夕食を終え、各々行動を取り始める。 ソファーに腰掛けて休む者や、本や新聞を読む者。 自室に戻る者や、練習へ向かう者。 は、リビングテーブルの上に置かれていた携帯電話を手に取り サブ画面に『着信アリ』の文字を見て、携帯電話を開いた。 そして電話を掛けてきた者の名を確認して、呟いた。 「あお君から電話だ」 その言葉を、直ぐ側にいた香穂子は聞き逃さなかった。 の口から発された、男子と思われる者の名を。 は扉へと向かいながら、電話を掛け 「・・・・・・・・・あっ、あお君?」 相手が出ると、嬉しそうにその声は跳ねて、顔には笑みが浮かんだ。 「ごめんね、ご飯食べてたの。それでどうしたの?」 背を向けているから、彼らに表情は見えていない。 ただ、発された名前と跳ねた声はしっかりと聞こえていた。 扉が閉められるまでを目で追い、そして見えなくなると同時に香穂子は 小さく叫んだ。 「あお君って誰よ!!」 それは、その名を聞いていた皆の疑問を代弁した言葉だった。  第十四楽章 ただいまリビングにいるのは 香穂子・冬海・火原・土浦・志水だ。 金澤もいるが、彼らの話をバックミュージックにスポーツ新聞に目を通している。 志水も他の四人の話しているような位置にいるが、本を読んでいるので話を聞いているかは不明だ。 たぶん、話は耳に入らず本に没頭しているのだろう。 「彼氏がいるなんて聞いてない!」 「えっ、ちゃんに彼氏がいるの・・・・・・」 「落ち着けって、日野」 「落ち着けるわけないじゃない。そんな大事なことを私に言ってくれないなんて・・・・・・。 私とちゃんの関係ってそんなに薄いものだったのッ??!!」 「だから落ち着けって。出会ってまだ二ヶ月くらいだろ?薄くてもしょうがないんじゃねぇの」 我を失いかけている香穂子の発した言葉に、心に名の付かぬ痛みを覚えた火原。 呆れ半分戸惑い四分の一、残り興味の土浦は、香穂子をどうにか落ち着かせようとしている。 だが、その口から発されたデリカシーの欠けた言葉に向けて、香穂子は蛇のように土浦を睨んだ。 「時間なんて関係ないわ。心よ、心!」 「はいはい。つか、決まったわけじゃないだろ?」 「そうだけど・・・・・・。でも、声を聞いて嬉しそうにしてたし」 「本当に、恋人・・・なの?」 「火原先輩。だから決まったわけじゃないですって」 「あの・・・・・・」 大丈夫か、と肩を掴んで揺さぶりたくなるくらい動揺している火原の疑問を土浦は否定した。 そんな上級生三人に圧倒され、おろおろしながらも 冬海は自分の意見を述べようと、少し出来た言葉の間にどうにか自分の言葉を入れることに成功した。 結果、三人の視線が一気に集中されることとなり、怖くて怯んでしまった。 「あー、えと、ごめんね、冬海ちゃん。熱くなっちゃって・・・・・・で、どうしたの?」 自分達がしてしまったことを察した香穂子は申し訳なさそうに微苦笑した。 冬海の表情にゆとりが戻る。 「少し前のことなんですけど。あの、私、ちゃんが男の人と手を繋いで歩いているのを見まして・・・・・・」 「手っ!?」 「それで、どんな人だったの?」 「えっと・・・背が高くて金髪で、耳に幾つかピアスが開いていて・・・・・・年上の人だと思います」 過剰反応を示す火原は無視され、興味津々に香穂子はずずいと身を乗り出して冬海に問う。 記憶を手繰って、冬海は相手の身体的特徴を出来るだけ思い出すよう頑張った。 「兄貴、ってことも考えられるんじゃないか?」 「でも、手なんて繋ぐ?私もお兄ちゃんいるけど、手なんて幼稚園の頃に繋いだのが最後よ」 「それはお前んちの場合だろ?んちは、ほらなんか特殊な感じだろ。兄貴達はみんなシスコン気味だし。特にあの、たつきって人」 「そうだね。きっとそうだよ!」 火原は土浦に同調するが、二年二人はその想いを察していた。 「(そうあって欲しいのね)」 「(そうあって欲しいんだな)」 気になる子、だから。 火原はそう思っているが、その想いを香穂子は 漢字一文字で表していた。 「とにかく、気になるからちゃんが戻ってくるまで待ちましょう」 「はぁ?」 「強制だからね」 「強制かよ!つーか、戻ってくるのかよ」 「戻ってくるわよ。烏龍茶がここにあるもの」 見なさいよ、とでも言うように香穂子はそれをビシッと指差した。 テーブルの上に、コップに注がれた烏龍茶。 横目でそれを確認し、土浦は 確かに気になるが、そう思っている自分がなんだか嫌で、らしくなくて 部屋へと戻ろうと立ち上がろうとした・・・・・・が、 「土浦も気になるんだろ?」 服の裾を火原に捕まえられ、立とうにも立てない。 「いや、それはあんただろ」と言い返したかったが、 行くなよ、とでも言いたそうな目で見つめられ、まるで子犬を捨てる人のような気分になり 「(あ゛―、ったく!)待てば良いんだろ!」 やけになり、乱暴に胡坐をかきなおした。 「そうそう。待てば良いのよ。たぶんもう直ぐ戻ってくると思うし」 時計を見れば、時が過ぎるのは早いようで が出て行ってから三十分経っていた。 「つーか長ぇな、電話」 「そう?女の子なんてこんなものでしょ?」 「相手男でもか?」 「さぁ?相手にもよるんじゃないかな?」 「女の子って普通どれくらい電話するの?」 「そうですね・・・・・・一時間は軽く」 「一時間!?考えられねぇ・・・・・・」 「冬海ちゃんもそれくらいするの?」 「あっ、いえ。私はそこまでは・・・・・・。母に怒られてしまいますし」 そんな話をしていたら カチャリと扉が開いて。 視線をそちらへ向けると、が立っていた。 「ちゃん!」 「あっ、はい!」 反射的に名を呼んだ香穂子に反射的に返事をして。 は皆の輪に加わった。 「で、何ですか?」 「お前の電話「ちょっと待って!」 さっさと話を終わらせて部屋へ戻ろうと思った土浦が話を切り出したのだが、 直ぐに香穂子に止められてしまった。 「何だよ」 「そっちじゃなくて、冬海ちゃん情報が先!」 「えっ、私のですか」 「ちゃん!」 「はい!えと・・・・・・」 「つい最近、金髪で長身で耳に幾つもピアスを開けた年上の男性と歩いていたって本当?」 はしばし考え、その情報と自分の頭の中の映像がリンクし 「はい。歩いてましたけど、それが・・・・・・」 「やっぱり彼氏がいるのね・・・・・・!」 「彼っ!違いますよ!あれはお兄ちゃんです!!」 肯定した途端、見開かれた瞳を向けられて。 香穂子はワザとらしく、口元を片手で覆った。 その言葉をは慌てて訂正すると、今度は違う意味での驚きの瞳が向けられた。 「ほらみろ」 「でも、普通お兄ちゃんと手を繋いで歩いたりしないでしょ!?」 「えと、うちは特殊みたいで。だいたい二人で買い物に行ったりすると、手繋がれるんです。 それを見られて、今回みたいに彼氏と間違えられて訂正するのに大変だったときもありますね」 は恥ずかしそうに苦笑いをした。 一先ず、安堵する。 手を繋いでいた人は恋人ではなかった。 では、電話をしていた人は・・・・・・? 「じゃあ、今さっき電話をしていた人は?」 「え?」 小さなハプニングのきっかけをつくった一本の電話。 その相手は十中八九、性別♂。 香穂子は真剣な眼差しで、10p程に近付いて問うた。 「男の子?」 「はい、男の子ですけど・・・・・・」 「彼氏?」 「違いますよ。いませんって、彼氏なんて。電話をしていたのは、物心つく前からずーっと一緒の、幼馴染の男の子です。 ちなみに香穂子先輩と同い年ですよ」 また、彼氏なのかと聞かれ、は苦笑しつつもそれを否定した。 安堵の表情は見えないが、ほっと胸を撫で下ろしたのは、果たしてここに何人いるのか。 「本当にただの幼馴染なの?」 「はい。・・・・・・あっ、でもただのではないです」 「どういうこと?」 「あお君は、幼馴染であって家族であって、何でも話せる相談相手であって・・・・・・」 柔らかな微笑みが、一瞬だけ闇に沈んだ。 だが直ぐに、満面の笑みを浮かべて。 「私の、命の恩人です」 「「「命の恩人?」」」 「はい」 〔命〕という重い言葉。 恩人というのは助けたという事。 それは、どういう事? 「あお君」という幼馴染は、どんな状況からを助けたのだろうか。 疑問が広がる。 は、ゆっくりと瞳を閉じて。 あの日のことを、思い出した。 動かない心が、ゆっくりと動き出した あの日のことを。   ++++++++++++++++++ 香穂子が壊れ気味です。 でも、私の中の香穂子ってこんな感じ(汗) 犬夜叉のかごめみたいなイメージなのです。 次は回想。過去話です。 分からない方に。 「あお君」とは「加地葵」君のことです。
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