たくさん泣いた日は、何も食べずに寝てしまう。
物が喉を通らなくて。
あの日のように。
お母さんがいなくなって、水分しか口にしない日が続いた事が、まだ身体には残っている。
見るからに美味しそうな食事が並べられても、私のお腹は全く反応しないし
反対に、気持ちが悪くなってきて
私は一度持ったナイフとフォークをまたテーブルへと戻した。
第五楽章
の両隣には土浦と香穂子。
目の前には火原。
全く料理に手をつけようとしないに気付き、声を掛けたのは火原だった。
「ちゃん、全然食べてないけどどうしたの?」
「あっ、食欲がなくて・・・・・・」
「顔色もちょっと悪いよ。部屋で休んだら?」
香穂子が心配そうに顔を覗きこんできて、は申し訳なさそうに俯いた。
吐き気はしないけれど、気持ち悪いので口元を手で押さえて。
「すいません。じゃあ部屋で寝てます」
「うん。後でなんか飲み物持ってくね」
「ありがとうございます」
椅子を引いて立ち上がった、その時。
目の前が真っ暗になり、立つ力もなくなって
膝から落ちていく。
その場に倒れこみ・・・・・・そうになったところを、土浦が受け止めた。
「大丈夫か?」
「大丈夫、ちゃん!?」
慌てて香穂子も立ち上がり、土浦の腕に身体を預けているの元へと駆け寄った。
目を瞑り、ただじっとしているその顔はやはり青白い。
熱があるのではないかと、その額に手を当ててみる。
「・・・・・・熱はない、ようね。ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫、です・・・・・・でも、立てないんです」
「貧血かな?だったら尚更寝てないと」
「ったく、しょうがねぇな」
土浦はを抱きかかえて立ち上がった。
皆の視線が土浦に集中する。
「部屋まで連れてってやるから。日野は身の回りとかどうにかしろ」
「うん」
土浦に続き香穂子も立ち上がり、を心配そうに見つめながらその隣りに立って歩き始める。
そして彼らは、夕食の一時からしばしいなくなった。
* * * * * * * * * * * * * *
「大丈夫?」
「ん・・・・・・っ」
ベッドの上に寝かされたは、ゆっくりと瞳を開いた。
映ったのは、膝立ちして心配そうに覗き込んでいる香穂子と戻ろうとする土浦の姿。
「起きられそう?」
「はい・・・もう、貧血のほうは大丈夫そうです」
「そう、良かった」
「ありがとうございます」
安堵の吐息を漏らす香穂子に微笑んで。
「土浦先輩も、ありがとうございます。運んで下さって」
「どういたしまして。気をつけろよ」
「はい」
に近付き、その頭をクシャッと撫でて。土浦は戻っていった。
土浦が行くと、は起き上がり、鞄の中からパジャマを出して着替え、顔を洗ってベッドに横になった。
「ご飯、本当に食べなくて大丈夫?お水でも持ってこようか?」
「大丈夫です。・・・・・・たくさん泣いた後は、食べられないんです。
身体が、あの日に戻ったみたいに何も受け付けなくて」
うとうととし始めるの髪を掻くように撫で、香穂子は小さく「そう」と相槌を打った。
「おやすみなさい、香穂子・・・先輩」
「おやすみ、ちゃん」
半開きくらいだった瞳はすーっと閉じていき、小さな寝息を立てて、は夢へと旅立った。
香穂子はの寝顔を見て優しく微笑み、もう一度その頭を撫でて立ち上がり、部屋を後にした。
* * * * * * * * * * * * * *
戻ると、みんなデザートを食べているところだった。
土浦も既に食べ終えている。
「あぁー、やっと戻ってきた!」
火原は待っていたかのように勢い良く立ち上がった。
顔を見て分かる。を心配していたことが。
「ちゃん、大丈夫?」
「はい。ベッドに入ったら直ぐに寝ちゃいました」
「そっか・・・・・・大丈夫なのかな、ご飯食べなくて」
のいた席に残っていた口の一切付けられていない食事は、全て火原の胃の中に収まっていた。
香穂子は自分の残りの食事を咀嚼する。
「ちゃん、お母さんが亡くなってから数日間ご飯を食べなかったって言っていたじゃないですか。
たくさん泣くと、身体がその日に戻ったようにご飯が食べられなくなってしまうって言ってました」
場内は刹那、沈黙に包み込まれた。
電車内でのの泣き顔が、皆の頭を過ぎる。
早く、涙が晴れて
あの笑顔を浮かべてくれるようにと。
自然と浮かんできた願い。
きっと、明日は。
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もちろんお姫様だっこです♪
それしか考えていなかったので、進めるのが思ったよりも大変でした。
倒れさせるのは前々から考えていたんですけどね(汗)
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