ってこないんだ。まぁ、帰ってきたとしても
私は話さないし、顔すら合わせない。家族関係なんてもうとっくの昔に壊れているんだ。何時離婚したって私は良い。離婚するなら早く離婚てほしいよ」

一息つく。
誰も、何も言わない。
ただ、じっと、朔耶の話を聞くだけ。
呼吸をするのも静かに。
ただ、静かに。

「何もかも拒んだ。普通ではない言葉を使うのは他人と自分を分けるため。服は喪服。
しかし心は疲れを溜めていくばかりで………そんな時、DWへの扉が開いたんだ。
DWは唯一私の心が休まる場所。私の心のオアシスは、そこだけ。信じられるのはデジモンだけ………」
切ない目をして、目線を上に上げた。
どうやら、話は終わったらしい。



「じゃあ、私たちのことは、まだ信じらないの?」
ヒカリが問う。
朔耶は小さく頷いた。
「詳しく言えば、信じてきているけど、まだ信じられないというところだろうか。
まだお前達のことは良く分からない。ただ言えることは。大丈夫かもと思い始めて
来ているというかな。私の心は」
「じゃあ、仲間になってくれるのか?!」
目を輝かせながら大輔が椅子から立ち上がる。
それに朔耶は真顔で
「いや。それは無理だ」
「なんだよ」
一瞬で、がくっと項垂れる。
「でも、一緒に行動をするくらいなら良い。その中で、お前達が信用できる者だと分かったら、
その時は私から言おう。仲間になると。だから、今は無理だ」
「でもでもぉ。それって、一応は仲間みたいな感じだよね」
「そうですね」
「宜しくね、朔耶ちゃん」
タケルが手を差し出す。
「あぁ」
微笑みながら、朔耶はその手を取った。
初めは少し躊躇って。






兄さん。
たぶん、これで良かったのだと思います。
まだ、こいつらが信じられるかは分かりません。
でも、賭けてみようと思います。
この私ではなくて、もう一人の私に。
だから兄さん、見守っていてください。
私が壊れぬように。


心の鍵は、まだ開いていません。
ただ、全部閉ざしていないだけ。
たまに、開けている。
少しずつ、少しずつ……








  















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一応、第一幕終了って感じです。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
まだまだ続きますのでお付き合いいただけたら光栄です。


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