合宿2日目が始まった。 練習を中断し、廊下を歩いていた時、香穂子に会い、冬海に会い、 そして火原と志水に会った。 向かうはグランドピアノのある部屋。 そこに向かう理由は人それぞれ。 CDを探しに、楽典を見に、休憩に・・・などなど。 その部屋の扉を開けると 土浦よりも先に、純白のグランドピアノがの視界をいっぱいにした。    第八楽章 「可愛い」 小さく呟いた言葉は、グランドピアノに向けて。 小さく微笑んだその顔を、土浦はしっかりと見ていた。 「弾くか?」と言いたい。 でも、言ったらどんな表情をさせてしまうのだろうと思い言えなくて。 その言葉は嚥下して消した。 周りの話に耳を傾けつつ、はCDの棚を上から順に見ていく。 これといってお目当てのCDはないが、聴いたことのないものがあったら聴いてみようと思って。 指で差しながら視線を動かしていた。 「っ・・・・・・!」 その時、息を呑むように小さく声を上げて、は動かしていた手を止めて視線を一転に集中させた。 少し震える指先で、一枚のCDを取る。 それを見て、 目を、見開いた。 なぜこれが、あるのか。 それが意味するのは・・・・・・・・・分かっている。 来た、ということ。 悲しみも湧き出てきたけれど 嬉しくて。 「ちゃんは何聴くの?」 覗き込んできた香穂子に驚いて、慌ててCDを棚へと戻した。 「ちゃん?」 不審なその行動に香穂子は首を傾げ、を見た。 返答はない。 一瞬だけ顔をこちらへと向けて、は駆け出していってしまった。 「ちょっと、ちゃん!?」 慌てて止めようと手を伸ばしたが、掴む事は出来なかった。 一瞬だけ見た表情は、泣きそうな顔。 けれど、昨日のように悲しみばかりのものではなかった。 「ちゃん、どうしたの?」 「良く分かりません・・・・・・」 「CDを見てましたよね?・・・・・・確かこれです」 が慌てて戻したCDを、志水は取り出した。 香穂子と火原がそれを覗き込む。 そのジャケットには、至極綺麗に微笑む美しい女性。 CDの名は英語で『LOVE DAYS』と筆記体で書かれていた。 そしてその下に書かれていた名を見て、走り出した意味も泣きそうな表情の意味も分かった気がした。 「どうしたんだ?」 問う土浦に、CDを渡す。 受け取った土浦はそれを見て、目を見開いた。 「これ、俺の家にもある」 「えっ!?」 「母さんが渡してきたんだ。聴いたほうが良いって。どうしてこれがここに・・・・・・」 「ねぇ、冬海ちゃん。これってどうやって手に入れたのか分かる?」 土浦の手からCDを取り、香穂子は今度は冬海に見せた。 それを受け取り、冬海はしばし考えると遠慮がちに 「あの、これはうちの父のもので。父はあまりクラシックには詳しい人ではないんですけど、この方の演奏は好きだって言っていて・・・・・・。 これは、この人のお葬式で配られた物だと言っていました。母と一緒に参列したので、家にも1枚あって、私も偶に聴くんですけど・・・・・・今、知りました」 「あぁ、だから母さんも持ってたんだな。葬式行ったって言ってたし」 「じゃあつまりこれは・・・・・・」 この写真の女性の名であろう。 CD名の下に書かれた名は 『秋水唯奈』 「ちゃんのお母さんのお葬式で配られた物、ってことだよね?」 「では、このCDはさんのお母さんの演奏が入っているんですね」 志水の言葉に、香穂子は持っているCDを見つめた。 そして側にあるオーディオ機器に気付き、提案をした。 「ねぇ、聴いてみようよ」 もちろん、肯定の頷きが返ってきて そのCDをオーディオ機器に入れ、再生ボタンを押した。   ++++++++++++++++++ すいません。 1話につめるつもりが、彼が出るのは次の話になってしまいました。 これで30話目です!(序章があるので第29楽章で) 頑張ったな・・・・・・と思います。 でもまだ合宿編。 先は長いです(汗)
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