観客も参加者も、誰もいない中、ステージに一人、足を踏み入れる。 真ん中に立って、客席を見つめる。 誰もいないのにお辞儀をして、ピアノの前に座った。 そして、白と黒の鍵盤に指を置く。 指慣らしも兼ねて奏で始める曲は 別れの曲。 香穂子が演奏した曲。 少女が奏で始めたそれは、どこまでも澄んでいて、切ない音色だった。      第十九楽章 「あれ?」 着替えて(魔法が解かれ)、更衣室で香穂子が気づいた事は、が中々帰ってこないことだった。 順位の発表が終わり、参加者がそれぞれ更衣室へと戻り 香穂子とは舞台へと残って 土浦とちょっと話して土浦が帰って 頃合を見計らって更衣室へと行こうとしたら 「あの、ちょっとトイレに行って来るので先に行ってて下さい」 と言ってトイレへと行ったきり帰ってきていない。 「迷子にはなってないと思うけど・・・・・・でも心配だな〜・・・・・・・・・・よし、見つけに行こう」 腕を組み悩んで、決めたと同時に手を叩いた。 更衣室から出ると、参加者達が皆、同じ方向へと向かっている。 その先にあるのは舞台。 「どうしたの?」 一番近くにいた志水に声をかけ 「聞こえませんか?」 「え?」 耳を澄ましてみると、聞こえてきた。 微かに、ピアノの音。 「誰かが弾いているんです。舞台で」 そしてまた歩き始める志水に香穂子も続いた。 舞台袖裏に着くと、誰もが壇上を見つめていた。 参加者に交じって、土浦の姿もある。 何かに囚われたかのように、誰も微動だにしない。 背伸びをして見ると 「ちゃん」 映ったのは、ピアノを弾くの姿だった。 「この曲は別れの曲・・・・・・」 「ピアノ・・・ですね」 「トランペットはどうしたんだ?」 「もしかしてもしかしなくても・・・」 「上手だよね」 香穂子の言葉を機に、思い思いに言葉を発していく。 その中火原は、あの日のことを思い出していた。 「(いつか分かるって、こういうことだったの・・・・・・?)」 「なんて、切ない音なんでしょうね」 「あぁ」 曲が 終わった。 誰も、の元へ行こうとはしない。 行ってはいけないと本能的に分かっているように、暗黙の了解であるように ただただ、を見つめる。 鍵盤から一度下ろした手を、もう一度鍵盤へと乗せた。 そしてまた、弾き始めた。 次に奏で始めた曲は 「『華麗なる大円舞曲』ですね」 「普通よりテンポ速めだな・・・・・・」 指がもつれそうなほど速く、しかし正確に音を刻む。 楽しそうな明るい曲のはずなのに 切ない。 さっきの別れの曲は分かるが、なぜこの曲までこんなにも・・・・・・ 終盤。 消えてしまいそうなほどのデクレシェンド。 強く和音がきて、和音の連続 そして・・・・・・・・・ 「あれ?」 「最後・・・・・・」 最後の和音が、こない。 小さなざわめき。 皆は不思議そうにを見た。 小さなざわめきはには届いていなく その世界は静寂に包まれている。 その中、声がした。 薄暗闇の中。 「どうして」 顔は見えない。 しかし、上を向くが泣いているのは、誰もが分かった。 小さな嗚咽が響く。 「どうして・・・・・・」 切ないほどの心からの叫びは会場に響き渡り、彼らの元へと届く。 「どうしていっちゃったの?」 高く上げられた手に持たれていたのは、あのネックレスだった。 はその手をゆっくりと下ろしていき、胸の前で握り締めた。 「大好きなのに、大切なのに・・・・・・どうして?」 涙が鍵盤へと落ちる。 最後の和音は響かない。 響くのは悲痛の叫びと泣き声と。 疑問へ言葉は返ってこない。 誰へ向けた言葉なのか。 あのネックレス・・・・・・指輪はどういったものなのか。 誰もがそれぞれの疑問を胸に、を見つめた。 「・・・・・・どうしてまだ涙が溢れるの?」 涙の雨は、まだ止みそうにない。   ++++++++++++++++++ これで、第一セレが終了です。 この後二話ほど入って、合宿へと入ります。 宜しくお願いします。
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