BACK/ NEXT降り積もったばかりの雪のように白くはない。 かといって、暗闇のように真っ黒でもない。 完璧じゃないから。 真っ白にならなくちゃ。真っ黒にならなくちゃ。 もうならなくて良い。 後に残った、中途半端な灰色の自分。 完璧が嫌いな私。 壊れかけた私。 〜雪が溶けだす頃〜 今学期の学期末試験。 ホグワーツでは、少し喫驚なことが起きた。 「今回はどうしたのです、ミス.」 彼女は何も答えない。 尋ねているが副校長であり、己の寮監のミネルバ・マクゴナガルであることを知っていてもだ。 「答えられないのですか」 それでも彼女は何も答えない。 ガラス玉のように、生気の抜けた瞳を遥か遠くに向けている。 マクゴナガルは困ったように息を吐いた。 「今日は良いです。話が出来るようになったら私のところへ来なさい」 ここでも彼女は何の言葉も発さず、ただ軽く礼をして、その部屋を後にした。 喫驚の原因は彼女である。 彼女は今現在六年生で、もう少しで最高学年の七年生となる容姿端麗成績優秀な グリフィンドール生だ。 全て首席とまではいかないが、ほとんどの試験で上位に入り、O.W.LやN.E.W.Tでも良い成績を修めていた・・・・・・ はずなのだが。 今回の学期末試験、彼女はとんでもない成績をとったのだ。 順位でいうなら中の下。 今まで教師にも生徒にも〈優等生〉としてみられてきた彼女を心配する者は少なくはなかった。 ある人は言う。 彼女はこの頃おかしいと。 ある人は言う。 彼女はこの頃元気がないと。 ある人は言う。 彼女の弟が入学したときから彼女は少しずつ変わっていったと。 ある人は言う。 クリスマス休暇後、彼女は人との関わりをあまりもたなくなったと。 その理由を知る者は、ホグワーツには誰一人としていない。 彼女は今、裸足だった。 さっきまで履いていた靴は、雪が解け始めたばかりの地面に脱ぎ捨てられてある。 彼女は裸足で雪の上を歩いていた。 冷たくないなんてことはないだろう。 しかし、彼女の表情は冷たさなんて感じてないようで。 そして何もかも、感じてないようだった。 彼女は雪を一掬い、空に散りばめる様に上へと放り投げた。 キラキラと、結晶は一瞬だけ輝き、溶け落ちる。 虚空を見つめ、彼女は後ろへと倒れた。 雪の音がした。 彼女はローブにマフラーをしてるだけという格好なのに、そのままずっと倒れ続けていた。 そして顔を覆う。 白く長い綺麗な指が、彼女の顔を覆い隠す。 声を出さずに、彼女は泣いていた。 見ている者がいたことにも気づかずに。 今の今までずっと、彼女が靴を放り投げてからずっと。 魔法薬学教授のセブルス・スネイプは彼女を見ていた。 初めは、ちょうど通りかかった時、わざわざ裸足になって雪の中を歩きだす彼女が異質だと思い、観察していただけだった。 彼も、彼女の成績が異様なほど下がったことに、顔にださないながらもとても驚いていた者の一人であったから。 雪に埋もれる彼女の元へ、彼は歩き出す。 泣いているなんて思っていなかったから。 気分が悪くて倒れたなら、見ていた者として医務室へ連れて行く義務があると思ったからだ。 しかし、彼女を見てみて彼はばつが悪いように眉間の皺を深めた。 彼女は泣いていたのだ。 必死になって声を押し殺して。 声にならない悲痛を空へと、雪へと向けていたのだ。 「何故、泣いている」 言って彼は自分で驚いた。 返答を待ってみるが、返答はない。 「なぜ泣いていると聞いている。口がきけないのか、お前は」 彼女は何も言わない。 それでも彼は言葉を発し続ける。 己の意思ではなくて、口が・・・心が勝手に動くから。 「なぜこんな冷たい大地に裸足で降り立ち、そしてそこに倒れているのだ。お前は この穢れ始めた白い大地が好きなのか」 今までピクリとも動かなかった彼女が動いた。 今の今まで顔を覆っていた手をとり、彼を見上げ見つめた。 そして 「真っ白よりも、穢れた白の方が好き。完璧なのは嫌いだから。私はもう、完璧を追う必要はないの」 やっと言葉を発す。 意味不明な文章に彼は疑問符をあげた。 「完璧なものは全て、穢れて壊れれば良い。私のように。表面だけの完璧も。全て。 それは皆、私を刺すから」 また意味不明な言葉を発し、彼女はゆっくりと立ち上がった。 彼は疑問符をあげたまま、静かに彼女を見つめる。 彼女は今にも壊れそうに、綺麗な微笑を浮かべた。 それと同時に、まるでシャボン玉が弾けた様に彼は疑問符を消し去り、しっかりと彼女と向き合った。 「さっきの行動、そして言葉の意味はどういうことだ」 「・・・・・箒で飛んでいると、無性に自分が馬鹿らしくなるんです。どこへでも行ける気がして、どこへも行けない気がして」 話の繋がりがない。 しかし彼は怒りもせず、彼女の靴を拾い上げ彼女に渡した。 「死ぬつもりだったのか?言っておくが、これだけの量の自然の雪では、せいぜいしもやけて風邪をひくくらいだ」 彼女は靴を受け取り、立ったまま履く。 「死にませんよ、先生。だって私は弱いから」 「我輩は自らを死に至らしめることが強いとは思わん。生きるのが嫌になって死ぬ奴が弱者なのだ」 その言葉に、彼女は少し驚いた顔をした。 そして空を仰ぐ。 太陽が顔を覗かせ始めていた。 「それもそうですね。でも、私は強くありません。だから生きるんです。生きることが全てだから。 死ぬことは生きられるのに死んでいった人達に悪いから」 「なら良い。我輩がさっきした疑問に答えをださずに死なれるのはどうも気分が悪いからな」 凄い意地の張りようだと、自分で言っておきながら彼は己を笑った。 彼女は、雪のように冷たい、そして雪のように綺麗な微笑を浮かべ 「いつか今度、話すかもしれません」 歩き出した。 「先生、良い人かも」 呟いた声は、しっかりと彼の耳へと伝わっていた。 彼は生徒に、しかもグリフィンドール生にそんなことを言われたので静かに赤面する。 少し熱くなった頬にあたる、冷えた風がとても心地よかった。 ++++++++++ フッと浮かんでちゃちゃっと書きました。 続きも書く予定です。 シリアス不思議系(?)