嫉妬するさ。それがお前と同姓の奴でも。
お前は覚えているだろうか。
あの日。
俺の苛立ちは頂点に達した。
お前とまだ、気持ちが通ってなかった頃。
まだ俺が、決心をしていなかった頃。
素っ気無い態度をするようにさせたのは俺なのに、そのような態度を取られると落ち込んで。
側で仲良く話して、お前の笑顔を向けられている日野に酷く嫉妬して・・・・・・
だから、表してしまったんだ。本性を。
* * * * * * * * * * * * * * * *
生徒会で学内コンクールを学校行事として盛り上げようという意見が上がったため、
アンケートを取ることになった時。
日野には本性を見せたばかりで、そんな俺を悟ったお前の表情が見たかった。
俺が特定の女子と仲良くすることはまずないことは分かっているから。
それで、日野と親しいようにしている俺を見たお前が、どんな表情をするか。
・・・・・・少し、期待していたんだ。
その顔が曇ったら良い、と。
けれど、期待は見事に打ち破られた。
「香穂ちゃん?」
「あっ、先輩!」
後ろから声を掛けてきたお前を見ると、日野は嬉しそうに笑った。
さっきまで俺にはあんなに嫌そうな顔を向けていたのに・・・・・・まぁ、無理ないけどな。
「何をしているの?」
「あっ、アンケート答えてください」
「アンケート?」
首を傾げながら日野が手渡した紙を受け取ると、はじっくりとそれを読み
さらさらと記入をして、日野に手渡した。
その顔に、微笑が浮かぶ。
それは日野に向けて。
俺はその顔を、全く向けられていなくて。
少しだけ、イラついた。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
「大変ね、コンクールの参加も」
「あ゛―・・・というか、その〜・・・・・・」
「どうしたの?」
日野がちらりと俺を見た。
それと同時にも視線を一瞬だけ俺へと向ける。
視線も合わせられぬ時間、お互いの距離。
自分でしたくせに、虚しくて。
「先輩って、柚木先輩と・・・・・・」
「日野さん、調子はどう?」
助けを求めるのだろうということが感じ取れたため、俺はさりげなくその言葉を遮った。
日野の顔が引き攣る。
も俺を、やっとその瞳で捉えた。
「あ、えと、まぁまぁです」
「そっか。なら良かった。音楽科の人よりも普通科の人達の意見が欲しいから、宜しくね」
「はい」
「さんも、アンケートを宜しくね」
「もう書きました」
俺に言葉を向けて欲しくて、この想いを誰にも勘付かれないように無難な言葉を探して発す。
返された言葉は他人行儀で。
間に厚い壁が立ちはだかっている様に見えた。
「柚木君」
「何かな?」
「香穂ちゃんのこと、苛めないで下さいね」
「苛めるだなんて。そんなことするわけないだろう?おかしな事を言うね、さんは」
「そう。なら安心だわ」
俺に向けられる表情は変わらない。変わらず一定。
日野を庇って、俺を注意して。
顔を直ぐに日野へと向けた。
その表情は一変して、笑顔に変わる。
俺に向けられていたのは、誰にでも向ける愛想の良い表情だったのに。
苛立ちが募る。
その表情を、日野ではなく俺に・・・・・・日野ではなく。
なぜ、日野なんだ。
俺の中を黒の感情が支配し始めた。
「それじゃあ香穂ちゃん、頑張ってね」
「はい、頑張ります。あっ、明日大丈夫ですか?」
「明日?」
「はい。出来れば見ていただきたいんですけど」
「良いわよ。あまり長くは見てあげられないけれど」
「大丈夫です。ありがとうございます。じゃあ、さようなら」
「えぇ。また明日」
日野には軽く手を振って。
俺には声もかけず、ただ一瞥して軽く礼をしただけだった。
この関係を作ったのは俺なのだから、自業自得だと分かっているはずなのに
感情を、抑えられなかったんだ。
お前が、好きだから。
* * *
「あっ、そういえば」
放課後、二人きりの教室。
日が暮れてきて、教室は人工の明かりに打ち勝ってオレンジ色に染まっていく。
柚木が座っている席の前の席に座って本を読んでいたは、何かを思い出したかのように声を発し、顔を上げた。
「ずっと、気になっていたことがあったんだけど・・・・・・」
その言葉に対し、柚木は楽譜への書き込みをする手を止め、を見た。
「何?」
「あの・・・・・・、何で梓馬は香穂ちゃんに見せたの?」
は遠慮がちに恐る恐る問う。
柚木は悪戯に笑った。
「何を?」
分かっているくせに、と言いたそうに唇を少し尖がらせて。
しおりを挟んで本を閉じる。
「本性よ」
「あぁ・・・・・・イラついたから」
「何で?」
「理由も言わないといけないのか?」
「えぇ。気になるし・・・それに・・・・・・」
の頬が桜色に染まる。
恥ずかしげに、上目遣いで柚木を見て
少し間を開けてから、ゆっくりとその唇を開いた。
「それに、ちゃんとした理由を知らないと嫌なの。香穂ちゃんに、その、変な嫉妬を抱き続けてしまうから・・・・・・」
その言葉を聞いて柚木は柔らかく笑んで。
愛のこもった、愛の言葉のない言葉を発するのに至極時間を掛けた愛しい彼女の額に口付けて
「俺が日野にイラついたのは、お前と誰よりも仲が良いように見えたからだよ」
愛の言葉のない、愛が目一杯詰まった言葉を囁いた。
の頬は、まるで夕陽のように真っ赤に染まって
柔らかに微笑んだ。
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黒柚木さんは本性というか・・・裏?
白も柚木さんだから、本性というのはおかしい気もしますが。
裏だともっと黒くて悪い感じがするので、本性ということにしました。
『レトロスペッツィオーネ』はイタリア語で『回想』です。
女性が使う言葉のようですが・・・・・・はい。
今回は柚木さんの回想。
お次は主人公ちゃんの回想予定です。
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