ありきたりな日も、彼女に会うだけで特別に変わってしまう
登校は、車だって決まっている。
物心がつく頃から。
だから徒歩、ましてや自転車での登校は考えられなかった。
この坂道を歩くなんて・・・・・・面倒くさい。
今日も詰まらない、ありきたりな日々が始まろうとしていた。
だが、それは一瞬にして特別な日へと変わる。
目に映ったのは、彼女の姿だった。
日差しが強くなってきたからか日傘を差して、黒髪を揺らしてこの坂道をゆっくりと歩いている。
知っていた。
彼女はたまに、車ではなく徒歩で通っていることを。
家は俺の家よりだいぶ学校に近い。
「止めてくれ」
頭で考えるよりも行動するほうが早く、俺が運転手にそう告げていた。
これはチャンスだと、体が勝手に動いたのだろう。
車はブレーキをかけ、車はちょうど彼女の隣に止まった。
彼女は吃驚したようで、足を止め、車を見た。
窓ガラスはスモークになっているので、俺の顔は見えていない。
しかし俺だと分かっているだろう。
俺は窓を下ろし、彼女に顔を見せた。
これで、彼女の中の憶測が確信へと変わる。
「梓馬、さん・・・・・・」
「おはよう、」
驚き、まるで思考が停止しているような彼女とは反対に
俺は微笑を浮かべた。
何時もの。
表の俺の表情を。
「・・・・・・あっ、ぇと・・・おはよう。一体どうしたの?」
戸惑いながらも挨拶を仕返し、俺に問う。
何故問うのか。
そんなこと分かっている。
あれだけお互いの家以外での接触は避けていたのに、何故、今日車を止めてまで自分に声をかけたのか。
お互いの家での会話も、必要最低限せず、素っ気無い態度をとっていたのに・・・・・・
といった所だろう。
しかも前のように、呼び捨てで。
「別に。それより、時間大丈夫?そのスピードで歩いていたら時間ギリギリだと思うけど・・・・・・」
「えっ、嘘」
「本当」
「・・・・・・梓馬が突然声かけてくるから。それでは、私は急ぐので。えと、何か言いたいこと合ったらメール・・・・・・アドレス知ってたっけ?
知らなかったら電話で、お願いね。では、またね。ごきげんよう」
速度を上げて、歩き出そうとするの腕を
俺は掴んだ。
車のドアを開いて。
その華奢な手首を。
は反射的に振り返り、見開いた瞳で俺を見つめる。
俺も、見つめる。
一瞬、時間が止まった気がした。
このままでいたい。
このまま彼女の腕を掴んだまま、見つめ合っていたい。
・・・・・・そんなこと、出来ないってことくらい、分かっているさ。
「・・・・・・・・・何?」
恐る恐る口を開いた彼女の頬は、何故か桜色に染まっている。
・・・・・・それは、過信して良いのかな?
「乗っていきなよ」
「嫌よ。柚木教に目、つけられたくないもの」
「柚木教って・・・・・・・・・」
「和樹君がそう呼んでいたの。確かに親衛隊って言うより合っているわよね。
だってあの子達・・・・・・ちょっと、行き過ぎているところがあるし」
苦笑する。
言葉にした、男の名前。
俺と仲の良い奴・・・・・・だけど
独占欲が自分の中をざわざわと動き始める。
心を締め付けて、染めていく。
俺以外の男の名前をお前の口から聞きたくない。
でもそれを、表情には表さない。
言葉になんてもってのほか。
「大丈夫だよ」
だけど、少し行動に表してみた。
「キャッ」
腕を強く引いて無理矢理車に乗らせると、美尋は体勢を崩し、俺の上に倒れ込んでしまった。
事態を最小限で済ますためか、俺の服をギュッと掴んで。
俺は車からはみ出しているの脚を車の中に入れ、右手に持たれていた日傘を畳むと
「出してくれ」
「はい」
「えっ、えっ」
の了承を得ずに、車を発車させた。
は顔をあげ、背筋を伸ばし、狭い車内を見渡した。
服はまだ、掴まれたまま。
倒れ込んだ体勢のまま、その体勢にうつったので、俺の膝の上に座っている。
その時、いきなり車が揺れ
「えっ、わ、キャッ」
は少しよろめき、俺の首へとしがみ付いた。
艶やかな黒髪から薫る、花の香り。
直ぐそこにある、白い首筋。
思わずそこに、キスしてしまいたくなる。
このままでいたかった。
せめて、学校に着くまで。
しかし
は直ぐに腕を離し
「ごめんね。重かったでしょう?」
顔を赤らめながら、体を移動させて俺の隣に腰掛けてしまった。
「別に大丈夫だよ。重くない・・・というより軽いよ。ちゃんと食べてるの?」
「・・・・・・・・・・・・」
「ん?僕の顔に何かついてる?」
俺の問いに答えず、彼女は俺のことをじーっと見つめた。
そして、ふわりと微笑んだ。
「ううん。ただね、久しぶりだなって。こうやって二人で話すの」
「あぁ・・・・・・そういえばそうだね」
俺から引き離したのに、さも自分は今までそんなこと気にしていなかったのように振舞うのは、この想いを感じとられたくないから。
彼女を手に入れたい。
しかし、この想いに気付かれたくない。
矛盾した考え。
前者は行動的な俺で、後者は消極的な俺。
彼女との関係を一気に進めたいのに、今より少し進めば良いと思っている。
今までの自分からまだ抜け切れていないんだ。
これから少しずつ少しずつそこから抜け出して
この気持ちをお前に伝える。
お前がこの気持ちを受け止めてくれないことはない
なんて、俺は自分を過信している。
だって、自分が振られる姿を、想像なんて出来ないから。
きっと手に入れてみせる。
お前の、全てを。
俺だけのものに。
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止まっていた関係が、動き始める。
主人公にはモデルがいます。
モデルというか、書き進めていく中でなんとなくなイメージはあったのですがはっきりとしたイメージが浮かばず
どういう感じなんだろう、この子は・・・・・・?
などと思っていたら、いました!
『花の名前』の蝶子ちゃんです。
中身、ではなく、見た目、で。
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