ステージへと足を踏み入れる。
大丈夫だよ、と自分に言って。
楽しい事を思い出して・・・・・・そう、楽しい事だけを思い出して。
でも吹き始めたら、あの事が頭を過ぎって
悲しみが私を襲う。
駄目、今は・・・・・・・・・
瞳を瞑って思い出したのは
大好きな人達の笑顔。
悲しみが消えていく・・・・・・
一瞬の悲しみは消せるけど
でも、この悲しみを越えられる日なんて、来るのかな。
第十六楽章
聴衆達は皆、の演奏に聴き入った。
明るい曲なのに、たまに何所か悲しくなる、切なくなる。
けれどその音は、どこまでも、どこまでも優しく可愛らしくて。
何の穢れも知らない澄んだ音。
そして約二分半の、短い演奏が終わり
お辞儀をすると、暖かい拍手がへと送られた。
嬉しさの余り「ありがとうございます」と言いたかったけれど、コンクールだと言うことを思い出して開きかけた口を閉じて
代わりに笑った。
ありがとうの気持ちを込めて。
微笑んだそこに、優しく柔らかい空気が出来て、会場を包み込んだ。
しばし静まり返った場内に
足音だけが響いた。
舞台袖に戻ると、一番に出迎えたのは火原だった。
「お疲れ、ちゃん!」
「ありがとうございます。和樹先輩も次、頑張って下さいね」
「うん!俺、頑張るよ」
ガッツポーズをして、背を向けた火原。
「あのッ!」
その背中を止めようとして出した声を、掴もうとして伸ばした手を
止めて引いた。
「ん?」
振り返る火原に、は申し訳なさそうに笑んだ。
「すいません。何でもありません」
「そ?話があるなら演奏終わってから聞くから!」
トランペットを持つ手をあげて、満面の笑みを浮かべてステージへと出て行った火原。
は辺りを見回して呟く。
「いない・・・・・・」
見つけていたのは、香穂子とその伴奏者である庄司だった。
「どうしよう・・・・・・」
火原を呼び止めたのは、どうすれば良いかを聞くためだった。
けれど演奏前に問えなくて。
不安になるは、さっきの「演奏終わってから聞くから!」という言葉を思い出し
待つことを決めた。
そして演奏に聴き入った。
何もかも、突き抜けていきそうな
爽快で豪快で
それでいて楽しそうな演奏で
何時の間にかの顔に
笑顔が浮かんでいた。
++++++++++++++++++
演奏シーン?
んーと、まぁ、次とかの話のつなぎの話でしょうか?
次くらいから、グググッと恋愛(?)入ってくる予定です。