誰の言葉にも屈しない強さを下さい
何時かはね、来るだろうって思っていたの。
けれど、あの日の内に彼女達は来なかったから
私に一目置いていてくれているのかしら?なんて思ったりもした。
一目置かれている置かれていないということは置いておいて
やはり彼女達は来た。
上品な言葉を発し、微笑を浮かべ
「さん、ちょっと宜しいかしら?」
一対一ではなくて、三対一。
断っても、どうせ何かと理由をつけて連れて行こうとするのでしょう?
だったら受けて立つわ。
貴女達みたいに、表しか見えていない
幻想を追っているような方達に
決して私は負けたくないの。
だって、梓馬
私は貴方のことが好きだから。
* * * * * * * * * * * * * * * *
普通科校舎である楓館を抜けて、特別教室棟である柊館を抜けて。
音楽科校舎である桜館と柊館を結ぶ通路で彼女達は立ち止まった。
確かに、ここならあまり人は通らないわね・・・・・・。
なんて、一人納得してみる。
彼女達は私と向き合い、上品な微笑をみるみる憎悪へと変えていき
「貴女、何様のおつもりですの?」
きっと梓馬の親衛隊の隊長さんだと思われる子が上から目線で偉そうに言葉を
発した。
「何様のおつもり・・・・・・とはどういう意味でしょうか?」
しらんふりをして、私はきょとんと首を傾げる。
負けては駄目。怖くないわよ。
だって私は何も間違っていないのだから。
その言葉は彼女達の癇に障ってしまったらしく
罵声の嵐が吹く。
「どういう意味って・・・柚木様のことに決まっているでしょ!」
「梓馬のこと・・・ですか?」
「その呼び方、お止めになって下さらない!」
「そうよ!呼び捨てなんて図々しいわよ!!」
「図々しいも何も、昔からこう呼んでいるから今更直せと言われても難しいわね・・・・・・」
屈しない私に、彼女達はますます苛立ってきたらしく
眉間には皺が刻まれ、大人しくしていれば綺麗な顔も怒りで台無し。
形勢は良好。
勝利の風は私の方へ吹いている。
あともう一押しくらいすれば、引き下がるかしら?
「とにかく、柚木様にあまり近付かないでちょうだい」
「あら、どうして?」
「邪魔なのよ!柚木様は貴女一人のものではないのよ!」
「そうよ!それに、迷惑なの!私達にとっても柚木様にとっても」
「普通科と音楽科は違うのだから、お忙しい柚木様に変な影響を与えないで下さる?」
・・・・・・・・・・・・何も知らないくせに。
私は俯いた。
辛いのではない。悲しいのではない。
泣くからではない。
私の中から、怒りがふつふつと湧き上がってくる。
何も知らないくせに。
梓馬のこと。
悔しくて、怒りが込み上げてきて。
梓馬のこと知らない子達に何でここまで言われなければいけないの?って。
悔しい・・・・・・・・・何も知らないくせに、知ったようなふりをして。
梓馬に近付いて笑顔を浮かべて。
貴女達より、梓馬のことを知っているわ。
でも、高校に入学してから現在までの2年間は、良く知らないの。
けれど、貴女達よりは知っているわ、絶対に。
そして貴女達より、梓馬のことを
愛しているわ。
唇を強く噛んで、俯いていた顔を瞬に上げて。
その勢いで髪が乱れて。
彼女達を睨んで。
「梓馬のこと、何も知らないくせに!知らないくせに・・・知っているような口を利かないでよ!!」
「なっ・・・・・・貴女の方こそ、何も知らないくせに!!」
手を振り上げられて、叩かれると思って。
私は目を瞑った。
・・・・・・・・・けれど、何時までたっても痛みはこない。
そーっと目を開けると
「!!」
「駄目だよ、こんなことをしては」
「ゆ、柚木様・・・・・・」
そこには梓馬がいた。
叩かれなかったのは、梓馬が彼女の手を掴んで止めたから。
嘘・・・・・・どうして?何で?
―――そのときは助けに行ってあげるから心配しないで
あの時の言葉が甦る。
信じていたよ。
でも、こんなところまで来てくれるなんて、思わなかった・・・・・・。
彼女達の顔は見る見る真っ青になっていく。
逃げる事も出来ないらしく、固まっている。
それは私も一緒で。
「行くよ、」
梓馬は私の手首を握り、歩き出した。
引っ張られるようにして、ちょっとよろけながら私も歩く。
途中で立ち止まって、梓馬は彼女達の方を見て
「今度、こんなことしたら許さないからね。大切な、僕の婚約者なんだから」
発した言葉は
彼女よりもきっと、私を驚かせた。
ねぇ、この頃の貴方の言動は私を驚かせてばかりよ。
でも、今のが一番。
婚約者。
そうよ。私達は婚約者。
でも、結婚できるとは限らない。ただの候補者同士。
なのに、その言葉を
私達の関係を全く知らぬ人達に発した貴方は
何を思っているの?
何時もの貴方だったら、そんなこと言わないでしょう?
ねぇ、梓馬。
今にも零れ落ちそうな涙を堪えて
私は愛しい梓馬の背を見つめて
大好き、大好きよ、梓馬。
この胸に秘めたはずの想いが
抑えきれないほど溢れ出してきているのに気付いて。
愛しいその背中に何度も問いかけた。
ねぇ、梓馬。
貴方は私のことをどう思っているの?
+++++++++++++++++
もうそろそろ「誠恋パヴァーヌ」終わります。
あと3話?
柚木教は2年生中心だと思いますが、2年生は主人公に憧れをもっている子が多い(設定です)ので
3年生もいる、ということで。
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