「そう、なんですか・・・・・・」 声が、良く出ない。 知っている人がいるなんて、思っていなかった。 聞くなんて思わなかった。 だってそれは、暗黙の了解。 過去のを知っている者は、会話に出そうとはしないから。     第三楽章 「ちゃんのお母さんってピアノの先生だったんだ」 「違うよ」 「えっ?だって、柚木習ってたんだろ?」 「僕は特別。さんのお祖母様・・・もちろん母方のね。その方と、僕のお祖母様が知り合いで、その関係で習っていたんだ。 本業はプロのピアニストだよ。活動はあまりしていなかったから有名ではないけれど。でも留学先のコンクールで優勝もしている実力のある人だったよ」 話が良く聞こえない。 耳に薄い膜のフィルターが出来たように。 聞きたくない。 でも、知っていて嬉しい。 でも、やっぱり・・・・・・聞きたくない。 だって、今にも・・・・・・・・・ 「何ていう方ですか?」 「秋水唯奈さんだよ」 「えっ・・・・・・・・・」 その名前に一番に反応を示したのは、意外にも月森だった。 目を見開いて、言葉を発した柚木を見ている。 「知っているのかい?」 「はい。母と少し面識のあった方らしくて」 そう言って月森は、腕を組み眉間に皺を寄せて。 言い難そうに、その唇を静かに開いた。 「でも確か彼女は2年前に・・・・・・」 「お亡くなりになったよ」 「あっ、知ってます、その人」 2年前に亡くなったピアニスト、ということを聞き、土浦の中である女性と一致し 声を上げた。 は俯いて、聞きたくもない話を受け取る耳を塞ぎたい衝動に駆られながら 叫んでいた。 胸が苦しくて、今にも・・・・・・・・・ 嫌っ・・・・・・・・・聞きたくない。 現実を。 分かってる。 受け入れてるよ、もう。 だけど・・・・・・・・・まだ、ダメなの。 「誰もが早すぎる死を悲しんでいた。・・・・・・お葬式は出た?」 「俺は出ませんでした。母さんは出たみたいですけど」 「俺は出ました。・・・・・・でもそこにの姿はなかった。彼女が君の母親だというなら、君はどこにいたんだ?」 「僕もそれを思ったんだ。秋水唯奈さんは、さんのお母さんで合っているよね?」 びくっ、と身体を震わせて 俯いていた顔を上げ、何かを訴えるような瞳で柚木を見るが 言語化しない限り、何を言いたいかは伝わってこない。 戸惑うように拒むように。 落ち着かないように瞳を泳がせ、けれど決心したように胸の前で拳を握り もう片方の手でスカートを握って。 皆に、顔を向けた。 「はい・・・秋水唯奈は私のお母さんです。・・・・・・2年前に、この世を去った、私の・・・・・・・・・」 「「「!」」」 言葉を止めたのは・・・・・・皆が見張ったのは その瞳から流れ出した涙に気付いたから。 「あれ?えっ、ちょっ、すいません」 慌てて拭うが、止まる気配は一向にない。 ぽろぽろ落ちていく雫は、思ったよりも重くて。 止められなくて。 あの日のことを、思い出して。 「どうして・・・・・・・・・」 涙を拭うのを止めた手は膝の上へ。 スカートを握り締めている。 向けられた顔は大粒の涙と悲しみが支配していて。 あの日の言葉。 薄暗闇の中、切ないほどの心から叫び。 きっとあの日も、こんな表情をしていたのだと。 「大好きだったの・・・・・・」 もっと強くスカートを握り締めて 吐き出した言葉は 「大好きだった・・・私の、お母さんは、もういないんです」 あまりにも透明で、心に響くから。 涙も悲しみも、辛さも苦しみも 全て抱きしめてしまいたかった。 不謹慎かもしれないけれど だって少女は雨だれの旋律の如く、美しかったから。   ++++++++++++++++++ シリアス突入です。 少しだけ。 スランプ・・・・・・特に次回が。 一番重要なのに(汗)
BACK/ NEXT