数日後。
ルルの言っていたことが……の願っていたことが現実となった。
コンクールの参加者を発表した紙。
音楽科の生徒の名が並ぶ一番下に、『追加参加者』として、の名前はあったのだ。
もう一人の、普通科の生徒の名と共に。
第六楽章
コンクールに参加するということが全校生徒に知れ渡った今、もう後戻りは出来ない。
音楽科の人間を差し置いて参加するのだから、音楽科の生徒でを良く思ってない
人間はたくさんいるだろう。
その人達に「やっぱり普通科はこの程度か」とか思われるのは嫌だし、〔魔法のトランペット〕という、
言ってしまえば〔ずるい物〕を使って参加するのだから、良い演奏をしなければ。
だからは一生懸命練習に励んでいた。
昼休みも返上で練習。
そう決めたは、トランペットを手に、音楽棟の屋上へと向かっていた。
ルルとここで落ち合う約束があったからだ。
屋上の扉を勢い良く開けると、眩しい日差しが照っていて、は手をかざした。
別にあの童謡を思い出したわけではないが、日が差し込んだ掌は赤くて少し綺麗だ。
「ルル」
誰もいないことは分かっているのに、小さな声で呼んでみる。
まだ実感が沸いていないからだ。
誰もいないところで誰かの名前を読んでいれば変な子だと思われてしまう。
『ここですわ』
するといきなり、目の前にルルが現れた。
『早かったですわね』
「うん。急いでお昼食べたから」
ちゃんと噛みましたか?とルルは心配そうに問うた後、をここに呼んだ理由、
つまり本題へと話を移した。
『以外にもう一人、普通科の生徒がいらしたでしょ?』
その問いには今日の朝見た紙を思い出し
「……うん。日…野先輩だっけ?」
『えぇ。日野香穂子さん。普通科の二年生ですわ』
「で、日野先輩がどうしたの?」
がそう問うと、ルルは唇を突き出して頬をまるで風船のように膨らました。
『お察しなさって下さい!つまり、香穂子さんもファータが見えるんですのよ』
「えっ!?ルルいつ日野先輩と出会ったの!?」
驚き慌てて、そして嬉しそうに言葉を発す。
それとは反対に、ルルは呆れたように右手を頬に当て、ハァとため息をついた。
『私の他にもう一人ファータがいるんですのよ。リリといいますの。香穂子さんはリリと出会ったんですのよ。
まぁ、が私を見たときみたいに逃げてしまって、まだお話はしていないようですけど』
「そうなんだ……なんか嬉しいな、普通科の人で私以外にも参加者がいるなんて。しかも
ファータが見える!先輩だけど……仲良くなれると良いな」
頬を赤らめてふわりと微笑んでいるを見て、ルルは『そうですわね』と微笑した。
『香穂子さんにお会いしたいと思いますか?リリも一緒に』
は頷いた。
「会いたい!それでいっぱいお話しするの。ルルと出会ったときのこととか、これからのこととか」
『それは、宜しいですわね。それでは、リリとお話をして来ますので、香穂子さんとお会い出来る日が分かったら、今日中にお伝えしますわ。
それでは、練習頑張って下さいね』
ポン、と一瞬でルルは消えた・・・否、見えなくなった。
私以外にもファータが見える人がいる……。
私以外にも普通科で、魔法を使ってコンクールに出る人がいる……!
は興奮で熱くなる胸に心地よさを覚え、今なら上手にトランペットが吹ける。
そんな気がしていた。
ルルからトランペットを貰った日から、家でも練習をしていた。
兄や父に色々問われる度に(「そのトランペットどうしたんだよ」「何でトランペットなんて始めたんだ?」など)、誤魔化しながら。
兄達に聞いてもらったりもしたものの、あの日のような音……あの彼に褒められた音は
未だ出すことは出来ていなかった。
何を吹こう。
どんな曲を奏でよう。
……そうだ、あの曲……なんていう曲だっけ?
有名な曲のはず……。
あのテンポの良い、まるで兵隊さんが歩いているようなイメージが浮かんでくる曲。
全部吹けるか分からないけど……吹けるよね。
だって、魔法のトランペットだもん。
一緒に、奏でよ。
は大きく息を吸い込んで、気持ち良さそうに吹き始めた。
そう……確かこんな音だ。
の表情と同じように、曲の表情も嬉しそうで気持ち良さそうだ。
この小さな青空の下の演奏会を壊さぬよう、彼はゆっくりと扉を開いた。
鼓動が少し速いのは、この曲を間近で聴くために走ってきたからでもあるが、
のその表情を見てのものでもあった。
演奏が終わると、は満足そうに息を吐いた。
たくさんの息を使うため、呼吸は少し乱れている。
でも、平均的な女子高校生より肺活量はとてもあると思われる。
はトランペットを見て嬉しそうに笑った。
その表情を見て、彼はドキッとし、それを隠すように拍手をした。
は拍手の聞こえる方をバッと振り向き、彼を視界に入れた途端、驚きの声を上げた。
「和樹先輩!」
「凄い上手だった!ちゃん、トランペットだったんだね」
一歩一歩、火原はに近付いていき、の前で止まるとにこりと笑った。
「えっ、何時からいたんですか!?」
「演奏が始まってちょっとしたくらいかな?」
「声をかけてくれれば良かったのに……」
「そんなこと出来ないよ。演奏を途中で止めるなんて」
は火原の制服を見て、ハッと思い出した。
そっか……和樹先輩って音楽科だもんね。
体格とかは体育会系なのに。
……いったい、どんな楽器でどんな音色を奏でるんだろう。
「そうだ!ちゃん、コンクール出場おめでとう」
唐突に言われ、はきょとんと首を傾げた。
それを見て、火原は苦笑する。
「まさかちゃんも私はコンクールに関係ありません!とか言わないよね」
「もって……?」
はますます首を傾げた。
「普通科でもう一人コンクールに出る子いるでしょ?」
その問いにはパチンと手を叩き
「日野香穂子先輩!……日野先輩がどうかなさったんですか?」
「あぁ、何かさっきね、職員室で会ってちょっと話したんだけど。楽器は何かとか聞いてたら、私は関係ないんです!
って言って職員室から出て行っちゃったんだよね……俺何か変なこと言ったかなぁ」
しょぼんと肩を落とす火原を見て、今度はは苦笑した。
火原に対してではなく、日野に対してだ。
「普通科から選ばれたので、まだしっかりと状況が把握出来てないんじゃないんですか?
私もまだ夢のようですし……」
「夢じゃないよ!だってちゃんあんなに上手かったじゃん!俺も負けないように頑張らなくちゃ」
「……ありがとうございます」
あの時の彼に自分の音を褒められたときと同じ感情を覚えた。
この、心地よい感じ。
少し恥ずかしいけど、それもまた良くて。
は少し頬を染めて、柔らかく微笑んだ。
まるで、今ちょうど満開を迎えている桜のように。
火原はその笑顔を見て、こちらも今時期である真っ赤なチューリップのように頬を染めた。
「(俺、何かおかしいぞ。なんだ、この胸のドキドキ……)」
火原がそんな感情に襲われていることなど、は露知らず、話を切り出した。
「和樹先輩もコンクール出場おめでとうございます」
「あっ、さんきゅー」
おめでとう、と発表されてから幾人もの人達に言われてきたけど、これが一番嬉しかった。
「和樹先輩は何の楽器を専攻しているんですか?」
「ん、俺?ちゃんと同じトランペットだよ。ほら」
にぃと笑って、持っていたトランペットの入った箱をの見える位置まで上げた。
「今度、一緒に練習しようよ」
知らぬ間に心の願いが外に出ていた。
断られたら嫌だ!とは不思議と思わず、何故かそこには満足感。
「はい。喜んで!」
そのの言葉に、火原は小さくガッツポーズをした。
「ちなみにね、さっきちゃんが吹いてた曲。双頭の鷲の旗の下には俺がトランペットと始めるきっかけとなった曲なんだ」
「あっ、あの曲、双頭の鷲の旗の下にっていう曲だったんですか」
初めて知った、という反応に火原は少し驚く。
「知らずに吹いていたの?」
「はい……なんだか吹きたくなって」
火原は目を真ん丸くし、これが天才ってやつなのかな?と思った。
実際は〔天才〕ではなく〔魔法〕なのだが。
ファータが見えたのだから、音楽の才能はあるのだろう。
ルルの言っていた通り。
「じゃあ、今度、そのきっかけを聞かせてくださいね」
「ちゃんもね」
えっ……私がトランペットを始めた理由?
魔法……って言えないし、信じてもらえないだろうな。
いや、和樹先輩なら信じそうかも……ううん、言えない!
変な子だって思われたくないし。
あー、でも和樹先輩の話を聞くってことは自分のことも―――……
私から言ったことだし……!
自分で言ったのは良いが、そう返され、悩むだった。
+++++++++++
コルダのストックがこれで終わってしまった……(早ッ
書かなければ…でも今は書く気なし(ぉぃ
火原先輩贔屓です、私。
一番出てくると思います。
書きやすいし。