カーテンの閉まった窓から、薄っすらと差し込む朝日。 全国的に見てもまだ就寝している人の方が多いこの時間耐に、はゆっくりと目を開いた。 「(今、何時だろう・・・・・・)」 起き上がろうとしたが、は一旦それを止めた。 両端で静かに寝息を立てている二人に気付いたからだ。 右に香穂子、左に冬海。ダブルベッドに女子三人。 気持ち良さそうに寝ている二人の寝顔を見て微笑んで、は起こしてしまわぬようにゆっくりと身体を起こし、 足を曲げて掛け布団の上に座ると、振動を立てぬようにハイハイでベッド上を直進し、床に足をついた。 壁に掛かっている時計を見ると、もうすぐ五時。 寝た時間がとても早かったので、十時間は軽く寝ている。 は大きく伸びをして、荷物の中から着替えやタオルや洗顔料などを出すと、洗面所へと入っていった。 そこには扉を一枚隔ててお風呂がある。 昨日はあのまま一切起きなかったので、シャワーを浴びるためには扉を開いた。 身体も気持ちも、さっぱりするために。      第七楽章 シャワーを浴びて着替えて、そして荷物を整理していたら、五時半を過ぎていた。 けれどまだ、他の二人は起きそうにない。 ここにいてもすることがないし、間違って変な音を出して起こしてしまっては困るので は外に出る事にした。 朝の空気はまだ冷たくて、長袖にしてきて良かったと思わせる。 緑は美しく萌え、どこかで鳥の鳴く声がした。 行きに履いてきていたバレエシューズではなく、念のためと持ってきた淡い桃色に黒レースの靴ひもが通されているスニーカーで 草の生い茂る地を踏みしめる。 当てもなく、思うが侭に歩いていたら 「あっ」 は嬉しそうに声をあげた。 その視線の先には太い一本の木。 何時の間にか足は駆け出し、木の下までいくと手を伸ばして枝に手をかけ登り始めた。 紺地のロングシャツの下の黒いバルーンのショートパンツに黒のニーハイソックスという割とラフな格好だったので。 兄三人と育った環境のおかげで、木登りは得意だった。 太い枝を見つけそこに腰を掛ける。 そこからの風景は地に足がついているときよりも鮮明で美しく、格別だった。 頭の中に音楽が流れ出す。 母のピアノ、母と弾いたピアノ、母に教えてもらったピアノ。 合わせたピアノとヴァイオリン、二人で奏でたヴァイオリン。 そして、コンクールの音。 屋上で奏でた、トランペット。 学院に入学して、コンクールに出場してまだ間もないのに 自分がどれだけ音楽を愛していたか思い出され 胸が熱くなる。 は胸元の服をキュッと握った。 「駄目だよ・・・・・・駄目」 暗示の様に自分に言い聞かせて、大きくゆっくり深呼吸をして。 両手を見つめた。 この手が求めているのは、分かっている。 けれど・・・・・・・・・・・・ その時、下で足音がした。 身体を折り曲げて枝の間から覗いてみると、火原だった。 どうやらランニングをしているようだ。 「和樹先輩!」 いきなり名を呼ばれ、火原は辺りを見渡した。 声で誰だか直ぐに分かったけれど、その姿はなく、会いたいと望んでいたから空耳が聞こえたのだと思い、少し項垂れた。 「違いますよ、ここです、ここ!」 「え?」 ガサガサッと音がして、火原は反射的に振り返った。 視界に入ったのは、一本の木・・・・・・からぶら下がる足。 火原は目を見開きながらその木へと駆けて行く。 は枝にぶら下がって、足を着く場所を調整して、手を離して着地した。 綺麗に降りられたと思ったが、足元が悪かったのか体制を崩してしまった。 「危ない!」 横に倒れそうになったを支えようと手を伸ばし、抱きとめる。 「大丈夫!?」 「はい」 安堵したら、その微笑みがあまりにも近くにあって。 火原は慌ててを立たせて、腕を離した。 身体が、熱い。 「ありがとうございます」 「どういたしまして。もう体調のほうは大丈夫?」 「はい。ご迷惑お掛けしてすいません」 「そっか。良かった」 二人並んで歩き始める。 自然と足は、家の方向へ。 隣りで笑ってくれることが、嬉しかった。 昨日はこの笑顔を、全く見られなかったから。 「火原先輩はジョギングをしていたんですか?」 「うん!朝は毎日兄貴と走ってるからね。ペースを崩さないように、ここでも毎日走るつもりだよ」 「じゃあ、明日から一緒に走って良いですか?」 「えっ、うん!大歓迎だよ!ちゃんも良く走るの?」 「はい。私も朝は毎日、家の周りを2.3周走ってます」 そういえば、電車の中でそんなようなことを言っていたかもしれない。 異様に広い家だから、周りを走るだけでけっこうな距離になる。 木登りとか背負い投げとか、運動神経はやっぱり良いんだよね? 体育しているところは見たことないけど。 そういえば、女性だけに受け継がれる武術ってどういうんだろう? きっと綺麗なんだろうね。 頼んだら、見せてくれるかな? ・・・・・・それにしても ちゃんのお兄さん達が言ってた「16歳まで俺達のもの」ってどういう意味なんだろう? ちゃん知っているかな? 聞いてみて、大丈夫かな? そんな事を思っている内に もう家に着いてしまった。 リビングへ行くと金澤がソファに座って新聞を読んでいた。 「おはようございます」 「おはよ、金やん」 「おぉ、おはようさん」 読んでいた新聞を畳み、脇に置く。 「、もう調子は良いのか?」 「はい、万全です。ご迷惑お掛けしました」 「まぁ、なんだ。元気で何よりだ。そういや、昨日の夜お前の兄貴達からケータイに電話が入ったぞ。日野が対応した」 「えっ、そうなんですか!だったら連絡入れておかないと・・・・・・後が面倒くさい」 はポケットに手を入れ、白いボディの携帯電話を出した。 朝、荷物の上に置いてあったのをポケットにつっ込んできたからメールの確認はしておらず、開けてみるとやはり着ていた。 兄達から。 そのメールを全て確認すると、アドレス帳から「家」を選んで通話ボタンを押した。 「もしもし、お父さん?・・・おはよう。・・・・・・・・・・・・うん、大丈夫だよ。ごめんね、心配かけちゃって。 お兄ちゃん達起きてる?・・・・・・じゃあ変わって」 父が兄達を呼びに行くのに、間が出来る。 は金澤の側に立っていたのだが、その隣りに腰掛けた。 金澤はまた新聞を読んでいる。 火原はタオルで汗を拭きながらを見ていた。 『〜〜〜!!』 『巽己、朝からうるさい』 『痛ってーな。何すんだよ兄貴!』 『、大丈夫?』 「うん。もう元気だよ」 『そっか、なら良かった』 『玲人!独り占めなんてずりぃぞ!貸せ!』 『独り占めって、まだ全然話してないんだけど・・・・・・』 電話越しに、呆れ気味な吐息が聞こえた。 『!寂しくなったらいつでも帰ってきて良いんだからな』 「平気。そんな気ないから」 は笑顔でさらりと、冷たく言葉を発した。 「昨日は体調崩しちゃったから、今日から楽しむの」 『が・・・・・俺のがどんどんと離れていく・・・・・・』 『巽己ぃー、はお前一人のものじゃないぞー』 『うるせぇ!・・・あ゛―、そうだ。そこに野郎いる?』 「えっ?うん。先生と先輩が一人。・・・・・・何で?」 いきなり話を変えてきて、しかも男性がいるかを聞いてきたのではきょとんと首を傾げた。 「先生と先輩」という言葉に、金澤と火原は反応を示した。 金澤はちらりとを見、火原は「俺?」と疑問符をあげている。 『じゃあ、その先輩のほうに変わって』 「何で?」 『何でも』 「変なこと言わないよね?」 『言うわけないだろ!俺を信用しろって』 「その辺に関してはたつ兄は信用出来ないからな・・・・・・」 『酷ぇ!泣くぞ・・・・・・』 「はいはい。じゃあ、変わるね」 『おう』 は携帯電話から耳を離し、火原に差し出した。 火原は人差し指で自分を指して「俺に?」と疑問符をあげる。 は頷いた。 「お兄ちゃんが話したいことがあるんですって」 「何で?」 「さぁ、良く分からないですけど・・・変なこと言われたら、私に渡してください」 「あっ、うん、分かった。・・・・・・もしもし」 火原は恐る恐る電話を取り、向こう側にいるの兄へ声をかけた。 『誰だ?』 「3年の火原和樹です」 『あぁ、トランペットの。お前・・・と楽しい学院生活を送りやがって。しかも何だ?和樹先輩だって?』 『たつ兄、今言う事それじゃないから』 『あっ、ごめん。日頃の恨みが・・・・・・。で、昨日俺らが言ったこと覚えているか?』 「え?」 『十六歳まで、は俺達のものだっていうやつだよ』 「あぁ・・・はい」 『それ、に言うなよ。分かったな』 「あっ、はい」 『言ったら締めるぞ』 『巽己』 脅そうとする巽己を、比呂が制した。 火原の顔が少々引き攣る。 『まっ、そういうことだ。じゃあ・・・・・・』 「あのっ!」 『あ?』 「あの、それって、どういう意味ですか?」 『はぁ?』 電話向こうで、素っ頓狂な声が上がった。 火原は、に言っては駄目と言われたので、だったらそれを言ってきた本人に聞こうと思ったのだ。 疑問を。 「あっ、いえ。何で俺達にそんなこと言ったのかな?って思いまして・・・」 『16になるまで、に彼氏を作らせないためだよ。あいつは、そりゃもうどこの誰よりも可愛いからな・・・・・・。 男はみんな恋するに違いない・・・いや、する!性格も良いしな』 「はぁ・・・・・・」 『だから、可能性がある奴らにストップかけてるんだよ。16までは告白するな、って。 まぁ、の話の中に出てこない奴は大丈夫だろうから、の話の中に出てくる男だけな』 「可能性・・・ですか?」 『あぁ。彼氏になる可能性。あいつは優しいから。仲が良い奴に告られたら、受け入れてしまうだろうからな』 「えっ・・・・・・・・・」 胸が、とくん、と音を立てた。 彼氏・・・恋人・・・恋・・・・・・・・・ 少し前に、兄に言われた言葉を思い出す。 「好きな子が出来たな」 違う、そんなんじゃない。 だって、恋ってそんな簡単に出来るもんじゃないでしょ? まだ出会って、少ししか経ってないんだから。 恋なんて・・・・・・・・・ 火原は、に携帯電話を返した。 「変なこと言われましたか?」 と心配そうに見つめるに首を振って、着替えてくるとリビングを出て行った。 部屋へ戻りながら、考える。 確かに胸はドキドキしたりするし、一緒にいると楽しいし、可愛いと思うけれど この感情に恋という名はつけられなかった。 ただ、気になっているだけだから・・・・・・と。 けれどこの胸が ただのドキドキとは違う事になんとなく気付いたけれど。 切ないように、疼くけれど。 まだ、恋じゃない。 と、自分に言い聞かせた。   ++++++++++++++++++ 男子5人の中で主人公とは一番仲が良いのだろうけど 良いところはみんな別の人に取られている火原先輩を出そうと思いまして。 「LOVE DAYS」では、火原が一番書きやすいです。 次は土浦でしょうか。 火原は動かしやすいです。 けれど次出すのは 会話でもあまり出てこない彼です。
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