どうしよう・・・・・・・・・
は心の中で呟いた。
火原の演奏が終わり、香穂子だけでなく月森もいないことを知ったは
火原と共に二人を探しに行き
そして、聞いた。
伴奏者がいなくなったことを。
理由は体調が悪いと、言っていたが
は分かっていた。
香穂子のその言葉が嘘だということを。
香穂子先輩、優しいから・・・・・・
舞台袖がざわつき始める。
即興で伴奏を出来る者など、伴奏者の中にはいないから。
『別れの曲』
どうしよう・・・・・・香穂子先輩、困ってる・・・・・・助けてあげなくちゃ。
でも・・・・・・でも、弾けない。
胸の前で握られた手は、酷く震えていた。
第十七楽章
心の中でが葛藤しているうちに
香穂子は靴を脱いで、一人でステージへと歩いていってしまった。
「あっ・・・・・・!」
小さく声をあげるが、そこから先の言葉は出ていかない。
胸と喉につっかえて。
自己嫌悪と喪失感が同時に襲う。
一人での演奏。続かない演奏。
演奏を止められて、審査員に問われている香穂子を見て、は駆け出そうとした。
けれど、実際は一歩も動いていない。
駆けて行ったところで、私は何も出来ない・・・・・・
この、ッ、役立たず!
ぐっ、と強く瞳を瞑って、強く自分の足を殴った。
握り締めた拳を軽く振り上げて、程好く肉と筋肉がついた太腿を。
「・・・・・・、ちゃん?」
声を掛け、顔を覗くと
閉じた瞳から涙が零れていた。
なんで、泣くのよ・・・・・・
するとその耳に、聞こえていた。
心地よいヴァイオリンとピアノの音色。
―――別れの曲っていう、ちょっぴり切ない題名だけど、音色は何所か、希望を感じない?
瞳を開いて、何時かの言葉を思い出して。
涙が止まらなくなった。
けれど拭わず、二人を見つめ、演奏に聴き入る。
優しい気持ちになると同時に、切なくて悲しくて。
喪失感が、襲う。
演奏が終わって
拍手と喝采。
舞台袖に戻ってくるやいなや、その場に座り込んで涙を流す香穂子に
は駆け寄って、その前に香穂子と同じ体勢で座り込んだ。
「ごめんなさい・・・・・・」
「え?」
その瞳は赤く、まだ微かに涙が。
「ごめんなさい・・・・・・ごめッ」
また涙が流れ出し、言葉はつっかえる。
「どうして謝るの?」
冬海から差し出されたハンカチを差し出し、心配気に問うた。
差し出されたハンカチを受け取り、両手で強く握る。
二人を見る参加者の瞳も心配そうにを見つめている。
「何も、出来なかったから・・・・・・」
「え?」
「困っている香穂子先輩に、私、何も出来ませんでした。だから・・・・・・」
「そんな、気にすることじゃないでしょ?その気持ちだけで、嬉しいよ」
軽く抱きしめて、優しく背中を叩いてあげると
不思議と落ち着いて、涙は止まっていった。
「すまないが、どいてくれないか?通れないんだが」
「あっ、ごめんなさい!」
「すいません!」
次の演奏者である月森の前に憚っていた香穂子とは慌てて立ち上がって道を通した。
立ち上がって下がると、二人が土浦を挟む形になり
香穂子と話していた土浦は、隣りで涙を拭っていたに目をやり
優しくその頭を撫でた。
その行動に驚いて、でもどこか嬉しくて
は土浦を見上げた。
「どうして俺が、ピアノを弾くって分かったんだ?」
あの日の疑問を今ぶつけたのは、何を言って良いか分からなかったから。
だって、この行動に一番驚いていたのは土浦本人だったから。
はその疑問に、一瞬きょとんと首を傾げ、意味が分かると
さっき頭を撫でてくれた手を掴み、親指の付け根ら辺を指差して微笑んだ。
「ピアノを弾く人の手」
体が熱くなるのを感じた。頬が赤くなっていないか心配になった。
涙で濡れる睫毛が光る。
泣いた後のの笑顔は
濡れた睫毛が輝いて、何時も以上に綺麗だった。
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LaLaで呉先生がアニメで使われるクラシック曲のレコーディングに行かれたときのことを
書いていまして、そこでピアノを弾く男の方の手が凄かったと書かれていたのを見て
第十一楽章を書きました。
一応、あと二楽章で一息つく予定です。