俺以外の奴のことなんて、考えなくていい
を迎えに教室へ行ったら、そこに彼女の姿はなかった。
教室には掃除をしている者と、掃除当番の友人を待っている者達しか見受けられない。
ちょうど扉まで来た生徒を呼び止めて問うと、“月森君と何処かへ行った”と教えてくれた。
月森か・・・・・・。
あいつがを好きなことは一目瞭然。
必要最低限の会話以外をしている姿はあまり見かけないのに、とは良く話しているのを見る。しかも、名前で呼んでいる。
誰にも見せない笑顔を見せ、たった一人のために演奏をする。
好きだという理由がなければ、なぜ彼がここまでに優しいのか分からないね。
呼び止めた生徒に礼を言って、俺はまた音楽科棟へと行く事にした。
どうせ携帯電話はマナーモードにしてあるだろうから、気付く可能性は少ない。
なので行きそうなところを手当たり次第見つけなければならなかった。
面倒くさいが仕方がない。
別に約束をしているわけでもないから、帰ってしまっても良いのだけれど
月森と一緒にいる、ということがひっかかる。
見つけて、何をしていたのか聞かないと、安心出来ない。
お前は俺のものだ。
他の男のことは、放っておけば良い。
子供染みた束縛心だってことくらい分かっている。
でも、やっと伝わったんだ。
やっと、想いが繋がったんだ。
このくらいの我が儘、言っても罰は当たらないだろう?
初めは屋上に行ってみる事にした。
昼休みに練習室を使った時、予約の紙に月森の名前はなかったから。
そして人が少ないところと言えば、屋上だろう。
外れたらまた考えるだけだ。
音楽科棟へ着き、屋上を目指し階段を上がる。
屋上への階段を上りだしたとき、月森が下がってきた。
どうやら当たりだったようだね。
「やぁ」
好意的な微笑を浮かべ、声をかけたら。
月森は返事の代わりに俺を睨んで、頭すら下げることなく階段を下って
見えなくなってしまった。
何故睨まれなければならないんだ。
俺が何かしたっていうのか?
に俺との関係を聞いた、とか?・・・・・・可能性は低いな。
日野には言うと言っていたが、他の奴らには秘密だと言っていた。
少しの苛立ちと疑問を覚えつつ
屋上の扉を開けると、直ぐ其処にはいた。
いきなり扉が開いた事に驚いたのか、肩をビクつかせ
恐る恐る振り向いた。
「梓馬・・・・・・」
その表情は、今にも泣き出してしまいそうで。
何故、そんな辛い顔をするんだ。
俺は近付いて、その頬にそっと触れた。
「どうしたんだ」
俺を見つめて、服を握る。
その手はカタカタと震えていて。
「どうしよう・・・私・・・・・・」
その声も、震えていた。
何が、誰が彼女をこんなにしたのか。
・・・・・・・・・月森か?
それしか考えられない。
憶測からくる苛立ちは
「蓮君に、謝らなくちゃ・・・・・・」
真へと変わった。
月森を追いかけるため、駆け出そうとするの華奢な手首を掴む。
「梓馬?」
「何があったの?」
「・・・・・・後で、話すから」
言い難そうに目を逸らす。
一体、月森に何をされた。
苛立ちは段々と大きくなり、俺を支配していく。
彼女への想いと共に。
「話すまでこの腕は離さない」
「ちょっ、梓馬・・・・・・っ」
「お前が何故そんなにも泣きそうな顔をして、震えているのか。理由を教えてくれない限り、俺は月森に苛立ちを覚えたままだ」
「そんな・・・・・・でも私、蓮君に・・・・・・」
「お前は恋人よりも他の男を優先するっていうのか?」
「そんなんじゃ・・・・・・」
「だったら話せよ」
掴んだ手に力を入れる。
は痛みで顔を歪ませた。
離さない。
「・・・・・・分かったわ」
了承したけれど、表情は納得していない。
逃げられては困るから、手は絶対に離さない。
「で、何があったんだ」
「蓮君に・・・・・・告白されたの」
思ったよりも大したことではなく、一先ず安心した。
けれど、これきしのことで・・・・・・もう答えは決まっていることで、なぜが辛そうな顔をしなければならないのかが分からなかった。
どちらかと言えば、辛いのは月森の方だろう?
「それで、何でお前はそんなに泣きそうな顔をしているんだ」
「だって、私、蓮君を傷つけてしまったから」
だからお前は、優しすぎるんだ。
俺は吐息をついて、を抱きしめた。
安心させたくて。
いきなりのことだったからか、身体は一瞬強張ったがだんだんと力が抜けていき、俺の背に手を回して制服を握る。
「お前が悲しむことではないよ。恋愛なんてそんなものだ。相手に伝えた想いが伝えただけ返ってくると思って恋をしている奴なんていないよ」
「でも・・・・・・」
「じゃあ、何。お前は俺と両想いだっていう絶対的な自信があって恋をしてたって言うの?」
「違っ!そんなこと思ったことないわ」
「だったら、月森だってそうだよ。お前に好きだと言ってもらいたかったんじゃなくて、ただ伝えたかったんだろ」
ゆっくりと離して、髪を撫でる。
これで大丈夫だろう、と思ったのに、はまだ満足いかないような顔で俺を見つめる。
「まだ何かあるのか」
「あの、ね・・・・・・蓮君は伝えるつもりで言ったんじゃないと思うの」
「どういうことだ」
「その、ね。蓮君、私達が昨日・・・あの、キスをしているところを見たらしいの。
でも、私のことは分からなかったみたいで、ピアノの前に座っていたから、相手は梓馬の前の伴奏者の子だと思っていてね」
そんなことあるわけないだろう。
以外の奴となんて、勘違いだとしても虫唾が走るね。
は顔を少し赤らめながら、つっかえつっかえ話していく。
「私が梓馬のことを好きだって知っている蓮君は・・・あっ、これは私が言ったんじゃなくて勘付かれたんだけどね。
梓馬のことを諦めたらどうかと言ってきたの。このままでは私は幸せになれないって」
「大層な言い分だな」
怒りを露わにしたかったが、まだの話は続くようだったからそれだけ言って口を閉じた。
は僕の怒りを感じ取ったらしく、少し焦っていた。
「でもね、私は今幸せだから・・・私、幸せよって言ったの。だって本当に、幸せだから。
梓馬との関係は言ってないけど、この気持ちに嘘はつきたくなかったの。
でも、私と梓馬の関係を知らないのだから、嘘だと反論してくるのは仕方がないことよね。
それで、ね・・・・・・あの、えっと・・・・・・」
「何だよ」
言い難そうに顔を赤らめて、機嫌を伺うように俺を見る。
俺と目が合うと、は咄嗟に逸らして俯いた。
「その、ね・・・・・・自分なら幸せに出来るのに、って・・・・・・抱きしめ、られたの」
俺以外の男が、を抱きしめた。
怒りが一瞬にして湧き上がり、俺を染め上げる。
の腕を引いて、強く抱きしめて。
乱暴にその唇を奪って。
「お前は俺のものだ」
「分かっているわよ。だから言いたくなかったんじゃない・・・梓馬が怒るのは、分かっていたから」
「秘密にしていて後々知ったときの方が怒るからな。ここで正直に話しておいて良かったな。キスだけで済んで」
「ッ!」
意地悪に、微笑んでやる。
身体はまだ離さない。離してやるものか。
俺の温もりが、消えないほど染み付くまで。
月森の感触が全て消えるまで。
「で、ちゃんと言ったんだろうな。その気持ちには答えられないって」
「・・・・・・言っていないからさっき蓮君を追いかけようとしていたんじゃない。それなのに梓馬が止めるから」
「お前が辛そうな顔をしていたから、直ぐにでも理由を知りたくてね。明日、ちゃんと言えよ」
「分かってる」
「俺との関係ばらしても良いから」
「え?」
「別に月森にばれるくらい大丈夫だろう。それに、あいつには俺達の関係を知っていてもらったほうがいい」
「何で?」
そんなの・・・・・・決まっているだろ?
「もうこの先、変な気を起こしてお前を抱きしめたりすることをさせないためさ」
「言わなくてもしないと思うけど・・・・・・」
「分からないだろう?男は狼って言うくらいだから」
「梓馬のこと?」
「お前な・・・・・・また襲って欲しいのか?」
「遠慮しておきます」
「明日まで待て、ということか・・・」
「えっ、違っ!」
「嘘だよ。でも、別に良いじゃないか。恋人なんだから」
顔を上げたの額にキスを落として。
「じゃあ、帰ろうか」
「うん」
手を繋ぎたいのを我慢して。
俺達は屋上を後にした。
並んで歩きながら。
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王子様は主人公のことになると、抑えられなくなるようです。
付き合い始めてから襲いすぎだ!
あと1話で終わる予定です。
なんだか読みにくくてすいません(汗)
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