貴女が笑顔でいてさえくれれば・・・

  会いたくなかった、というのが本音だった。 感情に任せて己の想いを吐き出し、しかもあのような行動に出てしまった自分がとても恥ずかしかった。 どんな顔をして会えば良いのか分からず、呼ばれた時は内心焦った。 それに、言われることは分かっていたから。 けれど断る口実もなく、もし断ってしまったら、関係が悪化する気がしたから 俺は頷いて先輩の後を追った。 その隣りで歩きたいなど願わない。 ただ貴女が幸せなら・・・・・・この胸は痛むけれど 貴女が幸せなら、それでいい。 * * * * * * * * * * * * * * * * 「ごめんなさい」 誰もいない屋上で、何の前振りもなしに頭を下げられた。 美しい黒髪がふんわりと流れ落ちる。 分かっていたことだけれど、いざ本人を目の前にしてその口から言葉を聞いたら 結構な重さで胸に圧し掛かってきた。 「顔を上げてください」 ゆっくりと顔を上げた貴女は、眉尻を下げて俺を上目遣いで見てきて。 身長差があるし、申し訳なさが行動に出ているようで俯き加減で見上げているのだからしょうがないのだろうけど、正直ドキッとした。 「答えは想像出来ていましたから。俺の方こそ、あのような行動に出てしまって・・・その、すいませんでした」 「あの、ね・・・そのごめんなさいもあるんだけど・・・・・・」 「まだ他に何か?」 言い難そうに視線を逸らす、その頬はなぜか赤く染まっていて。 その唇から発される言葉を、果たして想像出来ただろうか・・・・・・いや、出来るはずがない。 「心苦しいから、蓮君には言うね。香穂ちゃんは知っているけど。・・・・・・私ね、お付き合いしているの。梓馬と」 俺はその言葉が耳に入ってきて、目を見開いた。 お付き合いしている・・・・・・とは、恋人同士だということ。 現在進行形で。 「・・・・・・・・・え?」 直ぐには理解出来ず・・・頭は理解しようとせず、俺はしばし沈黙してから小さな疑問符をあげた。 今さっきの言葉で分かることを問うのは 信じられないとかそういうものではなく、 整理したくて。 「誰と誰がですか?」 「私と梓馬が」 「いつからですか?」 「つい最近よ」 「・・・・・・・・・・・・あっ、」 やっと、頭は理解した。 理解して、もう自分には1%の可能性さえも残っていないのだと思って。 期待なんて、していなかったが。 けれどこの心に重石は降ってこず、何故か安堵している自分がいることに気付いた。 「だからね、私、幸せよ。・・・・・・信じて、貰える?」 浮かんできたのは、並んで歩く二人の姿。 そのときの先輩の笑顔を見て、俺は挨拶をするのもやめた。 入っていけなくて。 入ってはいけないと思って。 あぁ、だから・・・・・・・・・ 「・・・・・・・はい」 「良かった・・・・・・あっ、だから、その・・・ね。蓮君の気持ちには・・・・・・」 「答えてくれなくていいです。貴女が幸せなら、それで」 元々、この想いを伝えるつもりはなかったのだから。 ただ彼女が、笑っていてくれれば良かった。 それが自分の隣りでないとしても。 好きになったあの笑顔が、消えさえしなければ。 先輩はその言葉にどこか不満そうで申し訳なさげで、何か言いたそうだったが 「ありがとう」 ただそう、微笑んだ。 この微笑みを、失って欲しくない。 優しくて柔らかな微笑を。 「これからも仲良くしてもらえる?」 「はい」 「良かった・・・・・・。それじゃあ、私帰るわね。ごめんなさい、時間を取らせてしまって。 では、また明日」 「さようなら」 スカートを翻して、俺に背を向けて。 そして先輩は、行ってしまった。 その先に待っているのは、愛する人なのだろうか。 出来れば隣りで、その笑顔を向けられる存在でありたかった。 けれど、貴女の笑顔の先には柚木先輩がいた。 嫉妬も、切なさも覚え この胸は何度も苦しくなった。 けれどあの日 並んで歩く 幸せそうな笑みを浮かべる二人を見て この胸はなぜか安堵した。 報われぬ恋だと、初めから分かっていたんだ。 この恋は 本物だった。 けれど、恋人という関係になりたいわけではなかった。 今までの関係を続けられれば 良かったんだ。 だからこれで 良かったんだ。 貴女はただ、笑っていて下さい。 愛しい人の隣りで そうすればこの胸は だんだんと痛みを忘れていくだろう。 恋という名ではない、愛しさを残して。 貴女への想いは胸へ仕舞って 何時か、大切な思い出へとなる日がくるから。 貴女のことが 先輩のことが 好きでした。   +++++++++++++++++ 『片恋フレビーレ』終わりです(たぶん) もしかしたら5話を書くかもしれません。 柚木と主人公を。 でも、どうでしょう・・・・・・。 次にいっていしまうかもしれません。 次は回想になる予定。 その次が第3セレ予定です。 切ない感情を、少しでも抱いていただければ嬉しいですが なんとなく未消化です。
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