月森の演奏が始まり
誰もがそれに引き込まれていった。
ドックン
の胸が大きく高鳴り、鼓動は速くなっていく。
知ってる、この音。
でも、どこで聞いたの?
・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あっ!
気付いたら、体が熱くなり始めた。
思い出した、幼い頃の記憶。
感情が爆発する。
そうだ。
あの、年齢離れした演奏に。
幼い頃に私は引き込まれて吸い込まれて
そして
恋をしたんだ。
演奏を終えた月森がこちらに戻ってきて
は駆け寄り、人目も気にせず想いを口にした。
「好きでした!」
第十八章
輝く瞳で見つめるのは彼、月森。
いきなりの告白に、瞳は驚きで大きく見開かれている。
周りの皆もそうだ。
慌てふためいていたり、息を呑んでいる者もいる。
興奮して、はそんなことなど気になどしていなかった。
「小学校四年生の時に聴きに行ったコンクールで、先輩の演奏を聴いて、私は一瞬にして心を奪われました。
あの時、幼い私は恋をしました。先輩の音に!」
最後の言葉に、皆は疑問する。
「「「・・・・・・・・・」」」
辺りが一瞬静まり返り、多くの者が
「「「音?」」」
疑問符をあげた。
「はい!」
笑顔では頷いた。
そんなに香穂子は近付き、その肩を掴んだ。
「ちゃん?」
「何ですか?」
「それは恋とはちょっと違うと思うわよ・・・・・・」
遠慮がちな香穂子の言葉に、皆は首を縦に振って頷く。
だけきょとんと小首を傾げ
「えっ、でも、それから少しの間、その演奏のことばかり考えてましたよ。これって恋じゃないんですか?」
「月森君、じゃなくて、月森君の演奏?」
「はい!」
力強く頷く。
香穂子は呆れたように小さく吐息吐き出して、言い聞かせるように「あのね、ちゃん・・・・・・」と話し始めた。
「恋っていうのは、人が人にするものであって、ちゃんのは、ちょっと違うの」
「えっ、でもほら、海に恋して・・・とか言うじゃないですか」
「・・・・・・それは、恋するように海が好きっていう意味の喩えよ。国語でいう隠喩法」
「あっ、そっか」
「しかも、過去形・・・・・・だったよね?」
「はい。月森先輩の演奏を聴いたら、あの頃の感情が溢れ出してドキドキして嬉しくなって、抑えられなかったんです」
嬉しそうに、その感情を大事に温めるように胸の前で手を握り
頬を少し赤らめて、は微笑した。
誰もが見惚れ、言葉を出す事が出来なかった。
そんな空気の中で、は月森の前に立った。
コツン、と足を揃えた時に鳴った音で、月森はハッとしてを見た。
「確かに過去の話です。でも、言いたかったんです。恋じゃないかもしれませんが、私にとっては初恋なんです。
演奏、素敵でした」
「・・・・・・ありがとう」
恥ずかしげに頬を赤に染める月森の口から発された、素直な言葉に
一同は驚いた様子。
は嬉しそうに満足気に、笑った。
* * * * * * * * * * * * *
そして結果発表。
は、四位だった。
「あっ、そうだ、ちゃん!」
「はい?」
首に付けていたものを慌てて外し、香穂子はに差し出した。
「これ。ごめんね、ずっと付けてて」
「いえ。ありがとうございます」
「綺麗だね、それ。本物のダイヤモンドだ」
「「本物!?」」
受け取りながら「ありがとうございます」と柚木に軽く頭を下げて。
柚木の言葉に香穂子と火原は驚きの声をあげた。
「ちゃん、それ、どうしたの?」
香穂子は遠慮がちに問う。
はそれを両手で優しく包んで、願うように祈るように瞳を閉じて
瞼ら辺にそっと付けた。
「・・・・・・大切な人から貰った、とても大事なものです」
愛しげな表情の中の切なさ。
シルバーのリングに小さな小さなダイヤモンドが光る。
「婚約指輪・・・かな?」
柚木の呟きは、直ぐ隣りにいた火原にはしっかりと聞こえていて
「えっ、ちょ、えぇ!?」
衝撃的な言葉に、しどろもどろ。
さっきの涙、月森への告白。
衝撃的なことが続き、鼓動の速さは速いまま、何時も通りの鼓動を刻まない。
揺れる、心。
「何だ、これ・・・・・・」
月森への告白を聞いたとき、胸が潰れるほど苦しくなった。
「分かんないよ・・・・・・」
控え室に戻って、壁に凭れ掛かってしゃがみ込む。
まだ、分からない、心の蟠り。
それに名が付けられるのは
もう少し、先の話。
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アップテンポですすんでますね(汗)
くるくると表情が変わる主人公です。
でも書きたい場面が書けて満足♪