想い、繋がった

    特別教室棟を抜けて、音楽科棟へ。 ひたすら私達は歩く。 歩くのが速くて、私は少し変な歩き方になりながらも、梓馬の背を見つめながら足を進めた。 梓馬は何も言わず、私の手を引いて階段を上っていく。 握られた手が、熱を帯びてゆく。 隠していたはずの想いがはちきれて 嬉しくて切なくて、涙が零れた。 屋上の扉を開くと、心地良い風が涙で頬を撫でていった。 放課後なのに誰もいないのは、コンクールの参加者が良く使うので 普通の生徒はほとんど立ち寄らなくなっているから。 やっと足を止めて、やっと愛しい人を見ると その瞳から涙を流していて。 柚木は一瞬、驚いたが、直ぐに柔らかな微笑を浮かべ、その涙に触れた。 「怖かった?」 「違っ・・・そうじゃなくて・・・・・・なんで助けに、来てくれたの?」 日焼け知らずの陶器のように白く美しい指先で涙を拭いながら、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。 柚木は頬に張り付いた髪をそっと取ってやった。 「約束しただろう?」 「だからって、あそこまで言う必要、ないでしょう?婚約者と言っても・・・、私達は、ただの候補者同士よ」 「でも、ああ言っておけばもうあんなことはしないだろう?」 「だからって・・・・・・・・・」 まだ何か言いたげなの華奢な手首を掴んで 言葉を遮るように、柚木はその身体を抱きしめた。 「梓、馬・・・・・・・・・?」 「お前は俺に何て言って欲しいんだ?」 「何てって・・・そんな・・・・・・」 「好きだ」 「えっ・・・・・・・・・」 会話になってない会話で、ふいに発された言葉。 初めはなんて言ったのか理解らなくて けれど、それがしっかりと頭へ・・・心へ入った瞬間 じんわりと暖かく、熱くなっていき 止まりかけていた涙を再度溶かして流れさす。 は目をぱちくりさせながら、柚木を見上げた。 「何?聞こえなかった?」 は首を横に振る。 そして震える唇から、溜め込んだ言葉を、想いを 吐き出した。 「・・・・・・からかって、ないよね?」 「この状況でからかうか、普通」 「だって、いきなり離れて・・・・・・でもまた、戻して。怖いの。また、離れて行っちゃうんじゃないかって。 不安なの・・・・・・あの時のような思いをするなんて」 零れ出す言葉は、もう止まらない。 自分でも、何て言っているのか良く分からないまま 想いは言の葉となり発されていく。 「好きだったの。梓馬のこと。・・・・・・でも、距離を置かれて、態度もそっけなくなって・・・・・・想いはもう、どこかへ仕舞ってしまおうって思ったわ。 だって、梓馬は、私のこと、好きじゃないって思ったから。でも、無理だった・・・・・・」 指で涙を拭ってやって、開かれた瞳に映すは微笑。 意地悪じゃない。偽りの優しさでもない。 本物の、愛するたった一人の女性 ( ひと ) だけに見せる極上の。 「じゃあ、今は?」 その問いに、は戸惑いつつ恥ずかしがりつつ 柚木を見上げて 「好き、梓馬のことが・・・・・・好きなッ、キャっ!」 離れた身体をまた唐突に、先程より強く強引に 引き寄せ抱きしめ、頭に口付けをするかのように顔を近づける。 「好きだ・・・・・・」 「うん・・・・・・・・・」 おそるおそる、柚木の背中に手を回して 全身で温もりを感じた。 「離すつもりは毛頭ないから、覚悟しておけよ」 「私だって」 埋めていた顔をあげて 笑顔で言葉を返して。 でもすぐさま、真剣な、悲しげな表情をして 「この関係は、内緒よ」 「分かってる。・・・特に、お祖母様に知られたら大変だ」 「そうね・・・・・・ほんと、誰になるのかしら」 「お前になる可能性が一番高いことは確かだろ。お祖母様の一番のお気に入りだし。 家族と同等・・・・・・もしくはそれ以上の扱いだ」 「でも、違うかもしれないわ」 「そうだとしても、俺はお前以外考えられない。お前でなければ・・・・・・」 「ありがとう」 微笑んだけど、不安だった。 嬉しかったけど、切なくなった。 けれどこれからは想いを隠さずにいけるから、 それだけでも、十分だと また柚木の胸に顔を埋めて 感じる温もりの中 端から見れば小さいかもしれないけれど 心温まる幸せを、ひたに感じていたのだった。   +++++++++++++++++ これいれてあと2話でした。 次で終わりです。
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