彼女はみんなの姫君
学校に着き、運転手がドアを開け、車から降りる。
直ぐに運転手は彼女の方のドアを開け、彼女も車から降りた。
車がその場から去ると、俺達は並んで校舎へと歩き出した。
この光景を見たら、周りの皆はどう思うだろうか。
学校からの信頼も、生徒達からの人望も厚い俺達。
しかし、音楽科と普通科。
男と女。
他人の目には、どう映るのだろうか。
俺達が門を潜った途端、皆のざわめき方が変わった気がした。
もそれに気付いたらしく、嫌そうな顔をして俺を見る。
「このざわめき、視線・・・・・・友好的ではなさそうね」
「そう?」
「そうよ。それも、私に向けられている方が多いわ・・・・・・あぁ、なんで女の子ってこう僻みやすいのかしら。
嫌になっちゃうわ」
大きくため息を吐く。
確かに、言うとおりのようだ。
睨んでいるような瞳で見ているのは女子ばかりで、男子のほうはどちらかというと
苛つく部分はあるが諦めがついた・・・といった表情。
しかし、そのような視線ばかりではない。
後輩達の中には、俺達の組み合わせを見て「お似合いよね」とキャーキャー言っている女子もいる。
お互いの校舎へ一緒に向かっている間、話はほとんどしなかった。
・・・・・・いや、出来なかったというべきか。
お互い挨拶をしてくる人へ挨拶を返すことに忙しくて、話すことなんて出来なかった。
俺に好意を持っている女子達のことを、あまり良く考えたことなかったが
こういうときはウザいと思う。
話したいのに。
やっと、決心したのに。
邪魔をするな。
俺へ挨拶をしてくるのは大半女子だが、の場合女子:男子=7:3といったところだ。
に憧れを持つ後輩達は、皆、のことを『お姉さま』と呼び
「ごきげんよう、お姉さま」
と、微笑みながら挨拶をしていく。
もちろん美尋も合わせて「ごきげんよう」と柔らかな微笑で返す。
そこまでミーハーではない後輩達は、
「おはようございます、先輩」
と、普通に挨拶をしていく。
だいたいが名前で呼んでいる。
同学年の女子達は気を使わなくて良いからか、
「おはよ、!」
「、おは」
などと後輩達よりもややテンションが高い。
・・・・・・で、男達はというと
誰もがのことをまるで『姫君』のように見ている。
高嶺の花、近寄りがたい・・・・・・何故、って。
お嬢様育ちで、他の女子は比べ物にならないくらい柔らかな立ち振る舞い、品があるけれど話していると疲れてしまうほど上品すぎない言葉遣い。
『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』
ということわざは、確かに合っていると思う。
しかし、その誰もを惹きつける笑顔に魅了されてしまった者達は男女共にその考えを改める。
高嶺の花だけど、近寄りがたくない。
だから、男女共に人気を集めている。
ちなみに男達の挨拶の仕方は
「おはようございます、先輩」
「おはよう、」
「おはようございます、さん」
大体こんな感じで、呼び方は5パターン。
同級生は
『』『さん』『さん』
後輩は
『先輩』『先輩』
しかし影では、皆
『白百合の君』
と呼んでいることを俺は知っている。
誰が付けたのかは知らないが、それはどんどんと定着していっているようだ。
は知っているかどうか知らないが・・・・・・
俺に挨拶をして来た奴はを嫌な目で見て去っていく。
に挨拶をして来た女子は赤くなったりにやにやしながら俺を見て去っていく。
に挨拶をしてきた男子は自信を失くした様に俺を見て去っていく。
そんなことをしていたら、何も話さず校舎近くまで来ていて、別れなければなってしまった。
まだ別れたくなかった。
何か、何か美尋を惹きつける言葉を・・・・・・・・・
立ち止まるとはこちらを向いて微笑んだ。
「じゃあ、ここでお別れね。今日は送ってくれてありがとう」
「別にお礼されるようなことではないよ」
「それもそうね。おかげで柚木教に目を付けられて、何時呼び出しをされるのかドキドキよ」
苦笑気味に言う彼女からは、少しの恐怖も伝わってこなかった。
弱い奴ではないから、もし酷い事を言われても、潰れてしまうことはないだろう。
・・・・・・でも、あぁ、そうだ。
彼女を惹きつける言葉を、思いついた。
「そのときは助けに行ってあげるから心配しないで」
そう言った俺を、彼女は見つめた。
信じられない、といった様子で。
・・・・・・一体、俺はお前にどう思われているのだろうか心配になった。
は少し見開いた瞳を
「信じるわよ、その言葉」
ふんわりと微笑ませて
「じゃあ、またね」
と、俺に背を向けた・・・・・・と思ったら、もう一度俺の方を向いて、さっきよりも近付くと、
背伸びをして、俺の耳元でそっと囁いた。
「香穂ちゃんのこと、あまり苛めないであげてね」
そして、今度こそ背を向けて、普通科の波に友達を見つけて、一緒に普通科校舎へと
入っていった。
もしかして、気になっていた?
俺が日野にちょっかい出していること。
ねぇ、もし
日野にちょっかいを出しているのは君の所為、って言ったら、お前はどんな顔を
するだろう。
日野とお前が仲が良いのは知っていたから、日野は俺のことをお前に言うと思ったんだ。
そして、焼きもちでも焼いてくれないかな?
・・・・・・って、餓鬼っぽいこと考えていたんだ。
これは、ちょっと、成功だったみたいだな。
俺はくすり、と微笑むと
音楽科の校舎へ向かって、歩き出した。
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姫君なんです。
柚木さんが香穂子を苛める理由は単なる嫉妬、といったところでしょうか?
仲が良いので、香穂子と主人公。
それは後々分かります。
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