確かあれは、もう三年も前のことになるだろうか。 リゼンブールに錬金術師に長ける兄弟と女性がいると聞き、 中尉・・・その頃は少尉か、と勧誘に行ったときのことだ。 私は初め、兄弟の兄は31歳、女性はそれより2つ年上だと聞いていた。 しかしそれは、村の憲兵である老人によって間違いだと知ったのだが・・・・・・ 彼らはやっと十を過ぎたばかりの、子供だった。    〜ちょっと昔話〜 コンコン コンコン 戸を叩いても反応がなく、人がいる気配もなかった。 「留守か?」 「わし、裏見て来ますわ」 ロイ・マスタング中佐は扉を開き、中を確かめる。 机の上に散乱する本や紙。 その上に置かれていた少年が写る写真が妙にアンバランスで、ロイはそれを手に取った。 そして奥の部屋の戸を開けた。 そこで見たものは・・・・・・ 錬成陣と、夥しい量の血。 ロイもリザ・ホークアイ少尉も、驚きを隠せぬ顔をする。 「これは・・・血痕?」 床を見ると、ボトルや袋があった。 ロイはそれを見て、何かを察す。 その時 「中佐ぁ、裏にもいませんや。きっと・・・」 「どこだ!」 報告をしに来た憲兵の言葉をロイは遮る。 「へ?」 「エルリック兄弟とやらはどこだ!」 「へ・・・へぇ、家にいないって事はロックベルさん家かと・・・」 憲兵は驚きつつも、そう言った。 「案内しろ!」とロイ達は急いでその、「ロックベルさん家」へと向った。 ドンドン ドンドンドン エルリック家の戸を叩くときよりも激しく戸を叩く。 「うるさいよデン。お客さんには・・・」 小さな老いた女性が元気のなさそうに戸を開けたのを見、ロイは 「失礼、ロックベルさん」 と、無理やり家へと入っていった。 「軍人がいきなりなんだい!」 老婆は叫ぶ。 「すみません。エルリック兄弟がここにいると聞きましたので」 ホークアイ中尉が事情を話し、ロイは辺りを見渡した。 そして気付く。 車椅子に乗った、右手と左足のない少年と、それを押す鎧に。 その死んだような目を見て、ロイは怒りを露わにし、少年の胸倉を掴んだ。 「君達の家に行ったぞ。なんだあの有様は!!何を作った!!」 少年は今にも泣きそうな顔をして唇を噛む。 鎧が、ロイの右手を掴んで言う。 「ごめんなさい、許してください」と。 ロイは鎧を見る。 鎧はまだ、謝り続ける。 「ごめんなさい。ごめんなさい」 そこへ一人の少女が現れ、鎧の隣に立った。 「許してあげて」 今にも泣きそうな、しかし冷めた目でロイを見る。 「君は・・・」 「と言います。二人の幼なじみです」 「君が、」 「はい」 「知っているんですか?」というように、少女・は首を傾げた。 「高額な研究費の支給、特殊文献の閲覧・・・・・・」 ロイはエルリック兄弟と老婆、そしてに国家錬金術師について話し始めた。 「国の研究機関、その他施設の利用など・・・国家錬金術師になれば様々な特権が得られます。その代わり、軍の要請には 絶対服従の身になるわけですが。一般人では手の届かぬ研究が可能になるのです。この子達が元の身体に戻る方法も、 あるいは・・・」 そこで鎧が言葉を発す。 「でも、錬金術は大衆のためにあるものだと・・・」 「そう。それゆえに「軍の狗」などと言われている」 「この子らに国家資格を取れるだけの力量があると?」 遠くの扉で、金髪の少女が心配そうに様子を伺っていた。 「エルリック家に残された錬成陣と人体練成の家庭、そして・・・・・・魂の練成を なしとげた事で確信しました」 老婆は吸い始めた煙草の煙をはく。 「・・・・・・・・・マスタング中佐。この子が血まみれで転がり込んで来た後にね、 あたしはこの子の家に行ったのさ。あれは・・・家の裏に埋葬したよ。あれは・・・」 「あれ」を思い出して、老婆は強く唇を噛み締める。 「あれは人間なんかじゃなかった!!あんなおそろしい物を作りだす技術なのかい、 錬金術ってのは!!あんたは!!またこの子らをそっちの道に引きずり込もうって のかい!!」 ロイはしばし間をおき 「ロックベルさん。私はこの子達に強制している訳ではありません。ただ私は可能性を提示する!このまま鎧の弟と絶望と 共に一生を終えるか!元に戻る可能性をも求めて軍に頭を垂れるか!―――決めるのは君達だ」 と、エルリック兄弟を見た。 「―――今日はこれで失礼する。その気になったらイーストシティの司令部に来るといい。 力になれるだろう」 ロイは鎧に封筒と何かが書かれている紙を渡した。 「帰るぞ」 「はい」 「じゃあさよならね、お嬢さん」 ホークアイは立ち上がり、少女を見た。 少女もつられ、立ち上がり 「あっ・・・ウィンリィ・・・です」 躊躇しながらも手を差し出した。 「そう、ウィンリィちゃん。また会えるといいわね」 と小さな手を優しく握った。 そしてロイの後を歩く。 ロイが戸に手をかけたとき、後ろから服を引っ張られ「何だ?」と後ろを振り向いた。 そこには「」と名乗った少女がいた。 今回、勧誘すべき錬金術師の一人だ。 「何か用かな、お嬢さん」 ロイはしっかりとと向き合った。 は表情ない目でロイを見上げ、小さな声を発した。 「軍は、エドとアルだけじゃなくて、私も必要としてくれているんですか?」 その言葉に、ロイは疑問をもつ。 「どういう意味だ」 「さっき国家錬金術師について話してくれたとき、エドとアル達のことについてしか 触れていなかったから、私はこの場にどうしているのだろうって思っていたんです。 あの場にいさせてくれたということは、私も必要としてくれているということでしょうか?」 ロイは微笑み 「あぁ。軍は君も必要としている」 の目に、光が灯った気がした。 「だったら・・・」 後ろで心配そうに金髪の少女がの服を握る。 「連れていって下さい、軍へ」 「良いのか。そんな安易に決めてしまって」 「はい」 のその目は、決心揺るぎないものだった。 「なら荷物の用意ができたら駅に来たまえ。待っている」 「はい!」 少女は、嬉しそうに笑った。 あの笑顔を可愛いと思ったのは確かだが、まさか十以上も年下の少女に恋を してしまうとは思ってもいなかった。 あの頃はただ子供としか見ていなかったのに。 いつの間にか、大人の女性へと変わっていたことに戸惑った。 たぶんその時からだろう。 少佐に好意を抱き始めたのは。 「・・・・・・佐」 禁忌を犯した彼女を、どうにかして救いたかった。 あの日涙を流した少女を、少しは闇から救う事ができたのだろうか。 「大佐・・・・・・」 いつか、私を好きになってくれるときがくるのだろうか。 「大佐、起きて下さい・・・・・・大佐!!」 「うわぁっ!!」 大きな声に驚いて、顔を上げるとそこには少佐がいた。 「な、なんだね。いきなり大声をだして」 「大佐が勤務中に寝ているのが悪いんです。早くこの書類に目を通してサイン しちゃって下さい」 目線を右に移すと、山積みの書類があった。 「少し、手伝ってくれないか」 「駄目です。溜めた大佐が悪いんですからね」 「書類に目を通すだけで良いから!」 「目を通すだけって・・・・・・分かりました。一応、貸しもあることですし」 「貸し?」 「あの日、大佐は私を闇から少しだけ救ってくれました。乾ききったはずの涙を 溢れさせてくれました」 少佐は優しく、しかし少し哀しげ微笑んだ。 「でも、まだ恋愛対象の男性は一人としていませんから。もちろん大佐もです。 だから、答えはもう少し待ってくださいね。どれくらいの時間がかかるかは 分かりませんけど」 「出来れば早めに答えをだしてほしいものだな。良い返事を待っているよ」 「それは大佐の仕事ぶり次第ですね」 「痛いところをつくな・・・君は」 「そうですか?」 少佐は楽しそうに笑う。 それを見ていたら、私もなぜか楽しくなった。 どうやら私は、少しだけ彼女を闇から救う事が出来たらしい。 あとは、あの日無我夢中で言っていた言葉の 返事を待つのみだ。    +++++++++ 漫画読んでたらフッと思い浮かんだので書いてみました。 如何でしたか? ワンドリ参加中。清き一票を!!
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