どうしてこんなに、涙が零れて止まらないのだろう。
枯れない涙はないんじゃないの?
って思ってたあの時知ったことは
枯れない涙だってあるということ。
泣いても泣いても止まらないこの涙が枯れて、
もう流れなくなる日が来る事など
きっと一生ないのだと
思ったんだ。
第四楽章
冬海がそっと差し出したハンカチを握り締める。
瞳から流れる涙をそれで拭わないのは、拭っても拭っても流れてくるから。
それならこのままで良いと・・・・・・止まるまで待とうと思った。
もう分かってしまったから。
別に隠していたわけでもないけど、進んで話すことではなかった。
けれどこうなった以上話さなければいけないとは小さく決心し
口元まで来てしまった涙を、冬海のハンカチで押さえて、ぽつりぽつりと
言葉を紡ぎ始めた。
「・・・・・・お母さんは、私の憧れの人でした。綺麗で、優しくて、料理も上手で・・・・・・そして、お母さんの弾くピアノの音が大好きでした。
私も何時かお母さんのようになるんだ、って小さい頃から思っていました。だからお母さんからたくさんのことを教わってきました。
もちろん、ピアノも。・・・・・・初めは、お母さんみたいな音を奏でられるようになりたいと思っているだけだったけど、
何時しかそれは目標から自分の夢になっていて。お母さんみたいな、じゃなくて、自分だけの素敵な音を奏でられるようになりたいって思っていました」
小さく鼻を啜る。涙は大分、止まってきていた。
彼らの中で、何かが繋がった。
隠れて弾くピアノ、涙は・・・・・・・・・・・
「・・・・・・けれど、2年前。乳癌を宣告されたお母さんは、あっけなくこの世を去ってしまいました。
何でお母さんが死ななければならないか、分からなくて。あんなにピアノが上手で、あんなにピアノが大好きだったのに」
涙がまた、流れ始めた。
言葉がつまる。
あの日を、あの日の気持ちを、あの日思った、想ったことを思い出して。
見つめる手は、ピアノを弾く手。
きっと、凄く、ピアノを愛していた手。
でも何故、弾かなくなったのか。
本当は、この沈黙を切るのは
ただ一人のはずだった。
彼も、自然とそう思っていた。
けれど、あの日のことを
ふっ、と思い出して。
跳ねた胸の鼓動。
悲しみを残した、限りなく優しい微笑。
重なった音色。
頭の中で、今のと、あの時の音が重なって奏であって
そして火原は、言葉を口にしていた。
「・・・・・・だからちゃんは、ピアノを弾かなくなったの?」
言って、地雷を踏んでしまったかと思って。
はっ!と口元を押さえた。
けれどは、これ以上泣くことなく
ただ、あの日よりも一層悲しみのこもった優しい微笑を浮かべるから。
余計、切なくて、苦しくなった。
「はい」
肯定されるなんて、思ってもみなかった。
確かに人の死はとても悲しくて重いものだけれど
大好きだったであろうピアノを、たった一つの出来事だけでやめてしまえるのだろうか。
誰も、理解が出来ず、ただ言葉を待つ。
「弾く必要・・・ないんで。私の音は、人に聴かせるべきものではありません。
聴かせるべきものは、お母さんのピアノ」
「でも君は、コンクールの日弾いてたじゃないか」
その言葉に、目を見開いて主を見た。
声は月森の口から発されていて。
彼が口を挟むなんて、と皆は驚いた。
だけ、違う驚き。
「何で・・・・・・知っているんですか?」
心なしか、声が震えている気がする。
「俺だけではない。みんな知っている」
「えっ・・・・・・そう、ですか」
また、地雷だと思った。
けれど、唇の震えは止まり、だんだんと表情も和らいでいく。
目を閉じて、大きく息を吸って。
「正確に言うと、人前でピアノを弾く事を止めたんです。
本当は、それすら止めるつもりでした。お母さんが弾けないのに、私が弾くのはおかしいと思って・・・・・・。
ほんと私、お母さんが死んでしまってからどうかしちゃって。
何も食べず、毎日泣いて・・・・・・水分は一応摂ってましたけど、泣くために
摂っているようなもので。結局、倒れて病院に運ばれて何日か入院しました。
その時、お父さんに、お母さんは私がピアノを心から好きになってくれた事をとても喜んでいたんだよ、って言われて。
お兄ちゃん達にも、お前は止めるべきじゃないって強く言われて・・・・・・。平常心をやっと取り戻してゆっくり考えて。
ピアノを弾けば、想いがお母さんに届く気がしたから弾くのは止めないことにしました。
コンクールの日、舞台で弾いたのは、お母さんに一番届くと思ったからです」
「どうして?」
「お母さんは学院の卒業生で、コンクール経験者だったんです。準優勝だったんですよ」
「だから憧れてたの?コンクールに」
「はい」
は指でまだ目尻に残っている涙を拭って、微笑んだ。
真っ赤に腫れた目を、どうしたら冷やしてあげられるだろう。
目の赤さはすぐに引くけれど
ずっとずっと、の母が亡くなってから泣き続けて腫れている心は
どうしたら冷やしてあげられるだろう。
そしては、ハンカチと一緒に手を強く握った。
「また泣いちゃった。もっと強くならないと・・・・・・もっと、もっと」
言い聞かせるように、呪文のように呟いて。
そんながとても愛しくて
香穂子は隣りにいる、繊細で純粋で、壊れかけた硝子の心を持つ少女を抱きしめた。
「泣いても良いのよ。我慢できたってそんなの強さでもなんでもない。
辛かったらね、悲しかったら、泣いて良いんだよ」
「はい・・・・・・」
伝わってくる温もりが優しくて。
それがあの日の温もりに似ていて。
はまた泣きそうになった。
泣かない強さが欲しいのではない。
死をも乗り越えられる強さが欲しいの。
でも、いくら強くなっても
きっとこの涙は決して枯れない。
けれど、一筋の希望の光が差し込めば
涙は天へと昇っていくのかな。
あの日、私を助けてくれた
太陽みたいな笑顔のように。
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まだまだ・・・スランプ中です。
何時になったら抜け出せるのでしょう。
無理矢理書いている感じです。
どうにか進めないとだから。
とにかく、電車内が終わってよかったと思います。
未消化ですが・・・・・・