場所を言っていなかったので、朝また普通科一年の教室を訪ね、に 「ホームルームが終わったら、屋上ね」 と告げた。 は火原の顔をしばし見つめ 「はい」 と笑顔で返した。 何故しばし見つめていたのだろうか。 火原の顔を見て。 何を思っていたのだろうか。    第十楽章 気にするなと言われても、気になってしまうのが人の性分。 昨日、の親友と名乗る2人の女子生徒から言われた言葉が頭の中で何度もリピートされていた。 それはまるで壊れたレコードのように、同じところだけを何度も何度も。 「ちゃん・・・なんでピアノを弾かなくなったんだろう」 悩みは顔へ、そして声に出ていた。 それはとてもとても小さなもので、本人の耳にも届かないほど。 だから誰かに聞かれた心配はなかったが、それと共にため息が出ていたらしく 「火原、一体どうしたんだい?」 同じクラスの柚木に心配そうに声を掛けられたことにより、一瞬にして、意識は こちら側へと戻された。 少し驚いたように柚木の方を向くと、優しい微笑を浮かべながら 「今日の放課後、さんと屋上で練習をするんだよね。なのになんでそんなに暗いんだい?」 「えっ・・・俺、暗い?」 気付かない振りをしてみたが無駄だった。 負のオーラはしっかりと伝わっていたようで、柚木はうん、と頷いた。 「何かあったの?」 「えっと、あ゛――う〜ん・・・と、大丈夫だよ!だから気にしないで、柚木」 説明出来なかった、したくなかった。 これは自分だけの胸に秘めておきたい。 それは、に対して悪いからという理由もあるが 他の人に知られたくない、この悩みを共有したくないというおかしな独占欲でもあった。 柚木はそれ以上詮索はせず、微苦笑した。 その笑みは、何を考えているのか分からない、鉄壁の微笑。 「・・・分かったよ。ほら、早く屋上に行かないと。さん待ってるかもしれないよ」 「そうだね。じゃあ、柚木、ばいばぁ〜い!」 完全復活を遂げたわけではなかった。 何時もの明るい自分を演じようと頑張った結果、少しずつ元気が出てきて こんな暗い顔しちゃ駄目だ!ちゃんはちゃんだろ。 確かに気になるけど、ちゃんが言ってくれるまで聞いちゃ駄目だ!! と思うことが出来、そうしたらと一緒に練習を出来るのが楽しみで仕方なくなったのだ。 だがそれは、屋上の扉を開き 「あっ、和樹先輩来た!」 と発したの笑顔を見た途端、なんとも言えぬ罪悪感と虚無感に襲われると共に消えていった。 まるで砂浜についた足跡を波がさらっていく様に。 さらり、さらりと。 「ごめんねちゃん、待たせちゃって」 その言葉と共に、感情は出ていなかっただろかと不安になった。 「全然大丈夫ですよ」 と言ったは本当に大丈夫なのか・・・そして、俺の心の中の葛藤に気付いていないか不安になった。 「えっと・・・何する?」 自分から誘ったくせに、何も案が出てこない。 頭の中はのことで一杯で、どうしようもない。 そんな火原の疑問に対し、は何が面白かったのか、突然くすりと笑んで小さく笑った。 「え?え?俺、何か変なこと言った?」 「いえ。ただ、火原先輩、昨日自分で言ったこと忘れちゃったのかな〜?って思って」 「昨日言ったこと・・・・・・」 記憶の糸を手繰り寄せていく。 だが、昨日の記憶のほとんどはあのの親友の言葉であやふやになってしまい 上手く思い出せない。 「えっと、なんだっけ?」 「すいません、言い方が悪かったです。練習するためにトランペットを持っているのに何しよっか?って聞かれたので 思わず笑っちゃったんです」 そう、に指摘され、火原は思わず顔を少し赤くした。 別に大して恥ずかしいことではなかったのだが、なんとなく。 けれどその表情を隠したくて、笑って誤魔化してみた。 「ごめんね。なんかぼーっとしちゃって」 その言葉に は笑顔を消して 真剣な顔で 切ない顔で 言葉を発した。 「・・・・・・私がどうしてピアノを弾かなくなったのか気になるんですか?」 「えっ・・・・・・・・・!」 何故バレた? いや、何故知っていた? 疑問に疑問が重なって、驚きと少しの動揺へ変わる。 しかしそれらは次に続くの言葉で解消された。 「今日の朝、有香と姫夏・・・・・・私の友達って言うより親友ですね。その二人にいきなり謝られたんです。 思わず言っちゃってごめん、って」 「あぁ、あの子達・・・・・・」 昨日の二人を思い出して、火原は納得した。 は微笑む。 悲しげに。 「私がピアノを弾ける事が知られたのは、別に大した問題ではありません。だってきっと、何時か分かることだったから。 ・・・・・・でも、その先を聞かれると困るんです」 「その先って・・・ピアノを弾かなくなった理由?」 は小さく頷いた。 「それはまだ、言えません。それを言うと、平常心が少し保てなくなっちゃうんです。 ふっきらなくちゃ・・・って思うけど、まだ、駄目なんです。だから・・・・・・きっと然るべき時が来たら言うと思いますが、 今は、駄目なんです。・・・・・・すいません」 手を揃えて頭を下げたの行動に、慌てて火原は 「別に良いよ。俺の方こそゴメンね。俺が気に欠けていた所為でちゃんに心配・・・っていうか嫌な思いっていうか・・・・・・そういうことさせちゃって」 言葉で対応した。 その言葉、態度には優しく微笑んだ。 まだ悲しみは消えていないけど、限りなく優しい、微笑み。 ドキッ、と跳ねた胸の鼓動は 何を意味するのだろうか。 分からない。 でも良いや。 今は何でも。 「じゃあ、練習しようか」 「はい」 「じゃあ、まず音出しから」 二つの音色が重なる。 力強い音と、切ないほど優しい音。 音階から音楽に変わっていくうち 二つの音色は交じり合い、空へ虚空へと響き始めた。 それを誰かが聞いている。 何処かで。 耳を傾けて とても、心地よい気持ちになっていることだろう。 二人の気持ち 少しだけ ほんの少しだけだけど 近付いたから。   ++++++++++++++++++ スランプ作品です・・・・・・久々作品です! 火原先輩がぁー、火原先輩が・・・・・・・・・ いかがでしたでしょうか? 一応、この後、香穂子が来る予定です。 あの、香穂子が初めて火原先輩の演奏をちゃんと聴くところです。 そこは書く気はありませんが・・・・・・ 次回は、まだ出てきてない方と接触させたいな〜って思っています!
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