あんなことを聞くから、みんなに知られてないか不安になった

    授業を終えて直ぐ、音楽科校舎へと向かった。 蓮君のクラスはまだ終わっていなかったので、廊下で待っていたらポツリポツリと クラスの人達が出てきた。終わったみたいね。 多くの子達が私に会釈なり挨拶なりをしていくのでそれに対応して ドアを手で軽く掴んで辺りを見回して 蓮君を見つけると、蓮君もちょうど私に気付いて荷物を持ってこちらへと 「お待たせしてしまってすいません」 「ううん、大丈夫よ」 「では、行きましょうか」 「そうね」 視線が向けられる。 敵意でないようなので気にせず歩く。 きっと蓮君と私が一緒に歩いているから。 だって蓮君、有名人だから。 * * * * * * * * * * * * *   練習室の扉を開ける。 ここは香穂ちゃんのことで、何回もお世話になっているからもう慣れていた。 「曲は何にしたの?」 ヴァイオリンの手入れをする蓮君に話しかけると、蓮君はヴァイオリンから顔を上げて私を見た。 「ヴィエニャフスキのスケルツォ・タランテラです」 あぁ、あの曲ね。 私は分かったというように手を叩いた。 蓮君はまたヴァイオリンの手入れをし始めたので、私はピアノの椅子に腰掛けて蓮君の方へと向けていた身体をピアノへと向けて。 蓋を開いて、指慣らしに音階を何度か弾いて。 シューベルトの『セレナード』 本来は思いを寄せる女性の家の窓辺で、男性が夕べに歌い奏する音楽なんだけど・・・・・・ 別に良いよね。好きなの、この曲。 ひっそりと切ない、夜闇のような恋を感じさせるから。 例えばもしこの曲を今、誰を想って弾いているのかと聞かれたら 答える気はないけれど・・・・・・相手は決まっている。 短い曲だから直ぐに弾き終わったので、もう一曲弾こうかと鍵盤から離した指をもう一度鍵盤に乗せ、弾こうとしたら 「それは、誰を想って弾いたんですか?」 問いが上から降ってきて、私は瞬に見上げた。 蓮君・・・・・・ヴァイオリンを持っているところから、手入れは終わったようね。 その視線は、私の本心を見透かしているようで。 私は強がるように微笑んだ。 「どうしてそんな事を聞くの?」 「・・・・・・好きなんですか?」 「何が?」 主語のない言葉に、私は疑問符をあげる。 何が?それとも・・・・・・誰が? 私の問いに、蓮君は一瞬渋るように視線を逸らして けれどまた私と向き合って、ゆっくりとその口を開いて。 その口から発された言葉に 「柚木先輩の事が好きなんですか?」 私は耳を疑った。 「えっ、なん・・・・・・その」 そのまま私は黙ってしまった。 目を見開いて、蓮君を見つめ。 何で、どうして? 心の中で何度も問う。 「・・・・・・沈黙はイエスと取りますよ」 口を開こうとしない私に痺れを切らしたのか、蓮君は小さく吐息して そんな意地悪なことを言ってきたから 「ちょっと、蓮君・・・・・・・・・・・・どうして?」 慌てたけど、落ち着こうって思ったから 大きく深呼吸をして、蓮君と視線を合わせて 落ち着いた声・言葉で私は問うた。 「好きなんですか?」 けれど蓮君はその疑問に答えてくれなくて。 私に答えろと言うように、同じ質問を投げかけてくる。 分かっているのよね、蓮君は。 だから聞くのでしょう?その言葉を。 梓馬に知られたわけでもないし、蓮君なら決して誰にも口外しないと思えたから。 私はもう一度、深呼吸をして息を整えて。 微笑を浮かべつつ 「えぇ、そうよ」 頷いた。 その時、蓮君の顔が曇ったような気がしたけれど、気のせいだったかしら。 だって瞬きをしてから見た表情は、何時もと何の変わりもなかったから。 「ねぇ、どうして分かったの?」 私の質問に、蓮君は何も言わず ただ微笑した。 その微笑が何故か、切なくて。 私は胸が締め付けられた。   +++++++++++++++++ 月森くんは何気に出てきます。 柚木を差し置いてでしゃばる回もあります。 今回もそれですね。
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